サステナブルバトン

「エシカルとは“つながっていること”。人生の先輩たちの生活の知恵を残していきたい」一般社団法人はっぷ代表・大橋マキさん

サステナブル・エシカル業界で活躍する人にバトンをつなぎインタビューする「サステナブルバトン」。第10回は、神奈川県・葉山で繋がる多世代交流プロジェクト、一般社団法人はっぷ代表の大橋マキさんです。海と山に囲まれた暮らしの中で、以前の東京暮らしでは感じ得なかった「足の裏をつけた生活」ができていると話します。葉山に10年住む大橋さんは「エシカル」をどのように捉えているのでしょうか? お話をうかがいました。

●サステナブルバトン10

小野寺愛さん(一般社団法人「そっか」共同代表)から大橋マキさんへのメッセージ

大橋マキさんは、町でバッタリ出会ったらうれしい友達ナンバーワン。心から優しい笑顔も、歌うように話す声も、大好きです。長女が赤ちゃんの時からの友人で、家族観も仕事観もお互いに応援し合うことができる同志! そんなマキさんは今、アロマセラピストとして本当に素敵な仕事をしています。三浦半島に自生する野草たちを暮らしと繋ぐ知恵を、近所のおじいちゃんおばあちゃんをインタビューして「葉山和ハーブ手帖」にまとめているのです。植物の力と、地域の暮らしと、賢者たち。どんな思いでそれを繋ごうと思ったか、ぜひ改めてゆっくり聞いてみたいと思い、バトンを渡します。
週末の朝、息子さんとの浜ランの一枚。大風のあとで、ついでにビーチクリーンも。

東京、アムステルダムを経て、葉山に

――小野寺愛さんとは、町でばったり会うこともあるのですね。

大橋マキさん(以下、大橋): しょっちゅうあります! 平日の夕方、海辺で「浜ラン」をすることが多いのですが、その時にカヌーをしている愛ちゃんを見かけたり……。お互いの子どもの年齢も近く、家族ぐるみの付き合いをしているので、街でも海でも出くわすことは日常茶飯事なんです。

ランニングというと運動好きに思われそうですが、40代になって体を動かすことの大切さを感じて走るようになりました。今では日常の同一線上に運動があります。

――葉山は東京から電車で1時間ほどの距離ですが、海も山もあり最高の環境ですね。葉山に住もうと思われたきっかけを教えてください。

大橋: 以前は東京に住んでいたのですが、家族の仕事の関係で、オランダ・アムステルダムに約半年間住みました。運河があり、空が近くに感じられ、自転車通勤する人が多く、大都市にも関わらず時間がゆっくり流れる町でした。

その経験から「次に住むところは空が広くて、水辺がいい」という気持ちが芽生えました。私は鎌倉出身ということもあり、三浦半島は身近でしたし、夫もサーフィンをするので、葉山がいいのではということになりました。

葉山に住んで約10年になりますが、「自然にはさまざまな切り口がある」と感じます。例えば「川」ひとつ取っても、泳ぐ、眺める、もしくは「いかだ」で遊ぶなど、発想次第でいくらでも楽しめます。実際に、9歳の息子はいかだを作ったのですが、その際ごく自然な流れで「浮力」について考えるきっかけになりました。

子どもたちと近所の鷹取山に

「営み」が生きる原動力となるスイッチに

――大橋さんはアロマセラピストとしても活動されていますが、葉山でもアロマをされているのでしょうか?

大橋: 当初、行政の依頼がきっかけで高齢の方がいらっしゃる家庭で実践できるアロマセラピー活用術に関する講演をお引き受けしました。過去にイギリスで植物療法を学び、病院で高齢者向けのアロマセラピーをしていた経験を生かし、自分に何ができるかを考え、ご好評はいただいたものの、考えれば考えるほど、アロマセラピーは「都会のもの」なんですよね。

アロマとは、自然が身近にない人の代用品です。季節ごとに見える風景も、ただよう香りも異なる自然豊かな葉山では、アロマよりも効果的な方法があるのではと思いました。

サツマイモの茎をリース状にしてクリスマスリースの土台に。すべて自分たちで栽培したものを使い、食にもクラフトにも活かしながら楽しんでいるのだとか

――葉山の風景や香りとは、例えばどのようなものですか?

大橋: 葉山では夏みかんの木が多いのですが、5月頃は夏みかんの花の甘い香りにそこかしこで出合います。春先になると、わかめを干す香りや、たけのこの物々交換、よもぎで草団子を作る風景……。

その土地には、その土地に生きた人にとってなじみの風景があると思っています。そして、その風景の中に、人が生きる力を引き出す「営み」があります。

誰かに施されるのではなく、何らかのきっかけで、その人の生きる力が起動する。そのスイッチが、ここに暮らす人にとっては、旬なものをみんなで食べたり、自然の中で遊ぶことだったり、お互いの暮らしを楽しんでいくという営みだと気づきました。

――自然との関わり合いの中で、心の変化はありましたか?

