TBS古谷有美「女子アナの立ち位置」

【古谷有美】映画「SUNNY」から学ぶ女子の生き方

TBSの朝の顔、古谷有美アナ。またの名を「みんみん画伯」。インスタグラムに投稿される、繊細でスタイリッシュなイラストが人気です。6月には古谷さん初の個展「おじさんとガール」が東京・下北沢で開催されました。古谷さんのラブコールで「SUNNY 強い気持ち・強い愛」や「モテキ」を手がけた大根仁監督とのトークイベントも実現。当日のふたりの本音トークをお届けします。

●女子アナの立ち位置。

映画「SUNNY 強い気持ち・強い愛」が8月31日から公開されます。この作品の脚本・監督を手がけた大根仁監督と私・古谷有美のトークイベント「おじさんとガール」の対談の後編をお送りします。

前編はこちら

ロングヒットとなった韓国映画「サニー 永遠の仲間たち」の設定を1990年代の日本に置き換えてリメイクした意欲作。

高校時代を一緒に過ごした40代の女性たちが再会し、記憶の奥底に閉じ込めていた過去の自分とそれぞれ向き合いながら物語が進んでいきます。

大根監督は、女子高生たちの普段の会話の様子を撮影した当時の資料ビデオを探しだし、数年間かけてコギャル独特の言葉使いやファッションを徹底的に研究したそうです。

そんな90年代へのこだわりがたくさん詰まった映画となっています。

日本でガールが社会現象になった90年代

古谷有美(以下、古谷):最新作「SUNNY」を一足先に観てきました。私も8つ上の姉がいてちょうどコギャル世代だったので、小学生のとき、こっそり姉のルーズソックスを履いたりしたことを思い出しました。

大根仁(以下、大根):映画化の話は、「モテキ」の公開の後、プロデューサーの川村元気さんとの会話の中で出てきました。韓国版の「サニー」がおもしろかったと話すと、「リメイクしてみませんか」と軽く言われて。

あまりに傑作なので、最初は「世の中には手を出していい原作といけない原作がある」と否定していたんです。

韓国版は1980年代の韓国が舞台。軍事政権からの民主化運動が起きて、女子高生が自由を勝ち得ておしゃれをし始めた時代なんです。だからこそ成立していて、それをそのまま日本の1985年に置き換えても面白くない。

そう言ったら、川村さんが「じゃあどうしたら(リメイクが)できますか?」と。「90年代中盤のコギャルにスポットをあてたい。日本の女子高生が初めて自分たちの着たい服を着て、社会的現象まで至った時代でこそやるべきだ」と話したんです。

©2018「SUNNY」製作委員会

古谷:そこから次第に話が進み出したんですね。

大根:現代のパートで描く女性たちが40代にならないと、輝いていた高校時代を懐かしむというあの話が成立しないので、コギャル世代の代表である安室ちゃんが40になる年に映画を公開できるように、7年くらい寝かしていました。

古谷:劇中にかかる音楽もいいですよね。安室さんの「SWEET 19 BLUES」や、オザケンの歌も。当時、姉がカセットテープに入れたのを一緒に聴いていたので懐かしかったです。

サブカル系と女子アナってつながるの?

大根:古谷さんとサブカルってどう結びつければいいんですか?

古谷:サブカルの世界って私にとっては相当キラキラです。

大根:テレビの方が派手じゃないですか?

古谷:入社した当初は、アナウンサーってキラキラした世界だろうと、私も勝手な想像をしていました。なので、新人アナ=フレッシュというイメージにあわせて髪を切ってみたり、パステルカラーのアンサンブルを着てみたりと、「アナウンサーっぽい格好」もしたんですけど、どうも居心地が悪くなってしまいまして。

女子アナのメインストリームを目指さない

古谷:大根さんの作品でアナウンサーが登場したことはありますか?

大根:ないですね、多分。ただ、女子アナという職種には興味があって、中でも関心があるのは就職活動のことです。

難関なので、東京とか大阪の大きな局に落ちた人は、真偽は定かではないですが、みんなスーツケースを手に就職試験をずっと受けていくという話を聞きました。

古谷:私の場合は、大学3年生の秋に決まりました。今よりうんと早かったですね。一週間に集中して毎日のように 月曜日が一次試験、火曜、水曜…と試験があって、「明日何時にここに来てください」という電話がかかってきてました。

大根:そして入った後も下剋上の世界じゃないですか?

古谷:実力主義というんでしょうか。だから私はそのメインストリームは早く外れておこうと思ったんです。

大根:どういうことですか?

古谷:まずは誰しもがいわゆる王道みたいなとこを目指すわけですが、それに悩んで全く違う業界の先輩に「どうやって仕事を楽しんだらいいか」という相談をしたんですね。

すると、「あなたが、見ようとしてるのは本当はメインストリームじゃないんじゃないの?」っておっしゃったんです。先ほど言った王道の方だとみんなが目指すから、ものすごい狭い道を何十人、何百人と一斉に走るので、ドロドロに詰まった血管みたいな状況になってしまう。

「だったら自分が走りやすい別のルートをたとえ険しい道でもいいから、走った方がいいんじゃない?」と、無理に混み合った道をいくより、同じくらい険しくてもひとと違って早くゴールまでいける道が案外あるんじゃないのかとアドバイスくださって、たしかにそういう考えもあると気づいて救われた思いがしたんです。

才能って人が見つけてくれるもの

大根:何人か知り合いもいますが、女子アナの方たちがこうしていろんな思いを抱いて実力主義の中で戦い続けている姿をいつかは撮りたいと思っています。華やかな世界の裏というか。

古谷:世の中の皆さんのイメージはそうかもしれません。でも、私たちアナウンサーはみなこの仕事を「どうだーすごいでしょ」とは思っていないです。

入社して8年目ですが、最近、自分の居場所とか才能って人が見つけてくれるものだと感じているんですね。個展を開かせてもらったり、インスタにイラストをあげるようになったのも、誰かが「やったほうがいいよ」と言ってくれたからですし。

こうなろうと強く思い込まず、周囲が見つけてくれる自分に委ねてみると少し楽になるんじゃないかなと考えています。

構成:山口亜祐子 写真:telling,編集部

  • ●大根仁(おおね・ひとし)さんプロフィール
    1968年東京生まれ。2010年「モテキ」の演出・脚本・撮影を担当。15年、監督・脚本を担当した映画「バクマン。」公開。同作で、日本アカデミー賞優秀監督賞、日本映画批評家大賞・監督賞を受賞する。17年、監督・脚本を担当した映画「奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール」が公開。「SUNNY 強い気持ち・強い愛」が公開予定。

1988年3月23日生まれ。北海道出身。上智大学卒業後、2011年にTBSテレビ入社。報道や情報など多岐にわたる番組に出演中。特技は絵を描くことと、子どもと仲良くなること。両親の遺伝子からかビールとファッションをこよなく愛す。みんみん画伯として、イラストレーターとしての活動も行う。
九州のローカル局で記者・ディレクターとして、 政治家、アーティスト、落語家などの対談番組を約180本制作。その後、週刊誌「AERA」の記者を経て現在は東京・渋谷のスタートアップで働きながらフリーランスでも活動中。
20~30代の女性の多様な生き方、価値観を伝え、これからの生き方をともに考えるメディアを目指しています。