「バリキャリですね」とドン引きされ…大手企業への転職が婚活の足かせに

夢を追いかけて、誰もが名を知る大手広告代理店に転職した30代の女性。しかし、そこには意外な落とし穴が待ち受けていました。望んでもいない「バリキャリ女性」のイメージを持たれたことで、婚活での男性の反応が変わってしまったというのです。当事者の体験談を聞きました。

3年前に女子会で知り合ったショートカットがボーイッシュなAさん(31歳)から大手広告代理店に転職の知らせが届いたのが1年前でした。その後SNSでAさんを見つけて連絡をしたところ、「婚活に不利な企業にいます(笑)」と意味深な一言。

興味津々でやりとりするうちに、職種や勤務する企業によって偏見をもたれ、それが原因で少し生きにくくなっているかもしれないと感じました。会って話をしたいと申し出ると、「同年代の女性に役に立てることができるなら」と快諾してくれたのです。

「やるなら今しかない」と大手広告代理店へ転職

「まさか今の職場で働くなんて、夢にも思っていませんでした」とAさん。大学時代にはマスコミ研究会に所属し、新聞社や出版社、PR会社、そして芸能事務所などでバイトをしていたそうです。卒業したらマスコミ業界で働くと決めていたものの、就活しているうちに、夢を持って働いている人が多い某ベンチャー企業に惹かれて就職。ところが業績悪化のため給料の未払いが続き、とうとう2年後に退職したといいます。

「『夢は実現するためにある』という有名人の言葉を思い出しました。自分も夢を追いかけているだけでなく、実現できる場所を見つけて、そこで目標を持って働こうと思いました」

25歳の時に、コスメや健康食品を扱う企業に入社。広報部で社外広報を担当すると、Aさんは水を得た魚のように実績を上げていったそうです。

「ところがある時、会社が他企業と合併して、広報部もスタッフが一新されました。合併先の企業と新しい広報チームを組むと、元からいた同僚のスタッフは全員異動になって私だけが残りました。それからは何となく、やりにくくなってしまって」

30歳を前に転職を考えていた時でした。以前、転職活動中に手伝っていた会社の上司の紹介で、大手広告代理店の面接に臨むことになったのです。そして見事に合格。

「驚きました。これまで広報の仕事はしてきましたが、広告代理店の仕事であるイベントやCM制作などは初めてのことです。不安もありましたが、30歳を過ぎてしまうと、体力的にキツくなるかもしれない。やるなら今しかないと、入社を決めました」

実際に勤務してみると、想像以上に別世界だったそうです。

「入社するまでは、社員は皆、深夜までメチャメチャ働いているというイメージでした。ところが、イベントなど多忙な時期以外は、18時半で退社しています。なぜそれが可能かといえば、偏差値の高い大学出身者で地頭の良い人が多いからなのではないかと思います。つまり『速く正確に、結果を出せる人』がずらりと揃っているため、仕事のレベルが高いのです。うちの部署の平均年齢は35歳で、男性は30~40歳が多く、既に子供がいる人がほとんど。やるときはバリバリ働き、家庭も大切にしています。女性は派手なファッションで遊んでいる人が多いというイメージもありましたが、他部署にそういう噂のある人がいるくらいで、うちの部署は真面目な女性ばかりですね」

Aさんの年収は企業広報で働いていたころより100万円もアップしたそうです。さらに、優秀な人物ばかりの環境は刺激も多く、「頑張らなければ」というモチベーションも高まっているのだとか。

「飲み会で企業名を言った途端に、男性が引いていくのがわかる」

転職が成功し、順風満帆かに思えるA子さんの人生。ただ、そこには意外な落とし穴があったといいます。婚活の場における男性たちの反応が、それまでとガラリと変わってしまったのです。

「大手広告代理店に勤めているという肩書が、婚活には不利だということがすぐわかりました。」

それは、Aさんが転職後に合コンに参加した時のこと。場所は表参道にあるおしゃれなレストランの個室。参加者は女性が8人、男性が10人で、歯科医や弁護士など”ハイスペック”な男性が多いマッチングパーティーでした。

「男性に聞かれて会社名を答えると、『バリキャリですね』と言われて。そこから話が膨らむこともなく、なんとなく、そのまま会話が終了してしまったんです。自分は決してバリキャリという意識はないので、『ゆるゆる働いていますよ』と言っても、その場にいる誰も信じてくれませんでした」

誰もが名前を知る大手企業であることや、広告代理店という華やかなイメージがある業種であることが影響したのでしょうか。A子さん自身がかつてイメージしていたように、「深夜までメチャクチャ働く」「派手なファッションで遊んでいる」といった印象を、男性陣はA子さんに対して抱いてしまったのかもしれません。

でも私が知るAさんは、転職した今もその前も、人と比較せず、マイペースで我が道をいっています。気取らず奢らず、ナチュラルな感覚を持ち、最初に入社したベンチャー企業で給料が未払いになった時も「そんなことがあるかもしれない」とのんびりしていたそうです。一緒にいると気が楽になるAさんが肩書だけで敬遠されてしまうなんて、表面的な見方をしてしまう残念な人が多いという気がします。

Aさんはその後参加した、メーカー勤務や公務員の男性が多い飲み会でも、企業名を口にした途端に、男性が引いていってしまうのを肌で感じるとか。

「無言ですが、『エラそう』という拒否反応があるのを感じます。私はそんなつもりはないのに、男性のプライドを傷つけてしまっているような、妙な疎外感でした。しかも『どうしてここにいるの。会社にいい男、いっぱいいるでしょ』みたいなことも言われて。相手も酔っているから仕方ないんだと思っても、あまり楽しくなかったですね」

この場合は、自分より有名な企業に勤めている女性や、自分より年収の高そうな女性を敬遠しようとする男性側の心理が働いていたのかもしれませんね。

こうした体験に傷つけられたAさん。もともと婚活より、学んだり楽しく仕事をすることが好きだったこともあり、「恋愛や婚活に振り回されたくない」という気持ちが強くなったと言います。

「会社の名前や業界、仕事の内容より、一人の人間としての私自身をちゃんと見てくれる人をパートナーに選びたいですね」。

バリキャリのつもりはないけれど、世間のイメージが先行する企業で働く女性の多くが、Aさんと同じような思いを抱いているのかもしれませんね。

 

コラムニスト、小説家、ライター。2万人以上のワーキングウーマンの恋愛や婚活、結婚をテーマに取材執筆。週刊朝日「同窓会恋愛」「離婚しない女たち」等。ブログ「恋するブログ☆~恋、のような気分で♪」 07年10万人に一人の難病を克服。
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