ハクビシンの憂鬱 ふかわりょうエッセイ「プリズム」04

人気情報番組「5時に夢中!」(TOKYO MX)のMCや、DJとしても活躍するふかわりょうさん。ふかわさん自身が日々感じたことを、綴ります。光の乱反射のように、読む人ごとに異なる“心のツボ”に刺さるはず。隔週金曜にお届けします。

●ふかわりょうの連載エッセイ「プリズム」04

ハクビシンの憂鬱

 それからというもの、私は、空を眺めるようになりました。

 私が初めて彼に遭遇したのは、数年前。日が延びて、7時になってもまだ明るさが残っている、夕方と夜の間。ちょうどいまくらいの時期だったと思います。

「あれ?」

 上空で、何かが動いた気がしました。

「何かいる?」

 ぼんやりと浮かんでいる影は、猫のようなシルエット。

「電線に、猫?」

 しかし、違和感があります。尻尾や胴体の膨らみ。どうも猫ではありません。では、電線の上にいるのは一体。

「ハクビシン?」

 その時私が遭遇したのは、ハクビシンでした。都会の住宅地に広がる電線の上を、ハクビシンが歩いていたのです。

 ハクビシン。かつて感染症の媒介だと疑われ、一躍その名を知らしめましたが、今日では民家の屋根裏などを棲家にしてしまうそうで、駆除の対象になっています。すーっと鼻に白い筋があって、アライグマのようで、確かに見ている分には可愛いのですが、家に巣を作られたらなかなかしんどいでしょう。横浜の実家の裏にタヌキがやってくることは稀にありましたが、東京でハクビシンに遭遇するとは。しかも、電線の上を歩くなんて。

「いないか…」

 それ以来、日が暮れると、空を見上げるようになりました。ハクビシンは夜行性で、ちょうど暗くなり始める時間帯に動き出すようです。

「いた!!」

 間違いなく、あれはハクビシン。今度はついて行くことにしました。彼は電柱に着くと、電車の乗り換えのように、別の電線に飛び移ります。どこへ行くのか、どこかに帰るのか。大きなあみだくじをしているようです。暗がりの中、ハクビシンの影を追いかける男。

「だめか……」

 さすがに住宅街では無理がありました。

 

 「今日、しつこい奴がいてさぁ、参ったよ」

 「しつこい奴?」

 「そう、追いかけてきたんだよ」

 「え? まじで? ウケる!」

 「笑い事じゃないよ、もう、よじ登ってくるかと思った」

 「ははは!まじで? ウケる!

 「最近は、スマホのおかげで、みんな下を向いてるから、いい時代になったと思っていたんだけど」

 「相当な変わり者だね。追いかけてどうしようと思ったのかね?」

 「さぁ。しかし、この時期は危険だな。少し時間をずらさないと」

 

 この時期になると、彼らを思い出します。時々、見上げてみてください。ハクビシンが歩いているかもしれません。夕方と夜の間に。

タイトル写真:坂脇卓也

1974年8月19日生まれ、神奈川県出身。テレビ・ラジオのほか、ROCKETMANとしてDJや楽曲制作など、好きなことをやり続けている。
フォトグラファー。北海道中標津出身。自身の作品を制作しながら映画スチール、雑誌、書籍、ブランドルックブック、オウンドメディア、広告など幅広く活動中。

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