象眼師(37歳)

伝統の肥後象眼とスペイン象眼、組み合わせて“今”の息吹を。

象眼師(37歳) 2003年に金属を彫って金銀などを埋め込む「象眼(ぞうがん)」に出合う。2015年に肥後象眼とスペイン象眼を融合したアクセサリーブランド「ダマスキナドール」を立ち上げる。

ピカソと比べて「私には絵の才能ないな」

 職人っぽくないですよねー。ちょっと前まで金髪にしてました。よく驚かれます。すみません。これでも、職人です(笑)。

 もとから、絵を描いたり、モノをつくるのは好きだったんです。でも、小学生の時に学校の図書室で、9歳のピカソが描いた犬のデッサンを見て、その緻密(ちみつ)さに「あ、私は絵を描くのは向いてないな」と思って諦めました。天才と比べるなんて、おこがましいんですけど(笑)。それで物をつくる方にシフトしていきました。今だとよく見ますが、当時は珍しいフェルトのアクセサリーなんかをつくっていました。

肥後象眼、最初は「かわいくないじゃん」って

 23歳ごろ、肥後象眼のことを知りました。地鉄を彫り込んで、金や銀を埋め込む熊本の伝統工芸。お侍さんの刀のつばの装飾なんですけど、最初は正直「かわいくないじゃん」って思いました。23歳の小娘にわびさびの世界観なんてわかりませんしね(笑)。でも、黒・金・銀のポイントを使ったアクセサリーにしたら、かわいくなるんじゃないかなって思いました。

 象眼についてネットで調べていると、スペインにも技術があると知りました。なんとしても行きたい!と思って、九州電力の派遣事業に応募して、留学できることになりました。でも、スペインにコネなんてありません。九州中のヨーロッパに詳しい人を頼るような気持ちで、留学先の職人を紹介してもらいました。

 スペイン語はほとんど会話で覚えました

 語学ですか? 英語は英検2級。スペイン語は「グラシアス!(ありがとう)」くらいです。でも、英語でなんとかなるんだろって思っていました。

 いや~甘かった。スペインの職人さんが英語なんてわかるわけないですよね。というわけで、現地では全部スペイン語。でも開き直って「これ何なの?」「へえ、そうなんだ~」と日本語の、しかもため口で会話していました(笑)。文法書も一応読んだけど、ほとんど会話で覚えた感じです。なので、私のスペイン語はおじさんっぽいみたいです。

 帰りたいと思ったことは一度もなかったですね。なんせ、ワインもご飯もおいしい。楽しかったなあ。半年の留学から帰国した5カ月後には、またスペインに留学に行きました。次は、スペイン象眼の第一人者の方の下で修業させてもらいました。

 スペインで一通り修業してから、また、日本の象眼の技術を見ると、また違った発見がありました。日本独特の「空間の美」。何もない空間に、美を見いだす日本的な感覚が美しいなと気づきました。そこで、スペインの派手できらびやかなものと、日本のわびさびを融合した、私ならではの「かわいい」を生み出したいなと思いました。

つくりたいからつくる。シンプルです

 ずっと、伝統工芸の後継者の家の子が、うらやましかったんです。道具もそろっていて、教えてくれる人も探さなくてもいるわけで。私は何もないから、全部自分で見つけなければならなかった。でも、逆に言うと、私には背負っているものは何もないんです。この技術を後世にっていう気負いもない。つくりたいからつくる。シンプルです。

 お客様からのオーダーを受けないのも、そのためです。お客様が欲しいものをつくるのであれば、私じゃなくてもいいと思うんですよね。私は私にしかつくれないもの、私がつくりたいと思うものをつくりたい。その中で、お客様に気に入っていただけるものがあったらいいな、っていう。いやーほんと、勝手だなって思いますけど、そうじゃないと、私飽きっぽいんで、続けられないんですよねー。

 親には結婚しろと言われるけど、事実婚でいいかなって

 結婚については、彼に待ってもらっています。彼とは10年前にスペインで出会って、今は愛知にいます。私は熊本を拠点に全国をぐるぐる回っている状態なので、会えるのは23カ月に1度。親には結婚しろと言われますけど、「あ~そうか~、日本ってそうよねえ」って感じです。私は事実婚でいいかなあと思っているんですけどね。子どもを生むと、23年はやりたいことを中断しないとだめじゃないですか。それがなあー。過ぎてしまえば23年なんてあっという間なのはわかるんだけど、目の前の23年はやっぱり大事で。

 私がスペイン象眼と、肥後象眼をあわせたことで批判もあります。こんなの肥後象眼じゃないって。でも、たとえ伝統工芸であったとしても、変わっていくものじゃないですか。残していくためにも現代に合わせていく必要があると思っています。

熊本にて

未婚、既婚、子どもの有無、転職や独立の経験者。恋好き、旅好き、おいしいもの好き(缶チューハイ含む)。さまざまなstoryを持つ「telling,」編集部メンバー。
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