怒れる女

「世界では女が女を引き上げる」。女性の抱える「怒り」との向き合い方【怒り06】

「怒る女はこわい」「ヒステリー」などと片付けられてしまう世の中で、怒りとどうつき合っていけばいいのか。『「対人関係療法」の精神科医が教える 「怒り」がスーッと消える本(大和出版)』などの著書がある精神科医の水島広子医師にお話を聞いた後編。今回は、女性として今の不平等な世の中に対して、どんな行動を起こしていくことができるか、どういう心構えで過ごすべきかをうかがいました。

●怒れる女

女も固定概念にとらわれている

――「事を成す」ためには怒りを爆発させてはいけない、という前回のお話でしたが、世の中にはまだまだ、理不尽な状況への怒りを抱えている女性が多いと感じます。そうした感情とどう向き合えばいいでしょうか。

水島広子(以下、水島): それって、女性自身が作り上げてるところもかなりあるんです。「女だからこうあるべき」といった固定観念を女性自身が手放せば、理不尽さから解放されたりするんです。

例えば、私が医者になった頃、「コーヒーを淹れるのは女の仕事」という空気がありましたが、おかしいと思っていたので自分で淹れたことは多分1回もないです。それで不満を言われたこともありません。ある時職場で「女性の先生、集まってください。今からコーヒーの淹れ方、教えます」と言われた時には「ちょっと待ってください!」と男性医師も集めて、みんなで一緒に淹れ方を習ったこともありました。

それまで職場の女性たちがなぜ黙って従っていたんだろうと考えると、「それくらい女なんだからやるべき」だと思い込んでた部分もあるのかなと思うんです。

あと、私はいつもすっぴんなんです。私の中には「女だから○○しなくてはいけない」という気持ちはまったくないので、他の人に「メイクをした方がいい」「女らしくない」など、何を言われようと気になりません。

「女はこうあるべき」という思い込みを捨てれば、意外となんでもできてしまうんですよ。女性側も知らず知らずにジェンダー観を刷り込まれていることを自覚することは大切です。そして、発想を柔らかくして、自分がおかしいなと感じたジェンダー観は手放す。そこから始めないと、被害者の位置に留まり続けてしまうことになります。

「頭がいい女性の割に、嫌みなところがない」

――先生は女で得をしたなと感じたことありますか?

水島: 自分が女だと意識したことは、すごくたくさんあります。男の権力者って「女性にしては使える」という女性が好きなんですよ。私は、他の女性が「スカート履いてるから無理〜」というような仕事を全部引き受けたり、現地で伝染病が流行っていて誰も行きたがらなかった外国の学会に先輩の代わりに出席したりと、「女だから」と弱音を吐きませんでした。

そういうことの積み重ねで「女性にしては使える」と思ってもらったのではないかなと思っています。

――女性に”しては”使える”って……。今だったら大炎上しそうな発言ですね

水島: そうですね。選挙の時に応援演説で、ある有名な男性政治家に「頭がいい女性の割に、嫌味がないところがこの人のいいところです」と言われたこともあります。

その時私は「ああ、じゃあこの人から見ると、頭のいい女性は嫌味な存在なんだ」と思いました。だから彼への接し方は嫌味にならないようにしようと。もちろん差別的な発言なんだけど、それがこの人の本心なんだと納得していました。保守的で「頭が悪い」男性たちは、女性に対して優位な立場を維持できなくなってきたことに傷ついてるのでしょう。

――どうやったら、そんなに余裕が生まれるのでしょうか。

水島: だんだん余裕を持てるようになるんですよ。私も若い時は言葉狩りのようなことをしていた時期もありますが、いろんなことを経験して、自分が伝え方を変えた方がいいなと変わってきたと思っています。

日本は男が女を引き上げる、世界では女が女を引き上げる

――日本と世界で何か違う点はありますか?

水島: 日本は男の権力者が女の人を引き上げるケースが多いです。世界を見ると、逆に女性が女性を引き上げている。たとえば、インドでバスに乗ると、席が空くとまわりの女性が呼んでくれます。「あなた、女なんだからここ座りなさい」みたいに。

アメリカの場合は、女性たちが自分の力で偉くなっている。たとえば有力な女性たちが私を国際学会の理事に推薦してくれるなど、チャンスを与えてくれたこともありました。ジェンダー分野の「発展途上国」である日本で頑張っている私のような女性を、みんなで応援しようとしてくれるんです。

日本で活躍している女性の中には、自分が恵まれていることに無自覚な名誉男性(男尊女卑的な考え方をする女性)も少なくない点は残念ですね。発言ができる立場になった女性たちは、自分ひとりで完結するのではなく、後に続く女性たちを引き上げていくことが大事だと思っています。そうやって、長い目で見て社会を変えていかなければならない。

今は恵まれていますが、私も研修医時代は足を蹴られながら、当直も男性医師と同じようにこなしながら、歯車として働いた経験があります。そこで認めてもらって引き上げてもらって……という経緯があるので、今恵まれているということがすごくわかります。

だからこそ、私は、女性の立場を変えるために政治家になってみた。変えるための努力は常にしているわけです。

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●水島広子(みずしま・ひろこ)先生のプロフィール
慶應義塾大学医学部卒業。同大学院博士課程修了(医学博士)。同大医学部精神神経科勤務を経て、2000年6月~2005年8月、衆議院議員として児童虐待防止法の抜本改正などを実現。現在、対人関係療法専門クリニック院長。慶大医学部非常勤講師。アティテューディナル・ヒーリング・ジャパン代表。日本における対人関係療法の第一人者。ベストセラー「女子の人間関係」など著書多数。二児の母。

女に生まれてよかった。と心から思える本

著:水島広子

発行:朝日新聞出版

怒れる女