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27歳でバリキャリ風「KPI婚活」に臨んだ私が行き詰まった理由

ミレニアル女子を悩ませる「婚活」の壁。目標に向けて真っ直ぐ努力することを厭わない「バリキャリ思考」だという青葉鈴さん(30)は、ビジネスの考え方にヒントを得て、ゴールに到達するための数値目標を設定しクリアしていく「KPI」の考え方を婚活に導入しました。"超合理的"なこの戦略、果たしてうまく機能したのでしょうか――。

KPIを定めて婚活に臨んだら…

「あと3年で30歳なのに、やばい。」
27の誕生日を迎えた直後、私は学生時代からの彼氏と別れた。
「幸せな女性は30歳までに結婚している」と思い込んでいた私は、内心焦っていた。

それは奇しくも、私が最もがむしゃらに仕事をしていた時期でもあった。
ビジネスで何かを成し遂げたいとなれば、山を登るように「ゴールを設定し、そこにたどり着くまでの道筋を引き、KPI(※)を決めて行動する」が鉄則だ。恋愛だってそうすればいい。自分をコントロールし努力すれば、「幸せ」というゴールにたどり着けるはず。

(※KPI=key performance indicator:企業などで、最終目標〈KGI=Key Goal Indicator〉に到達するための達成度を評価するために使われる指標のこと)

そう信じ、私は婚活を始めた。1カ月の行動目標=KPIを定め、紹介・パーティー・街コン・アプリ……と予定をこなしていった。たとえば、ある月は「婚活パーティー・街コンに4回出席、紹介やアプリ経由で5人以上に会う、休日には必ず新規に誰かと出会う」といった具合だ。

たくさんの人に会えば悪くない出会いもあったし、そう感じた人とは2回目の食事にこぎつけることもできた。ビジネス用語で言うところの「コンバージョン率」はそこそこ高かったわけだ。それなのに、いつも途中で「何か違うかも」と思い始め、「スケジュールが合わなくて」と次の約束をうやむやにしたり、連絡を途絶えさせてしまったり、結果に繋げられない。

「始めるなら20代のうちが良い、その方が多くの人の射程に入りやすくなる」というセールストークに背中を押され、結婚相談所にも入ろうとした。3カ月の短期集中コースが費用的メリットは高そうだ。数万円かけスタジオで婚活用の写真を撮り、普段なら手を出さないような柔らかな生地のブラウスに上品な薄紫のスカートを買った。準備は万端だ。

ところが、いざ申込書にサインせん、というタイミングになって手が止まった。
「今サインをしたら、数カ月後には何十万払って、本当に結婚するかもしれないんだ」
そう理解し始め、途端に怖くなった。結局、私は入会を断ってしまった。

「幸せ」のゴールを設定できない

私が婚活に足を踏み入れてようやく認識したこと。それは、自分の「幸せ」のゴール設定があやふやだということだ。

一直線に努力していくために必要なのは、明確なゴールの姿。婚活もビジネスと同様に、自分の好みや譲れないポイント、いつまでにという期限をはっきりさせておきなさい、と言われる。

その効能は実体験としてもよくわかる。なんとなく勉強するより「〇〇大学に入りたい」という動機は私を勉強に駆り立てし、ただ漫然と仕事をするより、数字の目標があったほうが頑張れるから。

けれど、結婚のこととなると、私はどんな人とどんな家庭を築きたいのかも、そもそも結婚したいのかも、子どもが欲しいのかも、迷いなく答えられたことがない。

その理由は、「達成が不確実なゴール設定をしたくないから」なのだと思う。

幸せな家庭を築いてみたいとイメージしても、不倫、DV、ワンオペ育児……様々な家族の問題を見聞きする度に、「幸せ」の達成難易度を思い知らされる。自分なりの「幸せ」を考えようとしても、自分が達成できる難易度の「幸せ」はどれくらいなのかと、つい偏差値のように測ろうとしてしまう。

「幸せ」をつかみたいという欲はあれど、自分にとっての幸せが未定義ではそれはできない。つまり、KPIを設定してそれをがむしゃらに達成していっても、最終目標=KGIが定まっていなければ、道に迷ってしまうのは当たり前。ゴールも明確にできないのに、間のプロセスばかり追いかけていても虚しいだけだった。

「必勝パターン」が副作用を起こした

こうなってしまう原因は、きっと「必勝パターンの罠」だ。

ゴールを設定し、そこに向かってひたすら努力する。私はそうやって受験も、部活も、仕事も、自分なりの成果を上げてきたつもりだ。この優等生でバリキャリ的な思考が私の「必勝パターン」なのだ。しかし、何事にも副作用はある。私は、この必勝パターンから外れた成功の形をイメージできなくなっていた。「私は何が起こっても幸せに生きていける」という自分への信頼感は、いつの間にか手の中から失われている。

他人は、努力で何とか達成しようとする私の態度を「真っ直ぐ」「熱い」と褒めてくれることもあるし、自分でも長所だと思ってきた。けれど、速いストレートしか投げられないピッチャーのような生き方は、いつか行き詰まる。

現に今「必勝パターン」がうまく適用できない人生の場面を迎え、たじろいでいるわけだ。今必要なのはきっと、バリキャリ的な発想でKPI達成にがんじがらめになっている思考に、抜け穴を持つことなのだろう。

自分なりの幸せも未定義なままに、あっさりと30歳を迎えた。

積極的な婚活はやめてしまって、特段状況も変わらない。焦りが無いと言えばきっと嘘になる。けれど、「自分の人生は自分で動かすしかない」とリアリストのバリキャリを装っていた頃よりも、流れに身を任せ、川を下るように身をこなしながら生活している今のほうが、「幸せ」に近い感覚を手にすることが出来るようになったのだった。

1989年、東京生まれ。人材企業にて経営企画に従事する傍ら、リアルなミレニアル世代の ライターとして恋愛や結婚、働き方などをテーマに記事の執筆を行っている。好きなものはクラリネットとおいしい食事。
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