●本という贅沢#162『それでもあなたは美しい オードリー・ヘップバーンという生き方』

さとゆみ#162 すっと背筋が伸びる。これも多分、彼女の魔法。「オードリー・ヘップバーンという生き方」  

隔週水曜にお送りするコラム「本という贅沢」。書籍ライターの佐藤友美(さとゆみ)さんが紹介するのは、世界中で愛された大女優についての1冊です。この本を読むことで、大女優の姿が輪郭を持って立体的に立ち上がってきたそうです。
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本という贅沢#162 『それでもあなたは美しい オードリー・ヘップバーンという生き方』(山口路子/ブルーモーメント)

現在公開中の映画「オードリー・ヘプバーン」を試写で見た。
初の長編ドキュメンタリーだという。
戦争によって飢えた過去があること。両親の離婚によって、ことさら結婚に強い思い入れがあったこと。キャリアよりも家庭生活を優先させたこと。しかし、何度も流産したこと。
ユニセフでの献身は、そんな彼女の人生の集大成でもあったこと。

これまでスクリーンの中でしか知らなかった大女優の、見たことのなかった顔にちらり触れられたようには思えたのだけれど、しかし100分の映画を観て、彼女を深くわかった気持ちになったというよりは、もうちょっと知りたいと思う気持ちの方が、強く残った。

ワイドショーを見ているような感覚でテンポよく進む映画が、ちょっと「わかりやすすぎた」からかもしれない。もうちょっと”行間”を知りたいと思っていたときに、友人からこの本を教えてもらった。

それが、2012年に発売された『オードリー・ヘップバーンという生き方』の再生版となる本書、『それでもあなたは美しい』だ。

一読した感想は、「ときに文章の方が、音声よりも動画よりも、雄弁にその瞬間を再現することがあるな」ということ。
映画だけではわからなかった、オードリー・ヘップバーンという人の姿が、輪郭を持って立体的に立ち上がり、その佇まいの美しさに惚れ惚れとする体験ができた。

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これはよく考えることなのだけれど、書籍を読んでいるときに「再現VTR」を見せられているような気持ちになるときと、実際にその場に立って同じ景色を見せてもらっているような気持ちになるときがある。

その違いはどこにあるのだろうといつも考えていたのだけれど、今回、その答えの一部がわかったような気がする。
それは多分、著者と取材対象者との距離感と視座の位置だ。映像でいうと、どんなレンズで、どの角度から撮影するか。

きっと、誰かを本当に知りたいと思ったなら、相手に肉薄し重なるくらいの距離で息づかいを聞きながら、同時に距離を置いて客観的に突き放す瞬間も必要なのだろう。情熱と冷静をいったりきたり。
優れたノンフィクションや評伝には、それが、ある。

そして、この本が、そうだった。

ことさらセンセーショナルに書こうとしない、著者・山口路子さんの筆致のおかげだろう。この本ではとてもフラットに、オードリーが見てきた世界を見てきた順番で、見せてもらったような感覚があった。

その「フラットさ」や「公平さ」のようなものは、オードリーの生き方の美学そのものと通じていたように感じる。
そうだ、そういえば、この本の装丁やフォント、紙の手触りや、ページネーションにいたるまで。細部に目配りがきいた品のあるモノづくりも、やはりオードリーの仕事に通じているのだろう。

オードリーに触れた人は、なぜだか自分も品良く背筋を伸ばしたいと思うものだ、というようなことが書かれていたけれど、まさにその気配が本全体から漂ってくる、筋の美しい一冊。

私はいつも本を読みながらガシガシ線を引きまくり、ページを折りまくり、お風呂で読んだりもするのだけど、今回ばかりはそーっとページを繰って大事に読みました。

ところで、再生版のこの本には、出版社ブルーモーメント代表の竹井夢子さんの手書きコメントが挟まっている。すでに、元本を持っている人にもおすすめしたい。このコメントを読むだけでもモトが取れると思う。

何重かの意味で、この本に対するアンサーソングになっていて、私はここで一番泣きました。

 

 

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さとゆみ#161 一見正攻法。でも一周回ったらやっぱり「ずるい仕事術」だったよ佐久間さん 
ライター・コラムニストとして活動。ファッション、ビューティからビジネスまで幅広いジャンルを担当する。自著に『女の運命は髪で変わる』『髪のこと、これで、ぜんぶ。』『書く仕事がしたい』など。