「青天を衝け」全話レビュー

最終回『青天を衝け』「今、日の本はどうなってる?」渋沢栄一の言葉が現代の日本人にも突き刺さる

吉沢亮主演NHK大河ドラマ『青天を衝け』。「日本資本主義の父」とも称され、幕末から明治を駆け抜けた実業家・渋沢栄一が主人公。最終回41話のサブタイトルは「青春はつづく」。老年を迎えた栄一(吉沢亮)は再び渡米、移民問題の解決などに尽力する。満州事変勃発、戦争へと向かっていく時代の中で、最期まで実業家でありつづけようとした男の姿を描く。

吉沢亮主演、大森美香脚本の大河ドラマ「青天を衝け」が最終回を迎えた。
明智光秀や西郷隆盛、真田幸村といった、超A級の歴史スターたちと比べると地味な存在である渋沢栄一。2024年度に刷新される新一万円札の肖像画に採用されたと報じられるまで、一般的な知名度はそこそこだったはずだ。
映画やドラマなどで取り上げられるケースも少なく、名前は把握していても具体的に何をした人なのかはよく知らない……くらいの存在だったのではないだろうか。本作では、ドラマ未開拓だった渋沢栄一を魅力的に描き、共通イメージとしての渋沢栄一像をバッチリと作りあげてくれた。

放送期間、2年は欲しかった

最終回では、渋沢栄一(吉沢亮)が91歳で天寿をまっとうするまでが描かれた。91歳は当時としては驚異的な長生き。大河ドラマの主人公としても、最長寿なのではないだろうか。
第1話での栄一は4歳だったから、全41話で87年間が描かれたことになる。それ故に、ラスト2話では一気に27年分を描くというジェットコースター展開だった。

そもそも、前作『麒麟がくる』の撮影遅延により放送開始が2月からという異例のスタートを切った本作。さらに東京オリンピック・パラリンピックでの休止もはさまり、例年、50話近く放送されるところ、41話で最終回という事情があった。そのため全体的に展開が早めではあったが、特に明治時代に入って以降は駆け足すぎた。

脚本の大森美香としてはやはり、江戸時代~幕末編にウエイトを置いていたのだろう。晩年まで交流を続けた徳川慶喜をはじめ、西郷隆盛や土方歳三など、幕末スターたちとの接点など見どころも多く、ドラマにしやすい時期ではある。

とはいえ、渋沢栄一が本当に活躍したのはやはり明治時代以降。実業界に進出してからだ。500社以上もの企業に関わっているので、いちいち描いてもいられないのだろうが、その多くが日本初となる事業を手がけた画期的な企業。その辺がほとんど描かれず、すっ飛ばされていたのが残念だった。
スポットを当てられたのは、日本初の銀行となった第一国立銀行の立ち上げと、海運業を巡る岩崎弥太郎とのバトルくらいか。
このエピソードにしても、もっとじっくり見せれば池井戸潤ドラマのような盛り上がりになったはずだが、それぞれ1~2話でサクッと解決してしまっている。
渋沢栄一のいろいろありすぎる人生を描くには、せめて2年くらい欲しかったところだ。

普通のおじいちゃん・渋沢栄一

実業界での活躍っぷりの描写は物足りなかったものの、実業界で大成功したレジェンド・栄一ではなく、幕末~明治にかけて必死にもがきながら励んだ青年・渋沢栄一を描こうという意図が感じられた。
栄一の追悼集会で、孫の敬三はこう語っていた。

「私は、世間でよく祖父が『近代資本主義の父』だとか『実業界の大御所』などと、偉人のように言われるのを何となく的外れな批評に思っておりました」

尊王攘夷にハマッて妻子を捨てて突っ走ってしまったり、主義主張をコロコロ変えたり、愛人を作って子どもを生ませちゃったり、嫡男・篤二の子育てに失敗したり……。栄一の、偉人的ではないダメな面も多く描かれている。特に愛人や嫡男・篤二の件は大河ドラマでは触れられないだろうと思いきや、かなり踏み込んで描かれていた(現実には愛人&子どもは山ほどいただようだが)。

晩年の栄一は、帝国主義の色を強めていった日本の中で、世界平和を訴え続けていた。しかし、その思いもむなしく、栄一の死後、間もなく日本は太平洋戦争に突入していく。
デカい偉業も残したけど、失敗したことや達成できなかったこともたくさん残して死んでいった普通のおじいちゃん・渋沢栄一。

本作ではそんな栄一像を描こうとしていたのではないだろうか。

栄一の言葉が現代の日本人に刺さる

すべての歴史は現代につながっているものだが、中でも栄一の手がけた事業はダイレクトに現代につながっているものが多い。現在のみずほ銀行や東京証券取引所、王子製紙、キリンやサッポロ、一橋大学をはじめとした大学などなど……。
栄一の死後、血洗島を訪れた敬三の前に、若き日の栄一が現れてこんなことを聞いていた。

「今、日の本はどうなってる?」
「それが……恥ずかしくてとても言えません」

時期的に、まさに日本が太平洋戦争に突入していこうとしていた時代。世界平和を訴えていた栄一に報告することは、はばかられる。
そして、この言葉は現代の日本人にも突き刺さってくる。

「今の日本は心のない張りぼてだ」

現代の日本も、栄一に報告するにはだいぶ恥ずかしい状態ではないだろうか。

ただ、ドラマのラスト。91歳で死んでからいきなり青春時代に若返り、血洗島を駆け回るヤング・栄一の姿には希望も感じられた。栄一の物語と現代は一直線につながっており、栄一の理想はまだ道半ば。現代日本人もまた、まだ青春まっただ中にあると言えるのではないだろうか。

その後の「青天を衝け紀行」で、最終回で誕生した栄一のひ孫・雅英ご本人が登場したのにはビックリした。栄一と直接関わりがあった人がまだご存命とは!
まさに、現代につながる近代日本のルーツをリアルに感じられる大河ドラマだった。

*最終回再放送は29日午後1:05から。総集編は、2022年1月3日午前8:15から4部構成で放送予定。

『青天を衝け』全話レビュー第1話はこちら

『青天を衝け』40話「生きていてよかった」渋沢栄一と徳川慶喜、笑顔の別れ。次回最終回
1975年群馬生まれ。各種面白記事でインターネットのみなさんのご機嫌をうかがうライター&イラストレーター。藤子・F・不二雄先生に憧れすぎています。
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