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「今」の自分と向き合うのは難しくて楽しい【ひらりさ】

「女」にまつわる執筆・取材を続けるライターで、『だから私はメイクする』を刊行した「劇団雌猫」のメンバーでもあるひらりささん。美容に興味を持ち、肌のカウンセリングに行って見えたのは「サボってもいい」という意外な結論でした。

1年ほど前、「肌診断」に行った。

メイクや美容にハマってしばらく経ち、「自分のやりたいメイクをするためにも、スキンケアにもっと力を入れるべきなのでは」と思い始めたのと、30歳の誕生日を控えるなかで「アンチエイジング」を意識しだし、自分の肌の状況を客観的に把握しておきたいと思ったからだ。専門機器を使っての診断だけでなく、テナントのコスメブランドから、自分にあったアイテムをおすすめしてもらえることで美容好きの間で話題の某百貨店のビューティーサロンに、無料カウンセリングの予約を入れた。

カウンセリングシートに、そのとき感じている肌の悩み……「キメ」「乾燥」「油分が少ないかも」「ハリ」などを書き込み、カウンセラーさんに「自分にあったクレンジングが知りたい」「クレンジングを忘れがちなので、肌にやさしい拭き取りシートがあったら教えてほしい」「今、クッションファンデを使っていて満足はしているが、もっと自分の肌に合うものがあったら知りたい」と伝えて、計測スタート。

顔をガチッと中に入れ込んで全体のトーンやシミ、シワ、毛穴を測定する「ロボスキンアナライザー」、表面のキメを測定する「マイクロスコープ」、環境の温度と湿度をみながら皮脂分泌を測定する「油水分測定器」の3つを使って肌状態を解析されたのだが……結果は衝撃的なものだった。

かなり項目が多かったので、一部をあげるが、こんな感じ。

水分量……35歳
油分値……19歳
明るさ……43歳
顕在シミ数……42歳
潜在シミ数……47歳
毛穴数……49歳
きめ……21歳

私の肌……40代半ばだったの!?
そして「油分が少ないかも」「キメが気になる」と思っていたのに、その2項目は若いの!?

10代〜20代前半まで、そもそも化粧をほとんどしていなかったので日焼け止めを塗っておらず、「まあ、たしかにね」と思う部分もあった。しかし覚悟していた以上に「老化」していたことと、あまりにも自分の肌を理解していなかったことに、雷に打たれたレベルの衝撃を受けた。やさしいカウンセラーさんの前では笑顔を保ち、教えてもらったアイテムをワクワクしながら買ったものの、心の中は半泣きモードのままで帰宅したのを今でも覚えている。

肌診断をしてからは……

この診断を機に心をいれかえて、肌年齢の進行を食い止める暮らしを実践している……と話を進めるとわかりやすいと思うのだが、正直に話すと、「そこそこ頑張って、その後ほどよく諦めた」というのが正しい。

肌診断をした直後は、ズボラな私も、肌年齢のため、かなり努力した。シミ・美白に効くというビタミンCのサプリを輸入し、毎日必ずクレンジングをして日焼け止めを塗り、韓国の美容クリニックでエイジングに効くという「水光注射」を打ってみるという挑戦もした。サプリは金、丁寧なクレンジングと日焼け対策は手間、水光注射は金と時間とめちゃくちゃな痛みが(顔じゅうに針を刺しまくるので本当に痛い)、かかったが、たしかにどれも一定以上の効果が出たと思う。

ただ――やってみて思ったが、そもそも生まれて25年「やってこなかった」ということは、これらを毎日コツコツ心がけるのは、私にとって「かなり頑張る」ことにあたるということだ。最初は1日サプリを飲み忘れるだけでもウワ〜〜となったり、夜のクレンジングをサボって朝メイクを落としているときにウワ〜〜となったりしていたが、「肌の年齢よりも、ストレスない精神が第一では!?」と途中でわりきり、「できるだけやる、サボっても落ち込まない」へと、スタンスをシフトさせた。

たしかに、「肌の調子が自身の年齢の平均より悪い」ということは、身体の健康を考えるうえでも望ましくないことだろう。紫外線は皮膚ガンなど健康へ悪影響があるとも言われるし、丁寧なクレンジングは清潔さを保つ上でも必要なことだ。

自分を「好き」になるための美容

肌や身体の健康と向き合ううえで、「年齢」という指標を用い、そこに抗う努力を「アンチエイジング」という言葉にまとめることは、するべき努力がわかりやすくなり、モチベーションを保ちやすいメリットもある。しかし、「周囲の同年代に比べてどうか」という発想にこだわっていくうちに、どんどん自己肯定感が削れていく危険もあるだろう。アンチエイジングには言葉上、どうしても老化をマイナスにとらえるニュアンスがあるわけで、自分を「好き」になるための美容からは、離れていきやすい傾向があると思う。

もちろん年齢にあらがうことに、やりがいや楽しさを感じるという人もいるだろう。アンチエイジングという言葉は、いろいろなスキンケア・美容法を試す格好の口実として機能する部分もあるので、それを楽しめているならいい(私も実際、半年くらいは楽しかった)。しかし、いつのまにか常にダメ出しをし続けているような自分、毎日負担に感じている自分に気づいた場合には、ちょっとやり方を見直してみるのもアリだろう。

秋に追加で3ヶ月ぶん輸入したビタミンCサプリは半年経ってもまだ、在庫が残っている。20代半ばの女性と飲み会で並ぶと、肌のきめ細かさに驚く。というか3〜4年前のイベント出演写真を見ても、自分のピチピチした感じ(死語)に驚く。正直、5年後くらいにシミが出はじめるかもとこわい。すでに鼻の脇には顕在化した目立つシミもある。もしかしたら、1ヶ月後くらいにまた一念発起し、きっちりしたスキンケアに凝りだすかもしれない。

しかし、そうした「こわさ」を根絶することだけが、美容の正解でもない。笑いじわが魅力的だと思えたり、シミが愛嬌に感じられたりする歳上の人もちゃんといる。雑誌などでも「アンチエイジング」ではなく、年齢に応じたケアをとなえる「エイジングケア」という言葉遣いも増えてきた。まっさらな20代の肌を維持しようとするのではなく、「今」の自分を否定せずに向き合う、ほどよくちょうどいいラインの美容――「アンチしすぎないエイジング」を見つけていければと思う。

1989年東京生まれ。会社員として働く傍ら、ライター・編集者として活動。、FRaU、マイナビウーマンで連載中。オタク女子ユニット「劇団雌猫」のメンバーでもあり、編著に、『浪費図鑑』(小学館)など。
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