ふかわりょうの連載エッセイ「プリズム」12

【ふかわりょう】秋の気配

人気情報番組「5時に夢中!」(TOKYO MX)のMCや、DJとしても活躍するふかわりょうさん。ふかわさん自身が日々感じたことを、綴ります。光の乱反射のように、読む人ごとに異なる“心のツボ”に刺さるはず。隔週金曜にお届けします。

●ふかわりょうの連載エッセイ「プリズム」12

秋の気配

「じゃぁ、今日はゆっくり休んで明日に備えるように。それでは、解散!」
 リハーサルを終え、帰り仕度を始めるメンバーの中で、鈴太郎の表情だけが曇っていました。
「どうした? 具合でも悪いの?」
 鈴太郎の口が、微かに動きます。
「なんだよ、浮かない顔して。明日から本番だっていうのに」
「僕……デビューしたくない」
「え? なんて?」
「僕、デビューしたくない!」
 鈴太郎の声が周囲に響きました。

「なぁ、どうしたっていうんだよ」
「みんなで頑張ってきたじゃないか」
「一体、何があったんだよ」
 鈴太郎を囲むように、メンバーが並んでいます。
「怖くなったんだ……」
「怖くなった?」
「あぁ。なんか、自分に自信が持てなくなって。みんなの足を引っ張るんじゃないか、僕なんかいない方がいいんじゃないかって……」
「そんなことないって、今日だって、すごくよかったじゃない」
「たとえ間違えても、助け合えばいい」
「そうだよ、うちら5人でBELL’S FIVEだろ?」
 メンバーが口々に励ますと、鈴太郎の口が再び開きます。
「この前、見ちゃったんだよ……」
「何を?」
「掲示板……」
 掲示板の心無い書き込みを見て、鈴太郎はショックを受けたようでした。
「僕の音は雑音なんだ。僕はいない方がいいって。僕がいなければ、
もっといいグループなのにって……」
「そんなの気にするなって。言いたい奴には言わせておけばいいんだよ」
「そう! うちらが信じていることをすればいい!」
 鈴太郎の目に、涙が浮かんでいます。
「でも、どうしても、あの言葉が頭から離れなくて……」
 すると、どこからか声が聞こえてきました。
「怖いなら、辞めちまいな!」
 その声は、グループを育ててきたボスでした。
「辞めたって別に構わないさ。鈴太郎なしでデビューすればいい。」
「ボス!それじゃぁ、BELL’S FIVEじゃありません!」
 ボスは鈴太郎を見ました。
「私がデビューさせたいのは、弱虫じゃない。鈴虫のユニットなんだ。周囲の言葉を気にして自分のやりたいことを見失うような弱虫は、弱虫ファイヴでも、弱虫48でも組めばいいのさ」
 まわりのメンバーは何も言えなくなりました。沈黙を突き破るように、鈴太郎は飛び出しました。
「おい、鈴太郎!!」

「僕は弱虫じゃない!僕は、弱虫じゃない!!」
 鈴太郎は大きな石の下で、激しく羽を揺らしました。
「雑音だっていいじゃないか」
「ボス……」
「綺麗に鳴らそうなんて思うな。鈴太郎は、鈴太郎の音。他人の評価なんて気にするんじゃない」
 そして、本番の日を迎えました。

「来るかなぁ……」
「来るさ、必ず」
 すると、聞き覚えのある声がします。
「いつも鈴々、鈴太郎!」
 石の上で、鈴太郎が大きく羽を揺らしていました。
「鈴太郎!」
 5匹が揃うと、ボスが号令をかけました。
「さて、いよいよ本番だ。くれぐれも、家の中に入るんじゃないぞ! 入ったらたちまち嫌われ者だからな。あと、欧米人に向かっていくら鳴らしても、良好な反応は得られないぞ。最近はあんまり虫取り網持った少年を見ないが、時々いるから気をつけろよ」
 メンバーは、じっとボスを見ています。
「目一杯鳴らして、今年の秋を盛り上げてくれ。あとは、みんな……必ず生命を全うするんだぞ。あらためて、デビューおめでとう。それじゃぁ、行ってこい!」
 そうして鈴太郎たちは、草むらへ消えて行きました。涙を拭うボスの姿を、秋が見つめていました。

  

       

タイトル写真:坂脇卓也

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1974年8月19日生まれ、神奈川県出身。テレビ・ラジオのほか、ROCKETMANとしてDJや楽曲制作など、好きなことをやり続けている。