大橋: 自然のめぐる力にハッとさせられることが多いです。例えば、植物は芽生えた場所から生涯動くことはできません。上にどんどん伸びる、盛りの時期も美しいですが、朽ちる時、美しく全力で土に還っていくときも美しいと感じます。未来を生きる「種」にエネルギーを注ぐことにも迷いがない。

その姿は、年齢を重ね、老いていく私自身とも重なりますし、次世代へとバトンを渡すことと同じだと思うようになりました。

葉山町の一般介護予防事業をはっぷもサポート。シニア世代が健康のために体操をしたあと、地域のクリニックのガーデンづくりをしている

日常の中で「老い」を身近に感じる

――「老い」を考えるきっかけは、「はっぷ」での活動を通して、ご年配の方々と触れ合うことからも影響を受けていますか。

大橋さん: そうですね。私たちは「HAPP(葉山つながりプロジェクト)」において、認知症の方や地域のシニア世代と毎月庭づくりや園芸療法活動、地域交流をするなど、その活動は多岐にわたります。

よく、「介護」や「高齢者福祉」という既存の枠でくくられてしまうことがあるのですが、私はそれらの言葉がしっくりきていなくて。福祉とは本来、身近なものであり、普段の暮らしの幸せだと思っています。

その結果、私たちが目指すのは「みんなが楽しい日常の風景を作っていくこと」にたどり着きました。それに気づかせくれたのは、地元のおじいさんやおばあさんです。

その、しわしわの手やたたずまいが持つ燻銀のカッコ良さに触れることで、日常の中で「老い」を身近に感じています。世代を超えたつながりのある風景を作っていきたい。それが、はっぷで活動する原動力のひとつになっています。

――現在、「葉山和ハーブ手帖」も作成されていますね。

大橋: はい。地域のおじいさん、おばあさんたちから葉山の暮らしを聞くようになり、これは後生に残していかなくてはと思いました。きっかけとなったのは、当時90代だったおじいさんのお話でした。子どもの頃の武勇伝を生き生きと話されていて、足腰が不自由だったにもかかわらず、自ら立ち上がって熱く語る瞬間に立ち会いました。

その時、ここに息子がいれば……と思ったんです。いくつになっても、人の心の中に生命力の源はある。それに気づかされた出来事でした。地元で遊び、食べる大切さを受け継いでいきたい。自分たちでこの話を止めるのはもったいないという思いから、形に残すことを決めました。

地域の方に「葉山和ハーブ手帖」の取材。戦時中のお話を聞くことも。Photo:Rai Shizuno

すべてがつながり、めぐっている

――大橋さんは以前テレビ局のアナウンサーをされていましたが、今の生活との違いをどう受け止めていますか?

大橋: 20代の2年間、東京でアナウンサーの仕事をしていました。当時は、マスに広がったテレビの“向こう側”の想像が難しく、視聴者の方との距離感を模索し続けていました。

その後、ラジオのパーソナリティとしても活動するなど通じて、自分の思いが届く範囲での距離感が少しずつわかるようになりました。コロナ禍以前はゲストの方とブースの中で、物理的にも心理的にも濃密な一期一会の空間を共有できる魅力に気づかされました。

改めて、私は距離感を体で把握したいタイプなのだと感じています。そのバランスがとれるのが、今の暮らしなのかもしれません。

今は、足の裏をつけた生活ができています。東京の暮らしを経験しているからこそ、足元からつながる感動やありがたみ、その贅沢さがわかるのだと思います。

葉山の先輩から聞いた十五夜の風習を再現。翌朝、月の光を一晩浴びた水を、口にして豊作を願い、無病息災を願ったそう。

――最後に、大橋さんにとっての「エシカル」を教えてください。

大橋: つながっていること、だと思っています。子どもと過ごす時間や仕事の時間、食卓を囲み、里山を走るパワー……。そのすべてがつながり、めぐっていると感じています。

そのベースとなっているのは、葉山の自然と、ここで出会い、関わる人々です。人生の先輩であるおじいさん、おばあさんが、知恵を注いで毎日をおもしろがってきた「生きる力」に憧れるし、そういう風に歳を重ねたいと思います。まさに、それもエシカル。
一人ひとりが多様な形で、人生をおもしろがって生きている世の中になったらいいなと思っています。

■大橋マキ(おおはし まき)さんのプロフィール
神奈川県葉山在住。2001年にフジテレビを退職後、イギリスに留学して植物療法を学ぶ。アロマセラピストとして病院での活動を経て、現在はアロマによる空間演出、デザインを手掛けながら、葉山つながりプロジェクトとして発足した「はっぷ」の代表を務める。2児の母。地域の古老に聞く暮らしの植物活用術に関する本「葉山和ハーブ手帖」を今秋刊行予定。
一般社団法人はっぷ 
aromamora

同志社大学文学部英文学科卒業。自動車メーカで生産管理、アパレルメーカーで店舗マネジメントを経験後、2015年にライターに転身。現在、週刊誌やウェブメディアなどで取材・執筆中。
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