Netflix韓国ドラマ『Mine』は豪華でドロドロな財閥ドラマ、だが妻たちの連帯が隠れている
●熱烈鑑賞Netflix 81
『Mine』は美しさに包まれた不穏な財閥ファミリードラマ
Netflixで配信中の『Mine(マイン)』は、幾重もの美しい花弁に包まれたようなドラマである。
一番外側には、韓国ドラマが得意とする財閥ドラマの華やかさがある。豪華な財閥一家の邸宅、美しい妻たち、場面の切り替えごとに変わる色とりどりの衣装、美術館と見紛うような調度品。次の花びらには、いかにもな「ドロドロとした女同士の争い」や「家庭内での権力抗争」などが見えてくる。その苛烈さに、韓国ドラマによくあるやつねと、つい勝手に納得しかけてしまった。
しかし、さらに花びらを1話ずつ丹念にめくっていくと現れるのは、自分の人生を生き抜こうとするまっさらな女性たちの姿だった。
主人公は2人の妻たち。ヒョウォングループ一家の長男、ハン・ジノ(パク・ヒョグォン)の妻、チョン・ソヒョン(キム・ソヒョン)。そして、次男のハン・ジヨン(イ・ヒョヌク)の妻、ソ・ヒス(イ・ボヨン)だ。
ソヒョンは財閥出身で、経営に関しても家やメイドたちの管理に関しても、常に冷静に的確な判断を下す能力がある。元女優のヒスは、周囲の人々に好かれる自由さと愛嬌があり、血のつながらない息子のハジュン(チョン・ヒョンジュン)にも惜しみない愛情を注ぐ優しさの持ち主だ。義姉妹のソヒョンとヒスは、外部からヒョウォン一家に入った人間であり、夫の連れ子を育てているという共通点もあり、互いに支え合って暮らしていた。
そんな妻2人の前に、新たな女性たちが登場する。ひとりは、ハジュンの家庭教師として雇われたカン・ジャギョン(オク・ジャヨン)だ。ジャギョンは熱心にハジュンを指導し、急速に信頼関係を築いていく。そのあまりの執心ぶりに、ヒスはハジュンとの仲を引き裂かれるのではないかと不安に陥っていく。もうひとりは、新人メイドのキム・ユヨン(チョン・イソ)。財閥を担っていく立場にあるソヒョンの息子、スヒョク(VIXX エン)がユヨンと恋に落ちる。家の中はすべて自分の管理下にあると考えていたソヒョンは、スヒョクとユヨンの意志の固さに戸惑う。
さらに、ヒョウォングループの次期会長の座を巡り、一家の長男ジノ、次男ジヨン、2人の母親、ヤン・スンヘ(パク・ウォンスク)らが顔色を読み合う。メイドや秘書たちを使い、一家とグループを牛耳るために手を回していく。
そして、この女性たちの出会いとグループの地位争いは、殺人事件へと向かっていく。ヒョウォン一家と親密な付き合いをしているシスター・エマ(イェ・スジョン)のナレーションが、第1話から事件を示唆している。
抱える傷は違っても女性たちはつながっていく
ソヒョンとヒスが支え合うように、日本にも妻たちが連帯するドラマはある。1999年の『OUT〜妻たちの犯罪〜』(原作・桐野夏生)や2016年の『ナオミとカナコ』(原作・奥田英朗 ともにフジテレビ)などは、夫を殺すことで自由を手に入れようとした女性たちの物語である。
『Mine』が新しいのは、夫殺しなどの共通の重大な秘密を持たずとも、それぞれの心の傷や痛みを思いやり合うことで連帯が生まれている点だ。ソヒョンとヒスはそれぞれ義理の息子を育てている。世間には隠しているが、それは一家の誰もが知っている事実に過ぎない。では、何が秘密なのか。
ソヒョンが誰にも言えないでいる秘密は同性愛者であることだ。かつてソヒョンには同性の恋人がいたが、公にすることはできずに別れ、ヒョウォングループに嫁いできた。そのため、夫のジノがいくら不倫しようともソヒョンの心は乱れない。ジノはそれをさみしく思ってさえいた。
