怒れる女

ハヤカワ五味さん「主張する女性=メンヘラという思考停止はやめてほしい」【01】

現代社会は女性にとって理不尽なことだらけ。こみ上げる「怒り」と、私たちはどうつきあっていけばいいのか。ミレニアル女子の「怒り方」を考える新特集「怒れる女」を始めます。第1弾にご登場いただくのは、デザインを通して多くの女性の悩みやコンプレックスに寄り添ってきた株式会社ウツワ代表取締役のハヤカワ五味さん。現在は生理用品の企画開発のプロジェクトに取り組みながら、SNSなどで女性の生き方について自身の考えを発信しています。そんなハヤカワさんに「今、世間に物申したいこと」を聞きました。

●怒れる女

――ハヤカワさんがいま、怒りを感じること、物申したいことはありますか。

ハヤカワ五味(以下、ハヤカワ): 女性が意見を言うことに対して「ヒステリック」とか「メンヘラ」というふうにすぐにラベリングをする人に対して怒っています。

ラベリングといえば、女性が結婚や育児を理由に会社を辞めたり休暇をとったりする場合に「もともと子どもができたら辞める気だったんだろ」とか、「女の幸せに目覚めたんだろ」というように、批判的に言う人がいるのもどうなのかなと思っています。

残念ながら今の日本社会では、同じ能力であっても女性のほうが男性より給料が低い傾向がある。だから女性が家庭に入るという選択をすることにはある程度、妥当性があります。経済合理性の面から家庭に入ることを選んだ人もいるのに、それと女性の感情の面をごちゃ混ぜにして議論するのはよくない。そういう話がいまだに聞こえてくることに、ふつふつとした怒りみたいなものがあります。

――女性が意見を言うと「感情的」だと捉えられてしまうことが多いように感じます。なぜなのでしょう。

ハヤカワ: 歴史的に女性と「ヒステリック」というイメージが結び付けられてきた背景もあるので、女性=感情的ととらえられてしまうのは偏見による部分が多くあると思います。一方で、「議論のしかた」にも一因があると考えています。問題提起のしかたが男女でずれている。

今の日本では組織の上層部や決裁権を持っている人に男性が多いので、女性が意見を言うときに根拠や結論が曖昧だと、「論理的じゃない」と指摘されてしまうこともありますよね。なので、仕事に関していえば、事実と感情を分けてロジカルに結論を出す組織的な議論のしかたに乗っかっていくのもひとつの方法かなと思います。感情を伝えること自体はOKだけれど、「私は○○だと思います」と伝え方を整理する。すぐに女性を「感情的だ」とくくらない人がもっと増えてくれたらいいなと思っています。

――具体的に、どんなふうにハヤカワさんは話してらっしゃるんですか。

ハヤカワ: 事実と感情を切り分けるために私がやっているのは、語尾が「です、ます」なのか「思います」なのかを意識すること。感情を伝えるときは「私は〇〇だと思います」というように、語尾を使い分けていくだけでもかなり整理される気がします。

対話でもSNSでも、「〇〇ではないんですか?」とか「みんな〇〇って言ってますよ」と自分の感情とは切り離したように主張する人を時々見かけます。本当は「私は傷ついた」、「私の意見を認めてほしい」という感情を主張しているのに、どこかからそれっぽいファクトを持ち出してくることで事実のように主張できてしまう。

人を喜ばせるために複雑なコミュニケーションを考えるのはいいと思うけど、人をコントロールするための複雑で遠回しな主張は人を幸せにしないと思います。

――SNSで怒りを発信する人たちに対して感じることはありますか。

ハヤカワ: 怒りを発信すること自体は良いと思いますが、相手と場所を選ぶということが前提です。現実世界であれば、突然知らない人に「私いま怒ってます!」と話しかけるのはおかしいとすぐにわかりますが、SNSだと相手と場所を選べなくなってしまう人がいますよね。

すべては本人のパーソナルスペースの問題です。他人のタイムラインまで自分のパーソナルスペースだと考えてしまって、他人の意見を変えようとしたり、自分の感情を守ることを最優先にして誰かのことを傷つけたりするのはどうなんでしょう。相手との関係性を考えた上で、自分の思ったことを言えるようになるといいのかなと思います。

――女性が意見を主張することといえば、フェミニズムに対してネガティブなイメージを持っている人もまだまだいるようです。ハヤカワさんはご自身をフェミニストだと考えていますか?

ハヤカワ: はい、フェミニストだと思っています。でも、いま日本国内で一般的に認識されているフェミニストとは違うという思いもあって。日本では、「女性を男性と同じにする=フェミニズム」という考えが広がっていると感じるのですが、男性に合わせるという認識がまず世界とズレている。

本来のフェミニズムは、男性と女性どちらかに合わせるのではなくて「社会全体として性別の区切りなく平等な権利が与えられるようにしていこう」という考え方です。たまに「フェミニストなんだ(笑)」みたいな反応をされることもあるんですが、フェミニストじゃない人はセクシスト(性差別者)にあたるので、「じゃああなたはセクシストなんですか?」と言い返せることになる。揚げ足とりに負けないためにも、知識を得ることが必要だと感じています。

すでに新しいフェミニストの時代が始まりつつある。日本国内の考え方が世界レベルに追いつくまで、発信を続けていきたいです。

【編集後記】
時に鋭い発言もしながら、女性が生きやすい社会の実現に向けた商品開発を続けているハヤカワさん。一見、クールで論理的な語り口ですが、その奥には強いパッションと使命感を感じました。それは、自分ひとりのためではなく「みんなのため」に怒っているからなのかもしれません。怒りは壁を壊す原動力。だから、日本の女性はもっと「怒っていい」。ただ、そもそも怒る女性は誤解されがち。「怒り」とは何か、今、ミレニアル女性たちは何に怒っているのか……この特集で考えていきたいと思います。

●ハヤカワ五味(はやかわ・ごみ)さんのプロフィール
1995年東京生まれ、多摩美大卒業。課題解決型アパレルブランドを運営する株式会社ウツワ代表取締役。 大学入学後にランジェリーブランド《feast》、2017年にはワンピースの《ダブルチャカ》を立ち上げ、Eコマースを主として販売を続ける。2018年にはラフォーレ原宿に直営店舗《LAVISHOP》を出店。

telling,創刊編集長。鹿児島県出身、2005年朝日新聞社入社。週刊朝日記者/編集者を経て、デジタル本部、新規事業部門「メディアラボ」など。外部Webメディアでの執筆多数。
1990年生まれ。東京都目黒区出身のライター・編集者。「明日を楽しく生きられるように!」をテーマに、旅行、グルメ、ライフスタイルなどに関する文章を執筆しています。
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