熱烈鑑賞Netflix

映画「コンテイジョン」がすごい。特効薬デマ、買い占め、暴動……新型コロナウイルスの現状を予見【熱烈鑑賞Netflix】

世界最大の動画配信サービス、Netflix。いつでもどこでも好きなときに好きなだけ見られる、毎日の生活に欠かせないサービスになりつつあります。そこで、自他共に認めるNetflix大好きライターが膨大な作品のなかから今すぐみるべき、ドラマ、映画、リアリティーショーを厳選。今回取り上げるのは、まるで新型コロナウイルスの現状を予見したいたかのような映画「コンテイジョン」。未知の新種ウイルスによって世界が混乱に陥っていくさまが描かれています。恐怖のなかで生き残るための道を探った先にあったものとは?

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多くの学校が休校になり、街から人が減り、ほとんどの人がマスクをつけて歩き、顔を触らないように意識している。3月11日、WHO(世界保健機関)のテドロス事務局長が「新型コロナウイルスはパンデミックと言える」と発表しました。

激しい咳の音から、映画ははじまる

今回の新型コロナウイルスの問題を予見しているリアルな映画があると聞き、さっそく観てみました。
2011年のアメリカ映画「コンテイジョン」です。
監督は、スティーブン・ソダーバーグ。使命感に駆られたかのように「マジック・マイク」「エージェント・マロリー」(2012)「サイド・エフェクト」(2013)など新作を連発していた時期の作品のひとつ。
各種映画サイトにも、「まんま今の状況だ」とコメントが急増しています。

DVD発売元/ワーナー・ホーム・ビデオ

まだ何も映し出されてない画面に激しい咳の音から、映画ははじまります。
香港でのビジネスをすませ、シカゴで元恋人と浮気をしたベス・エムホフ(グウィネス・パルトロー)。
彼女は、自宅にもどったあと、痙攣を起こし意識を失ってしまいます。夫(マット・デイモン)が病院へ運ぶも、原因不明で死亡。
夫が家にもどると、息子のクラークもおなじ症状で死んでいるのです。

ショッキングでパーソナルなシーンからはじまる映画ですが、彼が主人公ではありません。
映画の主役は、感染そのもの。感染にふりまわされたり、立ち向かったり、悪用したりする人々を、群像劇として描いた傑作です。

ひとは通常1日に2000~3000回顔を触る

感染について、ていねいに調査して作られている本作は、新型コロナウイルスが切実な問題になっている世界の今を映し出しているようにみえます。
たとえば、前半の、まだ感染がメディアで報道される前のシーン。

ミネスタ州保健局員に、CDCのミアーズ(ケイト・ウィンスレット)が感染症について話しています。
「感染はおそらく呼吸器系や媒介物から」
「媒介物とは?」
「ものの表面から感染するんです。ひとは通常1日に2000~3000回、自分の顔を触ります」
「日に2000から3000回?」
「起きてる間1分に3~5回。そのあいまに触るのがドアノブや水飲み器、エレベーターのボタンや、人の手。それらが媒介物となるんです」
そのうち、議論が混乱してきます。
「マスコミに出すべきか」「市民の反応はどうだろう」「市民に話す前にまず知事に話さなくては」「そもそも何を怖がるのかすら分からないわけだし。豚インフルエンザのときは騒ぎ過ぎだったでしょう」
学校閉鎖を考えなければ、という提案に「誰が子供を見るの?」。

今回のコロナウイルスでも、同じような会話が交わされたのではないかと思わせる内容です。
このあと、感染したエムホフに接触した人を調査するも、手遅れで感染した男性がバスで移動。他にも、カジノで接触した人たちが、飛行機で各国に移動しているという事態が判明します。

調査員への感染、政府と製薬会社の陰謀説、あおさや納豆ばりにレンギョウが特効薬だとデマを流す人気ブロガー、買い占め、棚から商品が消え失せるスーパー、そろってマスクをしているアジア人、緊急の患者を収容する場として使われる競技場、暴動、州の封鎖などなど。いまの世界の状況と重なるシーンが次々とでてきます。

潜伏期間が短く、致死率が高いMEV-1ウイルス

この映画で描かれるもうひとつの大きな軸は、CDC(アメリカ疾病予防管理センター)や科学者たちが未知なる敵に立ち向かう姿です。
感染接触者を調査する者、最初の感染者をつきとめるために香港へ向かう者、治療研究を行う科学者。それぞれの人達にドラマがあり、そして感染症は、そういった人たちにも襲いかかるのです。

映画に登場するMEV-1ウイルスが、コロナウイルスと違うところは、潜伏期間が短く、致死率が25%~30%と高いところ。
感情移入していた主要人物が容赦なく亡くなってしまいます。ドラマ的に盛り上げることもなく死んでしまうのが逆に恐ろしいのです。

「わたしとは携帯で常に連絡がとれる。援助が必要ならかけたまえ。役人から横槍が入ったときも、夜中に壁を見つめてなぜこんな仕事を受けたんだろうと思い悩むときも、かければいい」
CDCを統括するエリス・チーヴァーが、調査のためにエリン・ミアーズをミネアポリスに送り出すときのセリフです。

政治的忖度をはねかえして、専門家が行動するための組織CDCが、アメリカにはあり、奮闘する姿をみると、日本にもそういった組織を作るべきだと思わずにいられません。

映画「コンテイジョン」は、もちろんフィクションですが、パンデミック・シミュレーションとしても優れている作品です。ラストシーン、ギャッてなりますよ。

 

「コンテイジョン」

監督:スティーブン・ソダーバーグ
脚本:スコット・Z・バーンズ
出演:マリオン・コティヤール、マット・デイモン、ローレンス・フィッシュバーン、ジュード・ロウ、グウィネス・パルトロー、ケイト・ウィンスレット、ブライアン・クランストン、ジェニファー・イーリー、サナ・レイサン、ジョシー・ホー
Netflixなどで配信中

ゲーム作家。代表作「ぷよぷよ」「BAROQUE」「はぁって言うゲーム」「記憶交換ノ儀式」等。デジタルハリウッド大学教授。池袋コミュニティ・カレッジ「表現道場」の道場主。
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