「人生の締切」を意識すると、新しい生活は、もっと新しくなる
●本という贅沢104『もしも一年後、この世にいないとしたら。』(清水研/文響社)
30代の頃、難治がんの疑いを指摘されたことがある。
医師に、「診断が確定だったら、もって2年くらいでしょうね」と言われた。
この日から、
私は、2年後に死ぬことになっている。
という設定で生きてきた。
仕事の選択も、プライベートの約束も、2年後には死んでいる前提で決めてきた。
「明日死ぬ」と言われたら、選べることはほとんどないけれど、「2年後に死ぬ」のならば、意外といろんな可能性を考えることができる。
食事は2000回以上できる。土日は200日以上ある。モノによっては、種を蒔いて収穫することもできる。育てて誰かに手渡すこともできる。
まあまあ長い時間だ。けれども、意識しなければ、あっという間にすぎていく時間でもある。
余命に言及されてから数ヶ月後、何度も精密検査を繰り返すうちに、病巣らしき影はなぜか消え、私は無罪放免となった。
けれども、この時書いた「2年間でやりたいことリスト」は、それからも毎日持ち歩き、2年を少しオーバーしてコンプリートした。
以来、毎年1月に「2年間でやりたいことリスト」を更新している。
締切がない原稿を、いつまでたっても書けないように
締切のない人生は、「またいつか」を口癖に、気づけば過ぎていってしまうな、と思う。
「あと、2年しか生きられないとしたら」と考えることは、何にでも飽きっぽくて、だらしない私に、すごく合っていた気がする。
先日、久しぶりに、近所の書店に買い物にいった。ふらふらっと中に入って最初に目についた本がこれだった。
「もしも一年後、この世にいないとしたら。」
著者の清水さんは、国立がん研究センター中央病院のレジリエンス外来で、多くのがん患者さんと対話してきたお医者さんだという。
がんの告知を受け、絶望を感じ、そしてそこからそれぞれ制限された時間を生きようとする人たちの「レジリエンス(この本では「人が悩みと向き合う力」と定義されている)」が描かれている。
「もしも一年後、この世にいないとしたら。」
残された時間を誰とどう過ごしたいのか
家族や恋人に迷惑をかけたくないと思う気持ちとどう向き合っていくのか
自分は、本当に自分がのぞむ人生を生きてきたと言えるのか
いま、元気な人に伝えたいメッセージは何か
動けなくなったとき、人は自分の存在価値をどう感じるのか
「10年後」がないとしたら、なんのために「今」生きるのか
人生の締切を感じた人たちだからこそ気づき得たことを、この本は優しい優しい語り口で伝えてくれる。
「もしも一年後、この世にいないとしたら。」
この問いは、とても豊かな問いだ、と私は思う。この問いを心に持っているだけで、世界はちょっと違って見える、と思う。
死について考えることは、決して暗いことでも、後ろ向きなことでもない。死はいつだって、前の方向にしかない。未来の方角に、100パーセントの死が待っているのであれば、死を考えることは、明日を考えることと同じだ。
ゆっくりと、でも着実に新しい生活が始まろうとしている今。
明日の意味合いが変わる、こんな本に触れてみるのはどうでしょう。
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先日家に遊びに来た友人が、「ゆみの本棚は、死ぬ本ばっかりだね」と笑っていた。たしかに、死について考えることに、私は魅せられているなあと思います。
telling,世代の人たちに紹介するにはちょっと重いかなあと思って躊躇していたけれど、でもそんなことないよね。
何歳だったとしても、死について考えることは、めいっぱい生きることとセットだし。
それに、人生は、どっちにしたって、重い。
死ぬことと生きることについて教えてくれる本は、また折に触れて、ご紹介したいなって思います。
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それではまた来週水曜日に。
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