韓国映画にまた傑作『#生きている』は胸キュンゾンビ映画「生きる意思が命を救ったの」【熱烈鑑賞Netflix】
●熱烈鑑賞Netflix34
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ひとり部屋から出られなくなってしまうぼんくら男子
テレビは国民行動原則「ステイホーム」を呼びかけ続ける。外は感染者だらけで危険だ。部屋にとじこもるしか生き残る手はないのか。
『#生きている』は、コロナ禍の今を描いたゾンビ映画だ。
超大作じゃなく、説教っぽさもなく、団地という限定された空間で描かれるソリッドで新しい映画だ。
『#生きている』を、今観るべき理由を4つあげよう。
【1】団地だけで展開する限定空間の緊急宣言パニックがすごい。
主人公のオ・ジュヌ(ユ・アイン)は、「モリス62」名義でゲーム実況配信している少年だ(四千頭身の後藤拓実さんっぽい)。
緊急速報が流れ、外からは悲鳴、救急車のサイレン。逃げ惑う人の叫び声、クラクション。
いきなり感染者が増加して、外に出られない状況になり、ステイホーム。
感染した人は人間を食うゾンビと化してしまう。
オ・ジュヌは、ひとり部屋から出られなくなってしまう。
主人公オ・ジュヌを演じるのはユ・アイン。村上春樹の短編小説『納屋を焼く』が原作の『バーニング 劇場版』で主役を演じ、2015年の映画『王の運命 -歴史を変えた八日間-』で青龍映画賞の主演男優賞を受賞するほか、たくさんの賞を受賞している注目の若手俳優。ユ・アインが出る作品に外れなしだ。
最初の1時間、孤立した状況をほとんどひとりで(ゾンビはうじゃうじゃ出るけど)演じきるのだ。これを飽きさせずに観せる脚本と演出もすごいんだが、ユ・アインが演じるオ・ジュヌの「ぼんくら男子」的な魅力も、すばらしい。
母親にも連絡はとれない。「生き残って」とメッセージが来るだけ。食料は減っていく。
#生き残らねば のハッシュタグをつけて、住所を書いたボードと自分の写真をSNSにアップする。
ドローンを使って、団地のほかのフロアに生き残った人がいないかを偵察するが、ゾンビしか見つからない。
絶望的な状況を配信するとき、最後に思わず「チャンネル登録は……」と言いかけてしまう。
前半は自宅待機。後半も団地だけで展開。限定空間での極限状態がソリッドに展開するのが『#生きている』の魅力だ。
撮影はコロナ騒動の前
【2】コロナ禍のステイホームを予言する今とのシンクロっぷりがすごい
テレビから国民行動原則「ステイホーム」が呼びかけられ、感染をさけるために部屋に引きこもっている状況は、まさにコロナ禍の我々の状況とシンクロしている。感染しないために外に出ない。部屋の中で鬱々する。食料や水がなくなって不安になる。久しぶりに聞く人の声に感動する。自主的ロックダウンをしていた時の心境と状況とシンクロしていて、あるあるーと思うシーンがたくさん。
コロナ禍になってから企画が動いたと考えると、すごい速さで作ったんだなと驚いたが、間違っておりました。実はマット・ネイラーのオリジナル脚本「#Alone」はコロナ禍以前に作られている。この脚本を監督と練り直したらしいんだけど、『#生きている』の撮影も2019年12月12日には終わっており、コロナが騒動になる前だ。
『コンテイジョン』同様、いまの状況を予測予見していた予言的作品だろう。
【3】ステイホームで胸キュン展開
絶望の果てに首つり自殺しようとしたオ・ジュヌが、向かいの団地の少女キム・ユビン(パク・シネ)と出会ってから、「ロミオとジュリエット」な胸キュン展開も加わってくる(ってもゾンビから逃げてるのでそれどころじゃないのだが)。キム・ユビンが、上白石萌音さんっぽく見えるときと、波瑠さんっぽく見えるときがあるキュートさ。
それぞれステイホームしたままで、スマホに自分の名を大写しにしての自己紹介。
食料が尽きたオ・ジュヌに、赤いロープを使って団地越しの受け渡し(なにげないシーンなのに赤い糸モチーフが巧みに使われていてキュンキュンしてしまう!)。
離ればなれになった人間が、どうやってつながるか。どうやってコミュニケーションしていくかが、素直に素敵に描かれていく。
出不精で、ゲーマーで、デジタル好きなオ・ジュヌと好対照なキム・ユビンは、アウトドア派で、登山が趣味。
オ・ジュヌが、ドローンや配信、デジタル機器を使って事態を突破するのに対して、キム・ユビンは、ロープや手斧などの登山道具を使ってガンガン行く。いいコンビなのだ。
極限状況での胸キュン展開の観せ方も素敵で、説明台詞で語らせない。「生きる意思が命を救ったの」とキム・ユビンが語るときにちらっと部屋に写るモノ。ちゃんと映像で、彼女の苦しみを一瞬にして観てる者に伝えてくるのだ。
ハードなニュースが続く中、生き残るために必死な若者の胸キュンドラマを観るのは生きる勇気につながる。
ゾンビ映画は、絶望的な終わり方をするものが多いが、『#生きている』はその点でも大丈夫だ。
ジャージャー麺が美味しそう
【4】生き残るためのおいしい食事シーンが満載
真正面からのゾンビ映画なのに、見終わった後は、爽やかな気持ちになれる。そして、意外に印象に残るのは食事シーン。
豪華料理は出てこないが、おいしそうなのだ。
カップ麺のテレビCMに「こんなときにCMかよっ!」と毒づきながらも、CMにのせられて「最後の晩餐」用に取っておいたカップラーメンを思わず食べてしまうシーン。
離ればなれの団地の部屋でトランシーバーで連絡とりながら食べるジャージャー麺。ラーメンとゴマ油マシマシ!
団地の間をロープづたいに渡すナッツバー。
隣の部屋を探索して見つけるヌテラ。
豪華な料理は出てこないけど、極限状況下の食事シーンは生きることに直結した「おいしさ」を感じさせる。
【5】アメリカ版との比較も楽しみ
マット・ネイラーのオリジナル脚本のタイトルが『#Alone』で、『#生きている』はこの脚本を監督と一緒に練り上げたものだということはすでに述べた。そのマット・ネイラー脚本『#Alone』をもとに、もう1本、アメリカ版が撮影されているらしいのだ。こちらはまだ公開されていないが、そのうち観ることができるだろう。
楽しみである。
Netflixグローバル・ムービーチャートの1位になった『#生きている』、コロナ禍が長々と続いて飽きてきちゃって感染予防を怠りがちな今こそ、観てほしい傑作だ。
「#生きている」
監督:チョ・イルヒョン
脚本:マット・ネイラー&チョ・イルヒョン
音楽:キム・テソン
出演:ユ・アイン
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