佐久間宣行のお笑い愛 『トークサバイバー!〜トークが面白いと生き残れるドラマ〜』がバラエティを拡張する
●熱烈鑑賞Netflix111
伝説のバラエティが超進化して登場
「こんなのぼりつめることあるんやな」。「エピソード1」冒頭で千鳥大悟がつぶやいた。たしかに、Netflixでこんなバラエティが観られるとは、思ってもみなかった。
お笑いファンを中心に熱狂を持って迎えられた番組『NEO決戦バラエティ キングちゃん』(テレビ東京)のレギュラー放送が終了して6年。この番組のなかでもとりわけ人気を集めていた「ドラマチックハートブレイク王」がまさかの超進化を遂げて帰ってきた。それがNetflix『トークサバイバー〜トークが面白いと生き残れるドラマ〜』だ。テレビ東京を退社後、ますます活動の場を広げ続ける佐久間宣行プロデューサーの手によるバラエティ作品。学園ドラマ、あるいは刑事ドラマの最中、ふとキャストから投げかけられたお題をもとに、芸人たちがアドリブでエピソードトークを披露していく。
このドラマ部分が過剰にドラマティックで、芸人たちの入り込んだ演技につい笑ってしまう。要素としては同じく佐久間Pが手がけ映画化までされた『ゴッドタン』の人気企画「キス我慢選手権」や、千鳥が単独ライブで披露する芝居「大悟魂」を彷彿とさせる。そういえば「キス我慢選手権 THE MOVIE」のテーマ曲も、今作と同じサンボマスターが手がけていた。
しかしこのドラマパートの映像と展開がやけに本格的で、つい引き込まれてしまう。これがもしもただエピソードトークを披露するだけの番組だったら、こんなにも次のエピソードを見たいと強く思わなかったかもしれない。一気見させる牽引力はドラマパートが担っているところが大きいだろう。演出を担当したのは『全裸監督』も手がけた河合勇人。そして、『ウレロ』シリーズほか佐久間Pの信頼も厚い土屋亮一の脚本には、ついアッと言わされる。最終回にはちょっとした感動すらあった。
なにしろ、つねにノブがモニタリングしているのが大きい。本格ドラマに一瞬戸惑う視聴者に先んじて驚きの声をあげ、本気で演じる間宮祥太朗や東出昌大に「間宮!」「東出!」と名を呼ぶだけでツッコむあの声があるから、面白い部分をもらさずに楽しむことができる。
作品を、芸人たちを支える大悟の強さ
もちろんメインはトーク部分。何度か大悟がエピソードトークのなかでこの撮影のハードさを語っていたが、芸人たちがこの場を晴れ舞台と捉え、全力で挑んでいるのが作品の端々から伝わってくる。自分の過去を暴露する人、思いの丈を赤裸々に告白する人、「しょうもない話」というテーマにぴったりのしょうもなさを提示する人……。その人らしいエピソードを話したり、イメージを裏切るような話があったり。追い詰められた彼らが放つとっておきの話には、笑わずにはいられない。
回ごとに脱落していく芸人がいるなかで、進行上、おそらく大悟は簡単に脱落することはできない(このスタッフなら、もし大悟が落ちた場合の展開もちゃんと用意していたような気もするけれど)。でも、そんなことを気にしなくていいくらい、大悟のエピソードがちゃんと毎回面白いのが気持ちいい。さらには、大悟が他のメンバーのエピソードに添える一言がフォローになっていたり、笑いを増幅させるものになっていたりもする。
「サバイバー」と名がついていて、生き残りをかけているのだから、競い合う要素がゼロではない。登場した芸人がたった一回で消えていく容赦なさもある。けれども大悟に限らず芸人たちが互いのエピソードをほめ、力を合わせてその場を盛り上げている姿が印象的だ。いまのお笑い界全体にある助け合ってみんなで生き残っていこうとする姿勢の一端が見えるような気もする。
オズワルド伊藤や錦鯉渡辺らが集う「エピソード5」のルーキー回もよかった。2名が選抜されたあと、選ばれなかった者たちに大悟がかけた「悪くはなかった、だが悪くはなかった程度はたくさんいる」という言葉が重い。もしかしたら唯一、ここがサバイブ要素を強く感じられたところかもしれない。
バラエティの枠を広げる新たな一撃
佐久間プロデューサーは、手がける番組やラジオでのトークから芸人に対する愛と敬意が感じられる。それから、演劇やドラマなどエンタメへの造詣も深い。ドラマティックな展開、本格的な映像、キャスティング……。彼が培ってきた要素が結集したのがこの作品なのだろう。
過剰なドラマと必死で繰り出されるエピソードにずっと笑っていたはずなのに、見終えたら芸人たちがかっこよく見える。『トークサバイバー』は、バラエティの枠を広げる一作だ。
出演:大悟、ノブ、劇団ひとり 他
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