脳内科医・加藤俊徳先生「IT化で文字で怒る人が増えている」【怒り10】
●怒れる女
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IT化が進み、文字が怒りのセンサーになっている
――先生のご著書のなかに、「IT化による脳の自閉化が進んでいる」とありました。これは具体的にはどういうことなのでしょうか?
加藤俊徳先生(以下、加藤): 私たちの右脳は「非言語や世間の価値観を処理する領域」ですが、左脳は「言語を処理して個人を優先させる領域」です。SNSで文字を使ってコミュニケーションすることが増えた近年、極端に左脳が強化され、個人を優先させる傾向が強まっているのです。
――左脳が強化されることで、怒りが変わるのでしょうか?
加藤: 怒るという感情は、前回もお話しましたが、脳は特定の回路だけを使ってものごとを対処しようとしたときに、対処できずにパニックになっている状態です。つまり使える脳の回路のバリエーションが少ないと対応できないことが多くなり、怒りやすくなるというわけです。
――特に、ネットのなかは怒りに満ちている印象がありますが、その点はどのように考えていらっしゃいますか?
加藤: ネット社会が進み、皮膚感覚を使わずに生活することでも怒りの種類が変わったと感じます。最近では、握手をしても手を握れない子どもが増えています。指先に力がないということは、現実の物体に対する感覚が育っていないともいえます。
よくよく考えてみてください。つねられたら痛いから怒りますよね。つまり、皮膚感覚は怒りの入り口につながっているのです。最近ではそれが全部ネット上で行われるため、文字が怒りのセンサーになってしまっています。
――怒りの着火点が目から入ってくる情報ということですね。
加藤: そうです。だから、怒る対象の存在感がまったくないのです。人の顔が浮かんでこない。現実的な感覚が薄れてきていると感じます。その分、怒りの暴走に歯止めが効きません。
現代社会には、浅く短絡的な怒りが蔓延しています。引きこもっていた人が殺人を犯すと、一見深い闇を感じますが、長く家にこもって無職で運動不足で昼夜が逆転していれば、それも脳の状態の悪化に伴って潜在的な可能性が生まれたのだと思ってしまいます。
IT技術の発展で個人の怒りが社会問題化することも
――生活習慣だけでなく、時代の移り変わりによって怒りも変化しているのでしょうか。
加藤: 今まで怒りは、近親者の間で起こりやすいという特徴がありました。ところが、SNSが発展して、face to faceの場が減ったことで、怒っていることを絵文字やスタンプで伝えるという事態になっています。またリベンジポルノなど、個人間の怒りがSNSを通じて社会問題化しやすいという状況もあります。個人間のトラブルだったものが、見ず知らずの第三者も巻き込んでしまうような怒りの連鎖が現代社会の特徴です。
――ネット上に残った「怒り」が消えずに、どんどん溜まっていくことを考えたら心配ですね。
加藤: 本当に心配ですよ。できるだけ普段から自分の怒りをつまんでいく、対処していく、消していく作業が必要になってきたと感じます。そのためには、生活リズムや睡眠時間を大切にすること、朝しっかり脳を起こして、クリアにしておくことを心がけることから始めたらいいと思います。脳がぼーっとしているときは、怒りやすくなります。程よい緊張感があり、頭がしっかり働いていると、聞いたらすぐ対処できるぐらい頭がクリアなので、怒りにつながらないのです。
――ネットが欠かせない現代人にとって、脳の回路をリセット方法があるのでしょうか?
加藤: あなたの周りで予想外の行動をする「他人」を見つけて、その人と接触することです。その刺激が脳を成長させてくれます。慣れ親しんだ友達では、あまり刺激にはなりません。そこで、新たな出会いを求めて、趣味のサークルに出かけてみる、複数人でできるスポーツに参加してみるのはいかがでしょうか。新たに出会う人たちから、新たな自分を発見することで、無意味な苛立ちが消え、希望や期待感が増えていくはずです。
次回はこちら:脳内科医・加藤俊徳先生「怒りっぽい人は睡眠で変われる」【怒り11】
●加藤俊徳(かとう・としのり)先生のプロフィール
脳内科医・医学博士。加藤プラチナクリニック院長。昭和大学客員教授。株式会社「脳の学校」代表。脳番地トレーニングの提唱者で、発達脳科学・MRI脳画像診断の専門家。これまでに胎児から超高齢者まで 1万人以上の診断・治療を行う。
著書に『アタマがみるみるシャープになる! 脳の強化書』(あさ出版)、『部屋も頭もスッキリする!片づけ脳』(自由国民社)『楽しい! 大人の「脳活」パズル【知恵の輪2個+パズル付き】 』(宝島社)など多数。
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