「青天を衝け」全話レビュー

『青天を衝け』22話。五代さまが邪悪な紳士に「金がなければ政は動きもはん」

吉沢亮主演NHK大河ドラマ「青天を衝け」。「日本資本主義の父」とも称され、幕末から明治を駆け抜けた実業家・渋沢栄一を主人公に物語が進みます。渋沢栄一改め篤太夫(吉沢亮)はパリ万博への出展のためにパリへ。最先端の西洋技術を目の前にして度肝を抜かれる一行。一方日本では、慶喜(草なぎ剛)が次々と幕政改革を打ち出し……。

吉沢亮主演、大森美香脚本の大河ドラマ「青天を衝け」第22話。
渋沢栄一改め篤太夫(吉沢亮)が日本を飛び出しパリへ。後の人生に大きな影響を与える西洋文化と出会う。

チョンマゲ御一行のフランス珍道中

オープニングでは毎回、荒波の中、船の先端で『タイタニック』ばりに両手を広げる栄一の映像が流れているので、あれに近いシチュエーションがあるのかと思っていたのに、メチャクチャ穏やかな航海だった。……船酔いはしまくっていたが。

フランス訪問の目的のひとつは、パリ万博への出展。

パリ万博といえば『ふしぎの海のナディア』を思い浮かべる人も多そうだ。しかし『ナディア』第1話で描かれたのは1889年の第4回パリ万博。篤太夫たちが参加したのは残念ながら(?)1867年の第2回パリ万博ということで、まだエッフェル塔もない時代だ。
凱旋門以外は比較的低層の建物ばかりだった当時のパリを、すんごいCGで再現していて、篤太夫たちだけではなく視聴者も度肝を抜かれたのではないだろうか。そんなすんごい美麗なパリをチョンマゲのサムライが歩いているのが違和感アリアリだった。

今回は全体的にチョンマゲ御一行のフランス珍道中といった趣。
世界最先端の技術が集う万博会場に、いきなり江戸時代のチョンマゲたちが放り込まれたら、カルチャーギャップという言葉では済まされないドタバタなトラブルが起こるのは必定。
そんな中、篤太夫は比較的すんなりと西洋文化になじんでいく。

もともと尊王攘夷の志士だったのに、一橋家の家臣となり、あれほど敵視していた異国の地でもバッチリ順応できるとは、フレキシブルにもほどがある。
ナイフとフォークを使ったはじめての西洋食。コーヒー、蒸気機関、エレベーター……。

「物産会どころか何日かけても見切れねえ品ばかりだ。にもかかわらず、ちっぽけなオレは言葉も通じず、その品々を見定める目も、考える頭すらねぇや。夢の中にいるみてぇだ!」

フランスに適応し、素直にすごさを認める篤太夫に対し、水戸藩士や幕臣たちは日本の常識から抜けきれない。
徳川慶喜(草なぎ剛)の名代である昭武(板垣李光人)に気安く話しかけようとした給仕を「無礼者!」と威圧。コーヒーを「オエーッ」という顔をしながらお毒味する。日本ならともかく、フランスでは完全に異様な集団だ。

人生初コーヒーを飲んで「おお、すこぶる胸が爽やかだい!」とはしゃいでいた篤太夫とは大違いだ。
そういえば五代才助(ディーン・フジオカ)も普通にコーヒーを飲んでいた。明治維新後の時代に活躍できるかどうか、コーヒーが試金石になっていたのかもしれない。

幕臣の頭の固さが幕府を窮地に

海外の流儀に適応できない水戸藩士や幕臣の態度は、幕府自体をも窮地に陥れていく。
幕府の外国奉行・向山一履(岡森諦)は、フランス政府から正式に派遣された通訳・カション神父を「ふん、キリシタンめ」と冷遇し、日本からついてきたアレクサンダー・シーボルトの方を頼りにしてしまった。
前回、慶喜がナポレオン3世より贈られた軍服を着ていたことからも分かるように、幕府とフランスは親密な仲にあり、共同でのコンパニー設立や、フランス式の軍隊導入を計画している。だからこそ、フランスから600万ドルを借款できると考えていたわけだ。

一方、薩摩藩は、薩英戦争を通じてイギリスと親しい関係となっている。

問題のアレクサンダー・シーボルトは、「シーボルト事件」で有名なシーボルト博士の息子。オランダ出身ではあるものの、日本滞在中に在日英国公使館の通訳を務めており、要はイギリス側の人間。敵方のスパイをまんまと抱え込んでしまったということだ。

パリ万博には、日本(幕府)だけではなく、薩摩藩も「琉球王国」として独自に出展をしていた。
これでは薩摩が日本と同格のひとつの国のように見えてしまう。しかし、展示を取りやめさせようとする交渉でも、幕臣はまんまとやり込められてしまう。

薩摩方についていたモンブランはフランスの伯爵であり、別にイギリス側の人間というわけではない。この人の場合は単なる山師で、幕府でも薩摩でも利用できるならばどっちでもよく、幕府から拒絶されたため、薩摩についただけということらしい。
モンブランは出品者名を「琉球国王」ではなく「薩摩太守」と変更することを提案する。

「大君(将軍)と薩摩の一大名(太守)では並べてどちらが上かはおのずと分かるであろう」
幕臣はアッサリと受け入れてしまったが、日本人ならば上下関係が明白であっても、フランス人からしたらどっちがどっちだか分かるわけもない。

幕府の品に「大君グーヴェルヌマン(政府)」、薩摩の品に「薩摩太守グーヴェルヌマン(政府)」と表示されたことでかえって誤解を生み、「日本はひとつの国ではなく、連邦国」と新聞に掲載されることとなってしまった。
これによって幕府の信用が失われ、600万ドルの借款や、共同のコンパニー設立も頓挫してしまうのだ。

商人の作る新時代へ

日本では慶喜が各国の公使を相手に堂々たる外交を繰り広げ、「東照大権現様(徳川家康)の再生」とまでささやかれていたが、もろもろの謀略を仕掛けた五代才助は、
「頭はあっても金がなければ政は動きもはん」
と切って捨てた。

多くの幕末物ドラマでは「正義」側として描かれる薩摩がメチャクチャ邪悪な組織に見えてくる。『あさが来た』でステキな紳士だった五代さまも、腹黒い闇紳士に……。
しかし本作では、誇り高く正々堂々としているけれど金に無頓着な武士たちが没落し、「金」の力で新しい時代を作る商人たちを描こうとしているのではないだろうか。

幕府直参の武士というよりは、商人的なマインドになっている篤太夫も、次回、チョンマゲを落とす!

『青天を衝け』全話レビュー第1話はこちら

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1975年群馬生まれ。各種面白記事でインターネットのみなさんのご機嫌をうかがうライター&イラストレーター。藤子・F・不二雄先生に憧れすぎています。
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