「青天を衝け」全話レビュー

『青天を衝け』27話。渋沢栄一と五代サマが出会った!フランスで儲けた「シブサワ」とは?

吉沢亮主演NHK大河ドラマ「青天を衝け」。「日本資本主義の父」とも称され、幕末から明治を駆け抜けた実業家・渋沢栄一を主人公に物語が進みます。一度は断った駿府藩の勘定組頭を引き受け、パリで学んだ知識を生かし、武士と商人が力を合わせて商いを営む「商法会所」を設立した篤太夫(吉沢亮)。駿府藩の財政改革に乗り出します。
『青天を衝け』26話「恥を胸に刻んで前に進みたい」渋沢栄一、新時代での戦い方を知る

吉沢亮主演、大森美香脚本の大河ドラマ「青天を衝け」第27話。
主君・徳川慶喜(草なぎ剛)が隠居する駿府で、渋沢栄一改め篤太夫(吉沢亮)が日本資本主義の父としての本領を発揮しはじめる。

財政カッツカツな徳川家

篤太夫と慶喜の再会にともない、他のドラマでは無視されるケースの多い、明治時代以降の徳川家がどうなっていたのかという事情が描かれて興味深かった。
幕府時代の直轄領を奪われ、徳川家の石高は800万石→70万石と10分の1以下に。それでも、行き場のないかつての幕臣たちは慶喜が隠居している駿府についてきてしまった。

当然、そのすべてを雇うことはできないけど、放ってもおけないので「扶持米」という、気持ち程度の手当を渡している。
元・幕臣たちがそれで食っていくのは難しいし、藩の財政もカッツカツ。幕臣たちの忠誠心の強さと、慶喜の人望のせいで、みんな財政難に陥っているという悲しい状況なのだ。

そこで勘定組頭として白羽の矢が立てられたのが篤太夫。
慶喜からの言葉を徳川昭武(板垣李光人)に伝えるため水戸藩に行ったら、平岡円四郎や原市之進のように暗殺される可能性がある。そう考えた慶喜の思いやりから引き留められた部分もあるのだろう。
でもそれ以上に、パリ留学において、日本からは明らかに不足する程度の資金しか送られてこない中、うまいことやり繰りして黒字状態で帰国した篤太夫の手腕に頼らないと、もう財政がどうにもならないという藩の事情もあったはずだ。

ところが、篤太夫は「百姓の矜持として、百姓か商いをしていきたい」と仕官を断る。それを聞いた慶喜は「やはりおかしろき男だ」とホッコリ。側近たちから「あのようなお顔をなさるのだな」と驚かれるほど。

一方、篤太夫が慶喜のいる駿府に留まり、水戸には来られないと知った昭武は、「やはり、兄と渋沢との仲は スペシアルなのだな」と心底残念そうな表情を浮かべていた。
篤太夫、この兄弟からどんだけ好かれているのか。

武士の時代の終わり

結局、藩の財政がホントにマズイと知った篤太夫は、なし崩しで勘定組頭を引き受けることになり、フランスで学んできたコンパニーの実現に向けて動き出す。
武士と商人、藩が協力して資金や物品、労働力、知恵などを出し合い、大きな商売をする。そして、みんなで大きな利益を上げる。今後、篤太夫が提唱していくことになる「合本主義」の実践だ。

とはいえ、ちょっと前まで「士農工商」の身分制度で生きてきた武士たちに、この仕組みを理解させるのは困難だろう。みんな「我らに商人と共に働けというのか?」と怒り心頭。

「武士の皆さんには刀を捨て、算盤勘定を。商人の皆さんにはこの駿府の一端を担うという矜持を持っていただきたい」
篤太夫は「士農工商」から脱却し、新しい時代にふさわしい関係性で仕事をすることを呼びかける。
篤太夫が一橋家に仕官するきっかけを作った武闘派・川村恵十郎(波岡一喜)も当初、商人たちとの協業には強固に反対していたが、やがて刀を外し、ぎこちな~い手で商人の仕事をやるようになっていく。

「ただ禄が欲しくて(駿府に)流れてきたのではない。徳川のために何かできぬかと……」
この言葉に、当時の幕臣たちの複雑な気持ちが込められている。

武士の時代が終わった今、徳川のためにやるべきことは、いつまでもサムライぶっていることではないと悟ったのだろう。

やはりビジュアルが強すぎる成一郎と土方

武士の時代の終焉を象徴する出来事として、渋沢成一郎(高良健吾)や土方歳三(町田啓太)が参戦していた箱館戦争も、新政府軍の勝利で終結している。
もうなくなってる幕府に忠義を尽くして、誰も望んでいない戦を続けていた彼らは、駿府についてきちゃった幕臣以上にノーフューチャーな存在だ。

土方は「新撰組の名に恥じぬよう」死ぬ覚悟をしたようだが、なぜか成一郎には「お主も(篤太夫と同じように)オレとは違う。生のにおいがする。お主は生きろ」と、逃げるように勧める。成一郎も素直に逃げ出して……。
ドラマの本筋からは外れたエピソードなので、あまり時間が取られていないのは仕方がないが、この展開は唐突に感じた。

さらに、成一郎は平九郎(岡田健史)が死んだ場面を見ていないはずなのに、なぜか回想シーンに混ざってくるという……。
さっきまで死ぬ覚悟を決めていたのに、泣きながら生き抜くことを決心する成一郎、燃える五稜郭をバックに目を閉じる土方。

ビジュアルが強すぎるため、細かい疑問は置いといて、まんまと引き込まれてしまったが。

五代サマとの出会い

今回は、後に「東の渋沢、西の五代」と称されることになる五代才助(ディーン・フジオカ)との出会いも描かれた(以前、チョロッとニアミスはしていたが)。
幕府を守るために資金調達をしようとして失敗した篤太夫と、薩摩の資金調達を担って討幕に成功した五代。現時点では五代の方が一歩リードといったところだろうか。
今回の邂逅でも、篤太夫を「肥料に詳しい兄ちゃん」くらいにしか認識しなかったのではないだろうか。

しかしその後、フランスからの報告書で、五代の頭に「シブサワ」という名前が刻み込まれることになる。
昭武に随行した「シブサワ」は、フランスで4万両の利益を蓄えたらしい。

駿府藩では「渋沢篤太夫」という者が商人と組んだ商いでメチャクチャ儲けているらしい。
五代のみならず、新政府内の首脳陣の間でも「シブサワ」の名が話題となる。
というのも、徳川家も財政カッツカツだけど、新政府もさらに財政がヤバイから。

そもそも地方の一藩でしかなかった薩摩や長州が、いきなり日本全体を統治することに無理がある。なおかつ幕府軍との戦争にもメチャクチャ金を使ってしまった。
苦し紛れに「太政官札」という紙幣を発行しまくったものの、新政府自体が全然信用させていないため、価値が安定しないという状況。
金もうけの才能があるヤツは、徳川家の家臣であっても気になってしまうのだろう。

大隈重信(大倉孝二)や伊藤博文(山崎育三郎)といった、時代のメイン級な人物たちから認知された篤太夫。歴史の表舞台に登場する日も近そうだ。

『青天を衝け』全話レビュー第1話はこちら

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『青天を衝け』26話「恥を胸に刻んで前に進みたい」渋沢栄一、新時代での戦い方を知る
1975年群馬生まれ。各種面白記事でインターネットのみなさんのご機嫌をうかがうライター&イラストレーター。藤子・F・不二雄先生に憧れすぎています。
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