『今、私たちの学校は…』計算されたカメラワーク、ダンスのような動き!全力ゾンビがカッコイイ
●熱烈鑑賞Netflix110
大量のゾンビが溢れかえった学校で
新作のゾンビものが発表されたとき、注目されるのがゾンビの設計だ。ほとんどの作品に共通して、ゾンビは「腐っている」「意識がない」「噛まれたら感染する」「ノロノロと動く」「目は悪いが耳は機能している」」など、おおまかな設定が決まっている。
しかし、ゾンビは空想上の生き物だから設計は自由だ。ある程度イメージされるおおまかな設定からどうハミ出すか? それが作品ごとのゾンビの個性になっている。例えば、ある作品ではゾンビが武器を使い、ある作品ではゾンビ同士が意思の疎通を取る。ゾンビと人間が共存している世界の作品だってある。
『今、私たちの学校は…』のゾンビの個性は、“全力”と“量”だろう。生きている人間以上に力強く動き、大勢の人間が集まる学校を支配する。大量のゾンビが一直線に突っ込んでくるのだからスリリングだ。その迫力は、もはや“カッコイイ”の領域に足を踏み込んでさえいる。
小さな街の学校で、化学教師が作り出したゾンビウイルスが感染拡大する。大量のゾンビが溢れかえった学校で、主人公の少女オンジョ(パク・ジフ)やチョンサン(ユン・チャンヨン)ら生徒たちは、生き残るために力を尽くす。
どういう計算でアレを撮影したの?
ゾンビの動き方にも特徴がある。噛まれてゾンビ化する瞬間、ストップモーションのように緩急がついて一気に変化する。恐怖心というブレーキをなくしているため、壁に激突しようが、階段から転げ落ちようが、全力で生きている人間を追い回す。
長めのワンカットで撮影されたゾンビVS人間の乱戦は、どういう計算でどう動いているのか想像できないほどにグッチャグチャだ。「噛まれたら終わり」というゾンビものなのに、画面のそこかしこでギリギリの戦いを繰り広げる。ガラスが割れ、テーブルや椅子がひしゃげるほどのアクションだ。撮り直しなんてできないはずなのに、どういう計算でアレを撮ったのだろう? そんなシーンがいくつもある。
獲物を見つける前の、ただそこら辺を彷徨っているだけのゾンビでも見所がある。カクカクとした、まるでブレイクダンスのように身体を効かした動き。YouTubeで舞台裏が公開されているのだが、なるほど動き方はダンスの振付師が指導をしているようだ。数百人単位の脇役ゾンビも、適当に集められたエキストラとは思えない。ダンサーや何らかの運動経験がある役者たちなのだろう。
また、そんな全力ゾンビたちを迎え打つ人間側のアクションも面白い。学校という環境を利用した戦い方は、ジャッキー・チェン作品や映画『ホーム・アローン』を想起させる。机、椅子、外したドア枠、消化器、でっかい三角定規など、学校にある様々なものをゾンビにぶちかます。密集した状態でそんなものを振り回すのだから、ゾンビ役の役者の安全が気になるほどのインパクトだ。
計算されたカメラワーク、ダンスのようなゾンビの動き、怪我を恐れぬ役者の覚悟、もはや怖いを超えて感心。カッコイイの領域に差し掛かったホラーだ。
人間よりも人間らしいゾンビのグィナム
ゾンビの身体能力(不死、痛みを感じないなど)を持ちながら人間の意識を保つハンビ(半分ゾンビ)と呼ばれるゾンビも何人か存在する。その1人がヤンキーグループのパシリだったグィナム(ユ・インス)だ。
パシリという恵まれない人間が、ある日手に入れた超能力・ハンビによって、全能のような感覚になる。事実、この世界では誰にも負けないほどの力だ。「ここはまるで天国だな」とゾンビの群れの中を闊歩する。自己顕示欲にとらわれ、明確な敵意を持ってチョンサンらを襲う。普通に意思の疎通ができるのに、人間を食料として見ているサマも恐ろしい。
イ・ジェギュ監督は、「グィナムは中身のないわかりやすい悪役だったが、深みを持たせるためにインスをキャスティングした」と語っている。それほどにグィナムの存在感は大きく、ともすれば単調になりがちなゾンビVS人間という構図に緊張感を与えた。平凡な人間が徐々に変貌する様は、ある意味オンジョたち人間よりも人間らしい。恐ろしい存在なのに、一定の感情移入もできるから切ない。
壮絶なアクションと人間ドラマが詰め込まれた展開。全12話計12時間ほどの大作なのに「続きが気になってつい夜中まで見ちゃった」が続出するのも頷ける。
出演:パク・ジフ、ユン・チャンヨン、チョ・イヒョン
原作・制作:イ・ジェギュ、チョン・ソンイル、キム・ナムス
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