「青天を衝け」全話レビュー

『青天を衝け』23話。おそらくドラマ史上初!大政奉還を見届ける徳川家康

吉沢亮主演NHK大河ドラマ「青天を衝け」。「日本資本主義の父」とも称され、幕末から明治を駆け抜けた実業家・渋沢栄一を主人公に物語が進みます。パリでの生活を続けるなかで、髷を落とし、刀を外し、洋装に変えた篤太夫(吉沢亮)は当面の資金繰りに奔走します。一方、日本では、慶喜(草なぎ剛)が西郷(博多華丸)や大久保(石丸幹二)の先手を打ち、政権を帝に返上してしまい……。

吉沢亮主演、大森美香脚本の大河ドラマ「青天を衝け」第23話。
オリンピックのせいで、大政奉還という幕末のものすごく重要なターニングポイントで3週お休みとなっていたが、ようやく放送再開。またすぐにパラリンピックで放送休止になってしまうが……。

家康、大政奉還を見届ける

いよいよ大政奉還。
幕末ドラマ・映画では、将軍から天皇への政権の返上=徳川幕府の終焉という扱いをされているケースが多いが、本作では大政奉還も幕府を生きながらえさせるための作戦のひとつとして描かれている。
パリ万博を舞台にした薩摩藩の策略のせいで、フランス政府からの借金が不可能となってしまい、軍隊の準備も整っていない。このタイミングで薩摩と軍事衝突してしまうと、本格的に幕府が終了してしまう。

……ということで、徳川慶喜(草なぎ剛)としては「天皇を中心にした政治体制を」という薩摩藩の主張を先回りして実現させてしまうことで、戦う理由をなくしてしまおうという作戦だったのだ。
なおかつ、500年以上も政治の世界から離れている朝廷からしても、いきなり政権を返されたところで何もできない。実質的に、引き続き徳川家が政治の主導権を握り続けられることができるだろうという考えもあったようだ。
しかし、この辺のことを相談できる平岡円四郎(堤真一)や原市之進(尾上寛之)といった側近は既に死んでおり、「(幕府を)やっちまいましょう!」なんてぶっ飛んだことを言っていた渋沢栄一改め篤太夫(吉沢亮)もパリにいる。

……つまり、あまり根回ししないまま大政奉還を宣言したため、幕臣たちは大混乱となったようだ。
大政奉還のシーンでは、毎度お馴染みの徳川家康(北大路欣也)が顔を出すが、セリフはほぼなし。悲しいような、悔しいような、複雑な表情を浮かべ、慶喜を見守っていた。
大政奉還を描いたドラマ・映画は数多いが、徳川家康が見届けるのは前代未聞だろう。むしろこの場面のために、幕末ドラマなのに家康を登場させ続けていたのでは……と思わされる。
幕府がなくなった後の登場もあるのだろうか。

邪悪な西郷どんが幕府を挑発

大政奉還に至るまでには、さまざまな人物や藩の思惑が入り乱れて複雑なのだが、本作では幕府vs.薩摩という図式にフォーカスしてかなりシンプルに描いている。
そもそも、薩摩藩と一緒に討幕を推し進めた長州藩はほとんど登場していないし、薩長同盟を成立させた坂本龍馬も存在を抹消されている。タイミング的には今回、龍馬が暗殺されているはずなのだが。
大政奉還にしても、慶喜ひとりで考え、決断したことではなく、土佐藩からの提案を受け入れてのもの(この提案自体、龍馬のアイデアだったという説もある)。
この辺をバッサリとカットしてシンプルにした結果、薩摩藩の野心がむき出しになり、西郷隆盛(博多華丸)と大久保一蔵(石丸幹二)がメチャクチャ邪悪そうに描かれている。

慶喜はもちろん、幕府寄りの公家たちも閉め出したまま行われた王政復古のクーデターでは、将軍、摂政、関白といった従来の役職を廃止し、徳川家の領地を取り上げる議決を取ろうとしていた薩摩藩だが、土佐藩たちからの強い反対を受けて失敗している。
新政府を作ったところで、徳川家の広大な領地がそのままでは、新政府においても強い影響力を発揮してしまうのは自明。結局、あまり体制は変わらないという状況が考えられる。
薩摩藩が主導権を握るためには、幕府の軍備が整っていない段階で、ボッコボコにしておく必要があった。

今回、岩倉具視(山内圭哉)の元に、討幕の密勅が届けられているが、あれも岩倉がいろいろと手を回して、まだ若い明治天皇などの許可を得ないままに発行されたインチキ勅書だったという説もあるくらい。一刻も早く戦をしたくて仕方がなかったのだ。

「一蔵どん。こいはやっぱい一度、戦をせんな」
慶喜に先手を打たれ、戦のきっかけを失ってしまった西郷隆盛が仕掛けたのが、江戸城二の丸の放火や、庄内屯所の銃撃。幕府を挑発して戦をはじめさせようという作戦だ。……後に江戸城の無血開城を実現するとは思えない邪悪な西郷どんだ。

「いや、これは罠だ。動いてはならぬ」
慶喜は、薩摩藩からの挑発だと分かっているようだが、大政奉還だけでもショックを受けている幕臣たちがブチ切れるのも無理はない。

「薩摩を討つべし! 薩摩を討つべし!」の大合唱。ちょっとしたノイローゼ状態だ。
慶喜は、薩摩藩が罠を仕掛けてくるまでは想定していたようだが、ここまで幕臣たちがコントロールできないというのは想定外だったのではないだろうか。

「この人たち、どうしよう……」とボーゼンとする慶喜の顔が印象的だった。

蚊帳の外の篤太夫だが……

パリでも、新時代に対応できる人間と、旧時代から抜けきれない武士たちとの対比が描かれていた。
徳川昭武(板垣李光人)の留学生活がはじまるにあたり、昭武はもちろん、お付きの者たちも、マゲを落とし、刀を外し、洋服を着ることを要求されたのだ。
そりゃまあ、チョンマゲ&帯刀の武士に西洋文化を教える気にはならないだろう。

柔らか頭の篤太夫は「胸がぐるぐるしてる」ような表情を浮かべ、率先してマゲを切って西洋文化に対応していたが、いまだに尊王攘夷感覚のある水戸藩士たちは、「こんな惨めな様には耐えきれぬ!」と日本に帰ってしまった。
このような対応力もそうだが、慶喜や幕府にとっての一大事・大政奉還のタイミングで日本にいなかったというのも、篤太夫にとっての大きなターニングポイントになっていると思われる。
慶喜の近くにいたとしたら、薩摩藩の挑発を受けて「薩摩を討つべし!」の側になっていた可能性は高かったはずだ。

まだ日本の状況を知らない篤太夫たちが、大政奉還の報せを受けてどう動くのか……? ようやく放送再開!

『青天を衝け』全話レビュー第1話はこちら

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今夜「深夜のイッキ見!まつり」放送、栄一&慶喜に会える!『青天を衝け』再開に備える
1975年群馬生まれ。各種面白記事でインターネットのみなさんのご機嫌をうかがうライター&イラストレーター。藤子・F・不二雄先生に憧れすぎています。
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