「知られざる小動物の世界」小さくてかわいらしい動物たちに癒やされるはずが……やられた【熱烈鑑賞Netflix】
●熱烈鑑賞Netflix33
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ヘヴィなドラマを見る元気がない、何も考えずぼんやりとしたい、ギスギスとした社会や気が滅入るようなSNSの投稿でささくれた心を癒やしたい——そんな時に最適なのが動物ドキュメンタリーである。かわいさはメンタルを救う。ネイチャー系は(比較的)どんな時にでも見られる、数少ないジャンルだと思う。
そんなわけで、何気なく見始めたシリーズ「知られざる小動物の世界」。サムネを眺めると、どうやら鳥とかネズミがたくさん出てくるドキュメンタリーのようだ。
癒し系じゃない。手に汗握る展開に「あれ?」
最初のエピソード「アリゾナ」の舞台は、文字通りアメリカはアリゾナ州。荒涼とした大地を俯瞰するカメラ、そして「正義と悪が決闘を行い〜」と語るナレーションはどこか西部劇を思わせる。
次々に紹介される荒野の住人(生き物)は、サソリにヘビにどデカイ蜘蛛。いずれもしっかり毒を持っていそうな、剣呑な面々だ。そして場面が変わって夜、鼻をひくつかせたかわいいカンガルーネズミが登場、「待ってました!」という気持ちになる。この「緊張」から「ほのぼの」へのベクトルの移動(あるいは、その逆も)は、自然の厳しさとケモノの愛らしさというギャップを生かした、動物ドキュメンタリー定番の“魅せ方”だ。
子どものために食料を探すカンガルーネズミ親子に、次々と天敵が襲いかかる。無数のネズミを殺せるほどの毒を持つというダイヤガラガラヘビがぬるりと接近、長い舌をペロリペロリと震わせながら、子ネズミに狙いを定める。あわや! というところで、親ネズミがヘビの前に身を踊り出し、囮になる作戦に打って出る。生々しい毛並み、不気味にうごめく鱗。クローズアップされる両者の眼、ガラガラと震えるヘビの尻尾……ネズミの運命やいかに?
小さくてかわいらしいケモノがわらわら——的な映像と、癒しを求めて見始めはずが、気づけば手に汗握る緊張の連続に身体が硬くなっている。というかこれ、ドキュメンタリーでいいんだよね?
スペクタクルの連続! “出来すぎ”なドキュメンタリー(?)
ドキュメンタリーとはいえども、「作品」である以上、混じりっけなしの現実を捉えたものなんて存在しない。そこには台本や演出があり、製作陣たちのさまざまな意図や思惑が混じり込む。散々いろいろなコンテンツを見て擦れ切った現代人は、そのことを承知した上で鑑賞する。
しかし、だ。この作品、それにしても、あまりに“出来すぎている”のである。
エピソード2「ニューヨーク」では、飼われていたゴールデンハムスターが脱走、ビルの屋上から地下道まで、ランナーボール(ネズミを中に入れて散歩させる透明なボール状のグッズ)で危険な都市を駆け巡る。天敵の猫にボールを破られ、豪雨をきっかけに地下道に流れ込んできた大量のドブネズミたちと共に激流からのエスケープ。命からがら逃げおおせたものの、空からはハヤブサが狙っていて……。
ひとつの危機を逃れても、必ず次なる敵やトラブルが主人公に襲いかかる。そして、機転と巧みな作戦で、その絶体絶命の状況を打開する。スペクタルの連続なのだ。
ジャック・ニコルソンみたいなキツネ?
もっとも、このへんはまだ序の口である。回が進むに連れて、この「映画もかくや!」な状態は加速していく。
エピソード3「ミネソタ」では、自然豊かなゴルフ場を舞台に、全長23cmで北米最小のフクロウ、その名もアナホリフクロウと人間との攻防がコミカルに描かれる。しかし状況は、突如現れるアカギツネによって緊張感を帯びたものに変貌する。
執拗にフクロウを狙うキツネは、ゴルフ場のガレージから逃走した獲物を追って、壁の隙間を頭でこじ開け追いかける。その姿は、ほとんど「シャイニング」のジャック・ニコルソンのようだ。
自ら土に掘った巣穴へと逃げ込むフクロウ。優れた聴覚を武器に、地下に隠れる相手を探し出し、土を掘り返し捉えようとするキツネ。ガラガラと崩れる巣穴。一瞬の隙を狙って逃走したフクロウはゴルフコースへと飛び出していく。整備された芝生に隠れる場所はない。もはやこれまでか? しかし、フクロウは堂々と敵に向かい合う。そして、キツネ襲い掛かった刹那、狙いすましたかのようにスプリンクラーが作動。激しい水しぶきを浴びて堪らず逃げ出すキツネ。ドヤ顔をキメるフクロウ——。
これ、ドキュメンタリーじゃないだろ! めちゃめちゃ作り込んでるだろ!!
と思ってネットで検索すると、やはり擬似ドキュメンタリーだった。まあ、エピソード1の段階で分かっていたけど。ちなみにエピソード6「フロリダ」では、ネズミとカラスが敵対した末に友情を育み、最終的には協力し合って火事から人間を救い出す姿が描かれる。ここまで来ると、ドキュメンタリーだと思う人間もさすがにいないと思われる。
ドキュメンタリー風に描かれた「トムとジェリー」的世界
しかし、フェイクと分かったところで、本作の魅力が減ずるかといえば、全然そんなことはない。スローモーションを効果的に利用した緊張感のある映像はとてもスリリングだし、躍動感のある動物たちの動き、足が地面を蹴った時の砂の飛び散り方など、ビジュアル面でのリアルさは特筆に価する。
映画「ベイブ」のように動物がセリフを発することはなく、状況を説明するのはナレーションのみ。古い例えで恐縮だが、ムツゴロウ原作の映画「子猫物語」のような方向性と言えばいいだろうか。「トムとジェリー」的な追いかけっこを、生々しく、かつドラマッチックに演出した本作は、癒し系ではないかもしれないが、ケモノ好き・動物映画好き必見の、良質な“本物感のある”フィクションとして推薦したい。
「知られざる小動物の世界」
出演:マイク・コルター
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