「青天を衝け」全話レビュー

『青天を衝け』40話「生きていてよかった」渋沢栄一と徳川慶喜、笑顔の別れ。次回最終回

吉沢亮主演NHK大河ドラマ『青天を衝け』。「日本資本主義の父」とも称され、幕末から明治を駆け抜けた実業家・渋沢栄一が主人公。40話のサブタイトルは「栄一、海を越えて」。日米関係を改善しようと渡米する栄一。その道中、伊藤博文(山崎育三郎)暗殺の報を受ける。激動の時代に向かう予感のなか、慶喜(草彅剛)の伝記編さんのための聞き取り取材が終わり、運命の主君との別れの時が訪れる。

吉沢亮主演、大森美香脚本の大河ドラマ「青天を衝け」第40話。
元・主君である徳川慶喜(草彅剛)の「人には生まれついての役割がある」という言葉に感銘を受け、実業界から引退した渋沢栄一(吉沢亮)。以降は民間外交に力を注いでいく。経済とはまた違った方向から、日本をよくするために励みたいという気持ちからだろう。

日本人排斥運動と尊王攘夷

この頃アメリカでは、移民してきた10万人以上の日本人を排斥しようという動きが起こっていた。低賃金でも熱心に働く日本人移民が、アメリカ労働者の敵になると考えられたからだ。
栄一たちはそんなことを案じながら、渡米実業団としてアメリカの各都市を巡ることになる。

「日本人児童を学校から退学させたり、日本人経営の店の不買運動まであるそうで……」

栄一の妻・兼子(大島優子)は「まあひどい」なんて驚いていたが、幕末、尊王攘夷にかぶれていた頃の栄一は、日本にやって来た外国人を斬り殺すとか、焼き討ちするとか、もっとひどいことを計画している。それから何だかんだあって、つぶそうと考えていた幕府に仕えることとなり、先進的な外国から学ぶことも多いと考えを変えている。
今回の渡米でも、あれほど敵視していたペリー提督やハリス公使の墓参りをしているほどだ。

「相手をきちんと知ろうとする心があれば、無益な憎しみ合いや悲劇は免れるんだ」

栄一はアメリカでの講演で、「相手を理解し、目を見て話すこと」の重要性を説いた。
この言葉は、むやみに日本人を敵視し、排斥しようとしているアメリカ西海岸の人たちに向けたものでもあり、かつて、会ったこともない外国人を殺そうと計画していた自分への言葉でもあるだろう。そして、今のネットでの誹謗中傷問題や、移民問題にも通じる話だ。

運命の主君・慶喜との別れ

渋沢栄一は享年91歳と、かなり長生きをしたため、知り合いが亡くなっていくのを多数見送ることとなる。本作も最終盤ということで、主要登場人物がドンドン死んでいく。

新政府に勤めていた頃、栄一の上司だった伊藤博文(山崎育三郎)や井上馨(福士誠治)。幼少の頃から栄一と行動を共にしてきた従兄弟の渋沢喜作(高良健吾)。そして、かつての主君にして江戸幕府最後の将軍・徳川慶喜。
1話での中で何人も死にすぎ! ほとんどがナレ死していく中、日本がドイツに宣戦布告したことを知り、興奮したまま死んでいった井上馨だけは、なぜかバタッとぶっ倒れる様が描かれていた。

中でもやはり、栄一が「運命の主君」としてきた慶喜との別れは印象的だ。
栄一が熱心に取り組んでいた、慶喜の伝記編さんのための聞き取り取材が終わる。

「これでようやく、正しく御前さまのことを、また幕末の世の真相を世間に知らしめることができる」

栄一の目的は、慶喜に対する世間の誤解を解き、偉業を後世に伝えるというもの。しかし慶喜としてはそんなことはどうでもよく、栄一個人に対するアンサーとして、聞き取り取材を受けていたのではないだろうか。

「パリから来た手紙にも、少しは答えを出すことができたかのう」

パリ滞在中に大政奉還や、その後の戊辰戦争の情報を知った栄一は、慶喜の弟・徳川昭武の代筆として、慶喜に行動の真意をただす手紙を送っていたのだ。

「私はあの頃からずっと、いつ死ぬべきだったのだろうと自分に問うてきた」
「しかし、ようやく今思うよ。生きていてよかった。話をすることができてよかった。楽しかったなぁ……」

大政奉還前後から、ずっと自分の思いを語らず、趣味に没頭しつつも、常に暗い顔をしていた慶喜。しかし、伝記の編さんがはじまり、聞き取り取材を受けるようになってからは、どことなく楽しそうな様子が見受けられた。

そして「生きていたよかった」。さらに栄一へも、

「感謝しておるぞ。尽未来際、共にいてくれて、感謝しておる」

運命の主君からこんなことを言われたら、栄一も「生きていたよかった」だろう。

「快なり! 快なり! 快なりじゃ!」

さまざまなことを乗り越えて晩年を迎え、縁側で笑い合うおじいちゃん二人(には全然見えないけど)。

慶喜との別れはナレーションではなく、もうちょっと見せてほしかった気もするが、あの笑顔だけで完全にやられてしまった。いろいろあったけど、生きててよかった!

ダメ息子・篤二は……

知り合いたちが次々と死んでいき、栄一も人生の総決算に入っていくが、いまだに決算し切れていないのが嫡男・篤二(泉澤祐希)の問題。かつての駆け落ち問題以降は、栄一の事業を手伝い、真面目に励んでいるようだが、どうも楽しそうではないのだ。

篤二の息子・敬三(笠松将)も大きくなり、生物学者を目指して研究に没頭している。こちらの方が、篤二が憧れた人生だったのかもしれない。息子の成長を喜びつつも、うらやむような感情もにじみ出ている。

そんな中、再び篤二がやらかした駆け落ち事件。妻や、敬三たち子どもを捨てて、美人芸者・玉蝶(江守沙矢)と暮らしはじめたのだ。
栄一は「お家の危機」とばかりに、即座に篤二の廃嫡を決定する。父親がいなくなったことで渋沢家にいづらい立場となった敬三に対し、喜作が言う。

「おめぇのオヤジはよくがんばっておった。ただ向いてなかったんだ」

幼くして実の母親を亡くし、父・栄一は仕事で家に居着かない。程なく継母もやってきて……。篤二がひねくれてしまう気持ちも分かるが、今回の駆け落ちの時点で篤二は40歳。実の母の愛情に飢えていて……とかじゃなく、真面目に仕事をして生きるのがホントに向いていない人なんだろう。

篤二の廃嫡は、息子・敬三の人生にも大きな影響を与える。
農科大学に進み、動物学を学びたいと思っている敬三だったが、栄一がやって来て、法科に進んで自分の跡取りとして実業界で励んでほしいと懇願したのだ。渋沢家の跡取りとしてのプレッシャーで篤二をつぶしてしまったのと同じことを敬三でも繰り返そうとしているようにも見えるが……。

ちなみに篤二はその後、渋沢家を継いだ敬三から屋敷&仕送りをもらいながら、「生活を楽しむことだけが商売みたいな、世にも気楽な一生を送った」とのこと。

……いいところないな、篤二。

『青天を衝け』全話レビュー第1話はこちら

『青天を衝け』39話。「あなたに比べたらまし」渋沢栄一のボンクラ息子が慶喜に爆弾発言
1975年群馬生まれ。各種面白記事でインターネットのみなさんのご機嫌をうかがうライター&イラストレーター。藤子・F・不二雄先生に憧れすぎています。
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