【ふかわりょう】都会のカラス
●ふかわりょうの連載エッセイ「プリズム」05
都会のカラス
「あれは、カラスの巣だと思います」
その言葉に、私は、ある種の感動を覚えました。
都会のビルの屋上から望む鉄塔の中腹に、まるで磁石に吸い寄せられた砂鉄のように、枝のようなものがグシャーっと集まっています。あれは、一体。その疑問に、同行していたスタッフが答えてくれました。
「カラスの、巣?」
砂鉄のように敷き詰められているのは、どうやらハンガーのようです。クリーニング屋さんなどでもらう、鉄のハンガー。あれだけの量のハンガーをどこで拾ってくるのか、それらを重ねて重ねて、都会のど真ん中に築かれた、大きな巣。あの場所だと、木の枝では飛んでしまうのでしょうか。それにしても、ハンガーをくわえているカラスなんて見たことありません。
都会のカラスは大変です。本来なら、あんなところを棲家(すみか)にしたいわけじゃないでしょうに。それでも必死に自分たちの居場所をつくっているカラスたちに、けなげささえ感じてしまいます。
カラスというと、都会ではゴミをあさり、非常に迷惑な存在。鳥の中でもかなりヒール役で、カラスが好きだという人はなかなかいません。ヒッチコックの作品でも、その真っ黒な風貌から不気味さが抽出され、人間との相性が芳しくないようです。ますますカラスを恐れる人々。しかし、彼らの棲家を奪ってしまったのは我々であるのも否定できません。
先日亡くなられた、かこさとしさんの絵本、『からすのパンやさん』。そこには、とても優しく愛らしいカラスたちがいます。我々は、誤解しているのでしょう。カラスを悪者に、凶暴にしてしまったのは私たちで、自然の世界ではむしろ彼らが被害者。自然との共生、動物との共生は決して容易いものではありませんが、あの鉄塔を見たとき、感動の先に、胸の痛みを覚えました。カラスにも、「住めば都」があればいいのですが。
「あのあたり、少し不安定になってきたから、もう少し補強した方がいいね」
「そうだな、次の燃えないごみの日に探してみるか」
あなたが今使っているハンガーが、いつか、カラスの棲家になるかもしれません。
タイトル写真:坂脇卓也