「ポーラー 狙われた暗殺者」を配信マニアの妻に勧められて観た、控えめに言って最高【熱烈鑑賞Netflix】
●熱烈鑑賞Netflix 05
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私事で恐縮なのだが、先日結婚した。妻の家には、テレビがない。地上波を見られなくて暇ではないかと聞くと、ニュースはネットやラジオでわかるし、タブレットやパソコンでNetflixの配信作品を付けっ放しにして見ているから、暇どころかそこそこ忙しいという。
そんな妻の配信作品の好みは、おれとはちょっと異なる。おれはNetflixでは麻薬やら殺人やらといった物騒なネタを扱ったドキュメンタリーを好んで見ていたが、妻は数シーズンにわたる長編ドラマも平気で見る。せっかく結婚したことでもあるし、妻にレコメンドされた作品を勧められるままに見るのも面白そうだ。というわけで、ここでは妻チョイスによるNetflixのオススメ作品を鑑賞し、その面白いところをおれなりに拾っていきたいと思う。
退職金をケチられて血塗れの殺し合いへ突入!
一発目は『ポーラー 狙われた暗殺者』である。2012年にウェブ上で発表されたヴィクター・サントスによるオンライン・アクション・コミック『Polar』を原作とする、Netflixオリジナル作品だ。作者ヴィクター・サントスは自身のウェブサイトでアラン・ドロン主演の『サムライ』や鈴木清順監督の『東京流れ者』、1967年の『殺しの分け前/ポイント・ブランク』など往年のノワール/クライム映画からの影響を公言しており、白と黒でバッキリと描かれた絵面も相まって渋い雰囲気のコミックとなっている。
映画版『ポーラー』はちょっと味付けが異なり、より露悪的でポップでどぎつい、若干バカ寄りのムードとなっている。主人公ダンカン・ヴィズラは「ブラック・カイザー」の異名を持つベテラン暗殺者。凄腕で鳴らした彼だったが寄る年波には勝てず、所属する暗殺組織「ダモクレス」の規定によって50歳での定年退職を2週間後に控えていた。
一方、ダモクレスから引退した暗殺者が、ダモクレスのトップであるブルートの手下たちによって殺害されるという事件が多発。ブルートは巨額の退職金および年金を支払うのをケチり、かつて自分が仕事をさせていた暗殺者が退職したところで、自らの手下に殺させていたのである。
引退を控えたダンカンは雪深い小さな町に引っ越し、定年後の生活に備える。かつての仕事を思い出し悪夢に悩まされるも、近くに住むおとなしい女性カミーユとも親しくなり、静かな生活を手に入れたかに見えた。しかしかつてダンカンが贖罪として多額の寄付をしていたことから口座の情報が破られてしまい、ブルートの手下たちがダンカンのもとへと迫る。追手を振り切り、ダンカンは無事引退することができるのか。
引退した殺し屋と、それを追うイカれた暗殺者集団の全力バトルということで、『ジョン・ウィック』とか『キリング・ガンサー』のような雰囲気。そして暴力シーンは『ポーラー』も負けず劣らずハデである。特に追跡に当たるブルートの暗殺チームは、エロいねえちゃんに寡黙なスナイパー、ヤク中の女を連れた暗殺者に、全身ボンテージなボディスーツを着た女リーダーと豪華メンバー。ダンカンの足跡を追うために関係者はもれなく皆殺し。特に途中に出てくる「一発で死なないデブ」を殺すシーンはめちゃくちゃである。なにもあんなにドカドカ撃ち込まなくても……。
それに対してダンカンは徐々に追い詰められる。ダンカンが落ち着いて生活しているパートではしっとりしたヒューマンドラマっぽい質感の映像なのに、暗殺チームが追跡しながらモリモリ人を殺すシーンでは一転してバキバキの色調に。静かに暮らしたいダンカンと、ネジが外れた暗殺チーム。画面の質感からして対照的な両者がついに激突した時、伝説の暗殺者ダンカンの殺人テクニックが炸裂する。やはり退職金をケチってはいけないし、長年働いた人には敬意を払わなくてはならない。そんな教訓に満ちた映画である。
マッツ・ミケルセンというどてらい男
主人公である伝説の殺し屋ダンカンを演じるのは、「北欧の至宝」ことマッツ・ミケルセンだ。断言するが、『ポーラー』はほぼマッツのPVである。冒頭のパンツ一丁胸毛フサフサマッツからの直腸検査マッツに始まり、北国で孤独に暮らすマッツ、ドア工事のコスプレで頑張るマッツ、スーツのマッツ、銃撃戦マッツ、エロいマッツ、殴打マッツ、拷問マッツと、フルコースの大盤振る舞い。ケツ丸出しの全裸からフォーマルまで、マッツにやってほしいコスプレはだいたい全乗せの大名舟盛り。具が全部マッツ・ミケルセンのラーメン二郎みたいな映画である。
特に強烈なのが、劇中とある事情で片目を潰されてからの眼帯マッツである。マッツに眼帯。牛丼と紅生姜、富士山と月見草並みのマッチ具合で、思わず見ていて笑顔に……。「原作でもつけてるし、やっぱマッツにも眼帯は不可欠でしょ」と提案した人は誰なんだろうか。ちゃんと2億円くらい報酬を受け取ってほしい。
そもそも、マッツ・ミケルセンという人は画面を保たせるためのパワーがめちゃくちゃ強い。『カジノ・ロワイヤル』でのル・シッフルや『ハンニバル』のハンニバル・レクターのような頭の切れる悪い男を演じさせても色気ムンムン。かと思えば『残された者』ではほぼ全編たった一人で北極圏をさまよう人の良さそうなおじさんとして登場し、不可抗力に振り回されながら雪まみれになっていた。たった一人で出てきても、見た目と演技力だけで映画一本撮れる男、それがマッツ・ミケルセンなのである。実際、事前に妻に「『ポーラー』ってどのへんが面白いの?」と聞いたら「マッツの色気が爆発してるとこ」と即答された。「北欧の至宝」のあだ名は伊達ではない。
そんなマッツがあらゆる方法で人を殺しまくり、全裸からコートまでのコスプレ大会をやり、挙げ句の果てに眼帯までつけてしまう……。ストーリーに深みがあるとか脚本の上手い下手とかも映画の魅力だが、それと同時に「ヤバい役者を眺める」というのも映画の楽しみの一つである。マッツの役者魂を信じぬき、そこにほぼ全てのリソースを潔く突っ込んだのが『ポーラー』だと言えるだろう。マッツという男がどれだけ信用できる役者なのか、是非とも本編を見てご確認いただきたい。
「ポーラー 狙われた暗殺者」
監督:ヨナス・アカーランド
出演:マッツ・ミケルセン ヴァネッサ・ハジェンズ キャサリン・ウィニック マット・ルーカス
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