熱烈鑑賞Netflix

「保健教師アン・ウニョン」平凡な30代女性アン・ウニョンへのエール「傷つかずに軽やかにいけ みんなに愛されながら」【熱烈鑑賞Netflix】

世界最大の動画配信サービス、Netflix。いつでもどこでも好きなときに好きなだけ見られる、毎日の生活に欠かせないサービスになりつつあります。そこで、自他共に認めるNetflix大好きライターが膨大な作品のなかから今すぐみるべき、ドラマ、映画、リアリティショーを厳選します。今回は、注目度NO.1の韓国ドラマ「保健教師アン・ウニョン」を紹介します。映画「82年生まれ、キム・ジヨン」でキム・ジヨンを演じたチョン・ユミ主演のポップでファンシーな学園ファンタジー!

●熱烈鑑賞Netflix35

ポップでシュールでミステリアスな韓国版「地獄先生ぬ~べ~」

黒髪ボブカットで無愛想な白衣の養護教諭が、ピカピカ光るおもちゃの剣とBB弾で、生徒に害をなそうとする人ならぬものに立ち向かう!

Netflixで配信が始まった「保健教師アン・ウニョン」は、ポップでファンシーな学園ファンタジー。設定だけ読むと「地獄先生ぬ~べ~」みたいだが、この作品はもっとシュールで、ミステリアスで、少し気だるくて、それでいてとても愛らしい。

無敵のハイパーエンタテイメントに進化した韓国映画(ドラマ)になる以前の、単館上映されていた頃の韓国映画のような「ミニシアター」みを感じる場面が多々あった。あちこちに謎めいたエレメントがちりばめられているが、伏線回収が三度の飯より好きで考察班的な見方をしないと楽しめない人には向いていないと思う。一方で、ハマる人はものすごくハマるはず。今後、カルト的な人気のドラマになるんじゃないだろうか。

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おもちゃの剣でゼリー退治

主人公のアン・ウニョン先生(チョン・ユミ)は幼い頃から、幽霊や「ゼリー」と呼ばれるぷよぷよした霊的な物質を見ることができる女性。人知れず他人を助ける「運命」を持つが、ついついネガティブな本音が漏れてしまうことがある。

保健室のロッカーには除霊グッズがたくさんあるが、最大の武器はおもちゃの剣とBB弾を撃つおもちゃの銃。これで人に害をおよぼそうとするゼリーをぽこぽこ叩いて倒していく。マニキュアの代わりにホウセンカを爪に塗っているのが韓国らしい(赤色を嫌がる鬼を追い払い、無病長寿を祈る意味がある)。

アン・ウニョン先生のパートナー的な存在になるのが、学校の創立者の孫であり、強力な「気」のバリアで身体を守られている漢文担当のホン・インピョ先生(ナム・ジュヒョク)。どんなときでもタートルネックを着ている内省的なアン・ウニョン先生と、いつも開襟シャツを着ているおおらかでちょっと鈍いホン・インピョ先生が、生徒たちを守るため、学校に秘められたディープな謎に挑んでいく。

主人公は「新感染」でマ・ドンソクの妻を演じたチョン・ユミ

アン・ウニョンを演じるチョン・ユミは日本でも熱狂的なファンを獲得した映画「新感染 ファイナル・エクスプレス」で、みんな大好きマ・ドンソクの妊娠中の妻を演じた女優。最近では韓国フェミニズム文学の代名詞存在となった小説の映画化「82年生まれ、キム・ジヨン」でタイトルロールのキム・ジヨンを演じた。

ホン・インピョ役のナム・ジュヒョクはドラマ「ハベクの新婦」などで人気の若手俳優。最近はBTSのV、ジョングクらとデートするバラエティ「イケメンブロマンス」(なんちゅう直球なタイトル)に出演して話題を集めた。

監督は映画「荊棘(ばら)の名前」などのイ・ギョンミ。短編映画が「親切なクムジャさん」などで知られるパク・チャヌク監督に見出され、デビュー作の「ミスにんじん」にはパク・チャヌクと「パラサイト 半地下の家族」のポン・ジュノ監督が特別出演していたりする。彼女が起用されたということからも本作が王道の韓国ドラマではなく、Netflixらしい意欲的な企画だということがよくわかる。

原作は韓国フェミニズム文学の流れのひとつとしても数えられる作家、チョン・セランの『保健室のアン・ウニョン先生』。「私はこの物語をただ快感のために書きました」とチョン・セランが言うように、ポップなエンターテイメント小説として仕上がっているが、社会学者の本田由紀は「グエムル 漢江の怪物」、「新感染」、「1987、ある闘いの真実」のような韓国映画との共通点を指摘している(「好書好日」5月9日)。なお、ドラマを見てもわからない設定などは小説を読むと全部書いてあるので、興味のある人はぜひ手にとってほしい。

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他人を助ける「運命」に疲れた平凡な30代女性

ぷよぷよして愛嬌のあるゼリー、学校の地下から現れる巨大な怪物、王蟲の幼虫のような「ダニ」とそれを食べる女生徒、ネイティブの英語と植物を操るライバル教師、謎の教団、恋愛やいじめや入試などの学園ドラマ、ロックでポップでエレクトロニカなBGMなど、主人公以外にも見どころはたくさんあるが、何より魅力的なのは主人公のアン・ウニョンだ。

30代の彼女はいつも前向きで生徒たちを救うため一生懸命だが、実は他人を助ける運命に疲れていて、でもそれを悟られないようにしているため、気持ちと表情が裏腹になっていることが多い。ロマンスを求めているようだが行動に移せないかわりに、ホン先生と手をつなぐと指先からキラキラと光があふれて力がみなぎってきたりする(別の設定もあるのだが、ときめきが力になっているようにしか見えない)。

「傷つかずに軽やかにいけ みんなに愛されながら」

これはアン・ウニョンが嫌われ者だった学生時代、お互いに支え合っていたクラスメイトの男子からの励ましの言葉。彼が描いてくれた藤子・F・不二雄タッチのパラパラマンガがまた可愛くていいんだ。なんだか、現在を生きる女性たちへのメッセージのように聞こえてくる。

「私は保健教師だ その名はウニョン アン・ウニョンだ」「保健教師だ逃げよう(ワー)大変だ 早く逃げよう(ワー)」などという人を食ったような挿入歌も楽しいのでエンドクレジットまで見ておこう。これがプリクエル(前日譚)でシーズン2からはエクソシスト・ヒロインとしてアン・ウニョンがバシバシと活躍するとも言われている。今から楽しみにしておきたい。

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ライター。「エキレビ!」などでドラマ評を執筆。名古屋出身の中日ドラゴンズファン。「文春野球ペナントレース」の中日ドラゴンズ監督を務める。
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