「青天を衝け」全話レビュー

『青天を衝け』39話。「あなたに比べたらまし」渋沢栄一のボンクラ息子が慶喜に爆弾発言

吉沢亮主演NHK大河ドラマ『青天を衝け』。「日本資本主義の父」とも称され、幕末から明治を駆け抜けた実業家・渋沢栄一が主人公。39話「栄一と戦争」では、日露戦争が勃発し、栄一(吉沢亮)は病に倒れる。だが見舞いに訪れた慶喜(草彅剛)が涙ながらに伝記への協力を承諾すると、喜びのあまり快復に向かう。

吉沢亮主演、大森美香脚本の大河ドラマ「青天を衝け」第39話。渋沢栄一(吉沢亮)の念願だった徳川慶喜(草彅剛)の伝記の編さんがスタートする。

慶喜パワーで栄一の病気がみるみる回復

慶喜は当初、「私は誰に忘れ去られようが、たとえただの趣味に生きる世捨て人と思われようが構わぬ」と、かたくなに拒んでいた。しかし、インフルエンザで倒れ、生死の境をさまよっていた栄一を見舞った際、自分の過去を語ることをオッケーしたのだ。

「そなただけは、どうか尽未来際、生きてくれ。生きてくれたら何でも話そう。そなたともっと話がしたいのだ。だから死なないでくれ」

慶喜は幕末に、平岡円四郎をはじめ、心を許した家臣を次々に失っている。それが、大政奉還前後の孤独を生んだともいえる。そんな慶喜にとって栄一は、最後に残された心を許せる存在なのだろう。
栄一がフランスから帰国した際も、水戸に行って水戸藩士に襲われることを恐れ、駿府に引き留めている。

栄一としても「運命の主君」としてほれ込み、仕えてきた慶喜からこんなうれしいことを言われたら、そりゃあ病気も治るというものだろう。「その後、栄一はみるみる回復しました」のナレーションはそのまんますぎて、さすがに笑った。

栄一の嫡男・篤二のボンクラすぎ発言

慶喜が伝記の制作をオッケーしたきっかけは、死にそうになっている栄一を励ますための意味合いが強かったのだろう。しかしその直前に、慶喜は栄一の嫡男・篤二(泉澤祐希)から、なかなかひどいことを言われている。

「僕も逃げたい! 僕も逃げたい! それでも、あなたに比べたらましなはずです。あなたが背負っていたのは日本だ。日本すべてを捨てて逃げた。それなのに今も平然と……」

病床の栄一から「あとは頼んだぞ、嫡男はお前だ。この家を頼む」と“家”を託された篤二。
しかし栄一のメイン事業である第一国立銀行頭取の後継には別の者が指名され、周囲からも「渋沢先生無しでこの家はどうなる?」と、篤二を不安視する声が聞こえてきていた。

渋沢家の嫡男というプレッシャー。それでいて仕事の面ではあまり期待されていないというコンプレックス。これらの重圧から「僕も逃げたい!」との話なのだが、どうしてそれを、たまたま訪れていた慶喜にぶつける!?

篤二が慶喜にはじめて引き合わされたとき、慶喜の趣味グッズの数々に見入っていた。また別の機会には「私も、父よりよほどあなた様の生き方に憧れます」なんて語っている。
商売に戦争にと、イケイケドンドンな拡大路線を進む栄一よりも、将軍の座を捨てて隠居をし、趣味に生きる慶喜的な生き方にシンパシーを感じている、デリケートな青年だと思っていたのに……。
篤二が憧れていたのは、慶喜が「逃げたのに今も平然と趣味に生きている」ことだったのか!?

普通にダメ息子だった……。
慶喜は、自らの「汚名がそそがれることは望まぬ」とは言っていたが、栄一の息子からまでこんなことを言われ、「さすがにちょっと説明しとかないとな」という気持ちがわいた可能性はある。

人は誰が何を言おうと、戦争をしたくなれば必ずする

栄一たち元・幕臣が一番知りたかったのはやはり、戊辰戦争の緒戦となった鳥羽・伏見の戦いで敗走し、慶喜が大坂城を捨てて江戸に逃亡してしまった件。
当時、パリにいた栄一もこの報せを受け、

「臆病、暗愚とののしられると分かりながら、兵を置き去りにし、江戸へ戻られたのはいかなることでございましょう」

と激高していた。
時代が明治となって以降も、多くを語ろうとしてこなかった慶喜が、ついに幕末を語った。当時、幕府をおとしめようと挑発を繰り返す薩摩藩を「討つべし」と訴える家臣たちを制止できなくなっていたという。

「出兵を許さぬなら、私を刺してでも薩摩を討つと言いだした」

幕府を守るための「薩摩討つべし」なのに、そのために「慶喜を刺してでも」となってくるとわけが分からない。薩摩憎しのあまり、みんな頭がおかしくなっていたのだろう。
慶喜も「どうにでも勝手にせよ」ということで鳥羽・伏見の戦いがはじまってしまったが、もともと真っ正面から戦っては勝ち目のない戦だった。
そのため、慶喜も戦を回避して幕府を救う道を模索していたのだが……。

「人は誰が何を言おうと、戦争をしたくなれば必ずするのだ。欲望は道徳や倫理よりずっと強い。ひとたび敵と思えばいくらでも憎み、残酷にもなれる」

現在の世界情勢や、SNSでのトラブルにも通じる。
栄一も、日露戦争開戦の際、政府の「ロシア討つべし」の声に押されて「戦争は経済上に大いなる利益を与える」なんて、戦争を推進する演説を行っていた。結果、ロシアから賠償金を取ることができず、経済的に大打撃を受けたわけだが。

慶喜は語る。

「多くの命が失われ、この先は何としても己が戦の種になることだけは避けたいと思い、光を消して余生を送ってきた」
「人には生まれついての役割がある。隠遁は私の最後の役割だったのかもしれない」

実業界からの引退を宣言の栄一

栄一は、かつての主君・慶喜の語った「役割」という言葉にかなり胸を打たれたようだ。「日本を守るため」励んできたものの、やったことといえば、商売敵との争いや、外国との戦争。

「今の日本は 心のない張りぼてだ。そうしてしまったのは私たちだ。私が止めねば」

いまだに五代友厚(ディーン・フジオカ)からも指摘された「私が」という、自我が出まくっているのが気になるけど……。栄一は「私は近く、実業界を引退する」と宣言する。
ビジネスの一線から退き、経済面、軍事面で拡大路線を突き進む日本を、どうにかしたいと考えているのだろう。

ただ、そうなると事業はボンクラ・篤二が引き継ぐことになりそうだが……大丈夫かな?

『青天を衝け』全話レビュー第1話はこちら

『青天を衝け』38話。成功者・渋沢栄一、ダメ息子・篤二に悩まされる
1975年群馬生まれ。各種面白記事でインターネットのみなさんのご機嫌をうかがうライター&イラストレーター。藤子・F・不二雄先生に憧れすぎています。
ドラマレビュー