ヒスはソヒョンの秘密を知らない。それでも、何か苦しさを抱えているような微かな雰囲気には気づいている。家族に厳しい義姉が自分には特に優しくしてくれるのは、妻同士だからという理由だけではないと。けれど、ヒスはその秘密を深追いしない。理由はわからなくても、優しくて信頼できる義姉が苦しみから解放されて幸せになることを、心から願っている。
逆に、ソヒョンはヒスの苦しみを心から理解することができなかった。義理の息子であるスヒョクに愛情を感じられない自分と対照的に、血のつながらない息子のハジュンを実母以上に愛するヒス。そのヒスがハジュンを失いかけたとき、絶望の深さがわからなくてもソヒョンはできる限りの力をもって義妹を助けた。
そして、物語が進むにつれて、敵対する相手に見えていた家庭教師のジャギョンやメイドのユヨンの苦しみや戸惑いまでもソヒョンとヒスは認めていく。別々の傷を抱えていても、あるいはこれから抱えることになるとしても、苦しんでいれば手を貸す。
このドラマには、カウンセラーや聖書の勉強会の指導者としてシスター・エマが毎話登場する。立場の違う女性たちがつながりを持っていく様子に、キリスト教の「隣人を自分のように愛しなさい」という有名な教えを思い出す。
女性の連帯が取りこぼすものにも光をあてる
さらに言えば、『Mine』の挑戦的な姿勢は女性の連帯を描くだけには留まらない。権力と支配欲、そして復讐心にとりつかれてしまう男性にも、哀れみの情を向ける。
ジヨンは婚外子としてヒョウォン一家の次男となった。父親であるハン会長の息子というわけではなく、一家の誰とも血がつながっていない。だからこそ、権力や家の支配には興味がないという柔和な顔をして控えめに生きてきた。だが本当は、義母に愛されなかったことや自分の境遇に恨みを持ち、人知れず復讐心を燃やしている。
妻のヒスは、嘘を吐いて生みの親のジャギョンを家庭教師として迎え入れたジヨンを信じられなくなり、憎しみさえ抱くようになる。また、ソヒョンもジヨンに脅されるなどして、彼を警戒し「トップに立たせてはいけない」と思うようになる。
ただ、ジヨンを悪者として排除するだけのストーリーではない。恨みから彼がしてきたことすべてが許されるわけではない。その一方で、婚外子であるために幸福に生きて来られなかったことまでは、彼の責任ではない。彼の、いわゆる家父長制の被害者としての一面をとらえる一瞬は見逃せない。
また、同じ女性でも格差がある場合に連帯はできるのか、という問題も気になるところだ。フェミニズムの歴史においても、家柄や学歴の良い女性とそうではない女性は分断される場面が多々あり、現在も解消されたとは言い難い問題だ。本作の中でも、メイドたちはずっと従者であり続け、家の中のことは口外せず、財閥一家から求められる無理難題にも応えようとしてきた。
物語の中で、その格差が解消されたとは言えない。しかし、あるときソヒョンがメイド長の苦しみに気づき感謝を伝える場面がある。それは、このまま従者として一生を終えるのだろうと想像していたであろうメイド長が、自由と尊厳を手に入れた瞬間だったのではないか。まだ問題は残っているが、希望もある。それは、ヒスが何も言わずにソヒョンを慕い寄り添ったから生まれた連帯の波だったのかもしれない。
『Mine』は、妻たちのつながりだけでなく、社会の被害者としての男性や、女性の格差までをも含めて描こうとしたという意味で、挑戦的な作品だ。問題の取り上げ方としては断片的かもしれない。それでも、韓国ならではの美しい財閥ファミリーの物語の中に、取りこぼされる社会の問題を包んで世に出そうとした情熱的なドラマでもある。
演出のイ・ナチョン、脚本のペク・ミギョンの次回作はまだ明かされていないようだが、これから韓国ドラマを見る際にはチェックしたい2人だ。
『Mine』
出演:イ・ボヨン、キム・ソヒョン、イ・ヒョヌク
原作・制作:イ・ナチョン、ペク・ミギョン
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