守るもの、変えるもの。29歳女性の、"和”へのチャレンジ。
120年続く布問屋「丸久商店」を切り盛りしている斉藤美紗子さん(29)。お店を継いだのは4年前とのこと。笑顔で出迎えてくださいました。
――そもそも、どうして斉藤さんはこの道に入られたんですか?
斉藤美紗子さん(以下、斉藤) 丸久は私の母方の家業なんですが、私が小さいときから父が一人で切り盛りしていて。「父の仕事場」という感じでたまに遊びに行くくらいで、「跡を継いでほしい」みたいなことは言われたことなかったんです。
東京芸大に入学、大学院まで進学したのち・・・
――それじゃ、どうして?
斉藤 私、東京芸大の美術学部で日本画を専攻していて、そのまま大学院に進みました。将来については院に進んでも決めてなかったんですが、あるとき父が、「もう、そろそろ(辞めよう)かな」ってつぶやいたんです。その言葉を聞いて、「このままたたむのはもったいないな」って。卒業しても、画家として生活していくのは簡単じゃない。「アルバイトでいいから働かせてください」と父に頼んで、就職活動もせずに、ここで働き始めました。
先月、結婚したばかりの旦那さんも同時に、同じ道へ
――女社長ということ?
斉藤 いえ、主人と2人で。実は、先月結婚したばかりなんです。
――お二人が虜になった布、早速見せてください!
斉藤 単に布を仕入れるだけじゃなくて、作っているんです。“図案師”が描いた布柄を、職人が手彫りして、その後手染めをして。人の手で、一つひとつ作っています。毎年40点くらいの新作の布をつくって、卸問屋さんや呉服店さんに卸しています。
半世紀以上前の職人さんの作品を生き返らせる
斉藤 明治時代から続く「注染」という染め方で作っています。当時は手に入りやすい値段で、身近なものだったんですけれど、最近はインクジェットで印刷した布がたくさん流通するようになったので、もう「伝統工芸」の域なんですよね。
斉藤 丸久は、100年たくさんの型紙を作って、保管してきていて、私もまだ全貌はつかめていません。こうやって無造作に置かれてますが、宝の山なんです(笑)。
――これが全部、型紙・・・・・・。
繊細な柄でも、全部、手で掘る
斉藤 右が「型紙」で、左が実際に染めた布です。もともとは日本舞踊や季節のお祭りなどで手拭いの注文を受けていて、最近は、浴衣や「復刻染」の手拭いとしても売っています。
――細かい!これ、何に彫られているんですか?
斉藤 和紙です。一回型紙を作ったら、何回か布に染めて繰り返し使います。今は、腕利きの職人さんの高齢化が進んでいたり、和紙の質が落ちたりして、すぐに破れてしまうことも。機械化も進んでいるんですけれど、私は昔ながらの染色方法にこだわりたいなと思っていて。人の手で彫って、人が染めるからこそ、機械では表現できない揺らぎや味が出てきて、世界に二つとない布ができます。それが、とても楽しいなと感じています。
最初は、不安でいっぱいだった
斉藤 でも、最初は不安だらけでした。問屋って、卸業者の方に、反物のまま渡してそこで取引が終わってしまうので、どんなふうに加工されるのか、どこで売られるのか、誰に届くのか、何もわからない状態。私の仕事は、誰の役に立っているんだろう、って思ってました。
今は、顔が見える直取引をしたいと、卸業者さんや呉服屋さんに営業しています。結構、若い世代もこの業界に入ってきているんです。みんな、「20~30代の若い世代の方に、本物の良さを知って、気軽に使ってほしい」という思いで仕事しています。
――手拭い。これなら、私でも気軽に使えます。
斉藤 こうやって長い布を切って、手ぬぐいや浴衣などに変身していくんです。私がほしくなっちゃって、もう浴衣は30着ほど・・・。レトロでかわいいし、マナーなどは気にしすぎずに、どんどん身につけてほしいなと思っています。
女性のための着物イベント・「東京キモノショー2018」が5月2日、スタート
斉藤 5月に、「東京キモノショー2018」という、着物や和装全般のイベントに出展するんです。去年は1万5千人も来場してくださったんですよ。今年は、実行委員として運営にも携わって、1年間準備をしてきました。来場されるのはほぼ女性。洋服で来てもOKだし、いろんなワークショップがあって。作り手もお客さんも、みんなで集まれるチャンスなので、今から楽しみです。
――今年は、久しぶりに浴衣、着ます! 斉藤さん、ありがとうございました。
- 東京キモノショー2018
- 会場:東京都中央区日本橋室町2-2-1 COREDO室町1 5F・日本橋三井ホール
- 会期:2018年5月2日(水)~5月6日(日)
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