【古谷有美】シモキタの洗礼。”女子アナとサブカル"ってミスマッチ感ある?
●女子アナの立ち位置。
東京・下北沢…シモキタといえば、サブカルチャー感にあふれる街。そんな芸術や文化に目の肥えた人たちが集まる場所で、無謀にも先日、トークイベントをしかも自ら企画して開催してしまいました。タイトルは、「おじさんとガール」。
ぱっと見では意味不明な謎イベント。人が集まるか不安でしたが、100人以上の方が来てくださり、台本もない、どんな質問が飛び出すかわからない、テレビとは違った「筋書き無し」の時間を過ごすことができました。
名刺を持って飛び込み営業
いま、telling,やインスタで描いたイラストをたくさんの皆さんに観てもらっています。2年前から絵を描き始めて以来、20代のうちに「個展を開く!」という目標を掲げていました。理想は、絵を並べてそれをじっと見てもらうのではなく、たとえば、本を楽しんだり、お酒も飲めたり色んな目的のお客さんが来るところ。いろいろと探している中で、この条件にぴったりあてはまるお店が見つかりました。それが、下北沢にある本屋B&Bさんだったんです。
でも見つかったのはいいけど、そこで私の個展を開かせてもらえるかどうかは別問題です。何度も足を運んで下見しながら、意を決して、名刺を持ってお店の方に直接アタックしました。
「あのー、ギャラリーの作家って応募したら個展を開かせてもらえますか?」
アナウンサーという仕事は、数え切れないほどのスタッフの手を経て準備されたものを視聴者に届けるという役割を担うことが多いので、自分でゼロから始めるという経験があまりありません。
お店に企画を自分で持ち込んで組み立てていきながら、何ならトークイベントもやろう、個展のテーマ「おじさんとガール」にぴったりなゲストとして、映画監督の大根仁さんにお願いしたら出演OKとなって…とどんどん企画がふくれるにつれ、ワクワクしながらも、不安も膨らんでいきました。
苦手が好きになる瞬間
もしお客さんが全然集まらなかったら、大根監督に何て謝ろう。そんな不安は、会場で満員のお客さまを観てようやく喜びに変わりました。
とはいえ、監督とは面識もなく初対面です。本番の10分前に初めて控え室でご挨拶し、なんとなく雑談していたら、さぁもう開始時間!打ち合わせはほぼゼロの状態でした。今まで仕事でやってきたどんなインタビューよりも、ぶっつけ本番で、質問項目を書いた手元の小さなメモの存在も忘れるほどです。
ただ、話に食らいつくことで必死な中で「アナウンサーらしい仕事」にこだわらず、型にはめず、経験がないから不安と思ったことにも挑戦するのって楽しいなと感じていました。
手の届きそうな至近距離に、大勢のお客さんがいて、笑ったり、時には難しそうな表情で頷いていて、その表情はつぶさに見てとれる。
本当に私のつたない質問や話を聞きたいと思ってくれているだろうか?と、自信の無さに押しつぶされそうになりながらも、一方で、テレビやラジオの仕事では経験したことのない、台本も決まりごとも一切なく自由にお喋りをし続ける「ナマモノ」の空間を、親しい仲間と共有している感覚がずっとありました。
おじさんを絵で描く理由
不安だったり苦手だったりすることへの挑戦って意外に面白い!という経験は、イラストでもあります。
個展のテーマである「おじさんとガール」。ガール=女の子の絵は、たとえば、小さいときに少女マンガの主人公のような絵を描いていたという女性も多いのではないでしょうか。私もそうでした。自分が着てみたいと思った洋服を着ているお姫様のような女の子の絵をチラシの裏にせっせと一人で描いていました。
”おじさん”の絵を描き始めたのは、ここ2年くらいのことです。「可愛い」とか「おしゃれ」とかの真逆にいるようなモチーフだと思ったので、「いい感じに描けたら絵うまくなれそうだな」と。そんなキッカケです。
女の子のイラストは慣れていたので、イラストのスキルを磨くなら1番描くのが苦手なものを描いてみようと、モデルとなる男性やファッションを本や現実世界で探し始めました。
最初は、苦手なジャンルに挑戦するんだという意気込みが強かったのですが、おじさんには、イラストで描いていくほど、奥深いかわいらしさがあることに気づきました。
渋味や枯れ味にすごく趣があって、味わい深い。植物や動物、カリグラフィも楽しいですが、そこには「綺麗」とか「可愛い」が優先要素だったりします。でも「おじさん」は、どことなくくたびれていたり、ちょっとした隙があるくらいがちょうどいい。
絵になると、そのくたびれた具合や隙が不思議と温かみとか優しさを帯びて、なんとも愛おしく見えてくるんです。
自分の好きな仕事をとことん深掘りするのも素敵ですが、「不安や苦手」だと距離をおいていることに挑戦すると、また違う可能性が広がる。飛び込み営業で実現した個展とトークイベントで、新たな自分らしさを見つけることができました。
構成:山口亜祐子 写真:telling,編集部
- (※みんみん画伯と大根監督とのトークイベントの様子は、次のコラムで特別編としてご紹介する予定です。お楽しみに!)