熱烈鑑賞Netflix

「マーダー・ミステリー」倦怠期の夫婦、コテコテの殺人事件に巻き込まれる!夫婦円満の秘訣を学べ【熱烈鑑賞Netflix】

世界最大の動画配信サービス、Netflix。いつでもどこでも好きなときに好きなだけ見られる、毎日の生活に欠かせないサービスになりつつあります。そこで、自他共に認めるNetflix大好きライターが膨大な作品のなかから今すぐみるべき、ドラマ、映画、リアリティショーを厳選します。今回ご紹介するのは、アダム・サンドラーとジェニファー・アニストンのコンビがベテラン夫婦を演じる「マーダー・ミステリー」。配信開始72時間で全世界3000万世帯以上で視聴され、Netflixオリジナル映画の最高世帯数を記録した話題作です。

●熱烈鑑賞Netflix36

15年越しの新婚旅行が、まさかの殺人旅行に

今回妻からオススメされた映画は 「マーダー・ミステリー」。夫婦漫才系殺人ミステリコメディという、ちょっと変わった取り合わせの一本だ。

主人公はニューヨークの警官ニック・スピッツと、その妻で美容師として働くオードリー。何度も刑事への昇進試験に落ちまくっているニックは、結婚15年を迎えた妻に毎日小言を言われまくる日々。一方でオードリーも、自分のことしか考えていないニックに不満を抱え、さらに結婚式で約束したにも関わらず15年経っても行けないヨーロッパへの新婚旅行を半ば諦めてもいた。しかし15回目の結婚記念日で、ニックはサプライズとしてヨーロッパへの旅行をプレゼントする。

しかし旅行は出発当初からエレガントさとは程遠いグダグダなものに。そんな旅程の中、オードリーは飛行機のバーで億万長者の貴族チャールズ・キャベンディッシュと知り合う。キャベンディッシュはスピッツ夫妻を自分も出席する船上パーティーへと招待。一旦は断ったニックだが、予約したバスツアーの混雑具合を現地で見たニックは、キャベンディッシュの招待に応じることにする。

パーティーが開催される豪華なヨットに集まったのは、有名女優やアフリカの軍閥の軍人、巨大なボディガード、ムンバイのマハラジャやモナコのレースに参加予定のレースドライバーといったセレブたち。そんな中に混じってしまったスピッツ夫妻を交え、パーティーが始まる。そのパーティーは、老齢の億万長者であるマルコムが年若い妻スージーとの結婚を祝うものだった。自分の遺産に興味津々の出席者たちを前に、マルコムは遺産相続を受けるのは新たな妻スージーただ一人であると発表する。新たな遺言にマルコムがサインしようとした時、突如会場の照明が消えてしまう。再び点灯したその時、マルコムは短刀で胸を突かれ死んだ姿で発見される。

警官として現場を仕切ろうとするニック。しかしそれなりにマルコムと関係のあった出席者と違いいきなりパーティーに参加したスピッツ夫妻は、フランス警察から大いに疑いをかけられることになる。自分たちの疑惑を晴らすべく真犯人探しを決意するニックとオードリーだが、事態は思わぬ方向に転がっていく。

左の二人がニックとオードリー。完全に庶民なのに、なぜか大金持ちだらけの殺人事件に巻き込まれる/Netflix映画『マーダー・ミステリー』独占配信中

何と言っても主演が当代随一の芸達者コメディ俳優アダム・サンドラーと大ベテランのジェニファー・アニストンということで、まずはこの2人の掛け合いが見事。すっとぼけつつもしょぼいおっさんの悲哀を感じさせるニックと、オバハン的開き直りと「今その話する!?」というズレ加減がリアルなオードリーのコンビがガチャガチャ話しているところを見ているだけでも楽しい。こういう喧嘩してる夫婦、よくいるよね……というリアルさがある。

そんなグダグダな夫婦が、あろうことかコテコテの殺人事件に巻き込まれるというアイデアが本作のキモ。舞台は豪華な船旅でたどり着く南仏。集まったのは一癖も二癖もありそうな金持ちたち。遺産相続に年若い妻、因縁を秘めた短剣に仮面の刺客……。そんな古典的ながら緊張感のある要素でも、細かい夫婦喧嘩とおっさんとおばさんのドタバタが挟まると一気にギャグに。このあたりの緩急のつけ方と冒頭から細かく張られた伏線を回収する手さばきの見事さは、 「マーダー・ミステリー」の大きな見所だ。

気の抜けた服装だった2人だが、色々あってこんなキメキメの服装に……/Netflix映画『マーダー・ミステリー』独占配信中

生々しい夫婦のズレ具合、その解決法は?

しかしまあ、個人的にギョッとしたのは、随所に挟まる妻オードリーの愚痴。というのも、困ったことにだいたいおれが普段言われていることをついつい思い出してしまうものなのである。トイレットペーパーが切れているのに気づかずほっておく、洗濯物を取り込むのを忘れる、どうでもいいところでケチくさくなり、そのくせ自分が興味のあるものだと特に役に立たないのにお金をつぎ込む……。どうもこういった特徴は、ある程度は世の男性に共通のものらしい。冒頭でも、「男は具体的に指示を出してやらないとなんにもできない」というような形でオードリーと知り合いの女性たちが愚痴りまくっている。

こちらからすると、妻の行動を見ていると「よくもまあそこまで細かいことに気がつくもんだなあ……」と感心することしきりなのだが、視点を変えると「どうにも鈍くてボサッとしており、おまけに服がちょっと臭い」みたいな生き物に見えているんだろうな……と常々自分も思っていたところ。そんな状況で 「マーダー・ミステリー」を見ると、夫婦のやることのズレ具合が実に生々しい。基本的には殺人コメディ映画なので完全にフィクションなのだが、この夫婦のグダグダぶり、感覚のズレっぷりの描写に関してはかなり地に足がついている。

当初はどうにもすれ違っていたスピッツ夫妻。しかし、この2人がドタバタしながらも、なんとか危機を脱するために手に手を取って協力し、事件を解決しようと奮闘する。その過程で、ズレたおじさんのニックも彼なりに妻を気遣っていることや、オードリーもニックのことが決して嫌いなわけではないことがわかってくる。お互いの気持ちを特に言葉で説明することなく、それでも見ている方にはなんとなく伝わってくるものがあるという塩梅が見事だ。愚痴だらけな倦怠期の夫婦でも、お互いをちゃんと気遣っていれば危機を脱することができるのである。勉強になるなあ!

タイトル通り殺人事件を扱った作品だが、しっかり笑ってロマンチックな要素もあって、なおかつアクションまで見せてくれる。綺麗にストーリーが着地して、ストンと終わるのもお見事。さらに夫婦の暮らしにとって大事なことまで、説教くさくない形で提示してくれる。ウェルメイドなアメリカ製コメディの良さが詰まった一本だ。

ライター。岐阜県出身。元模型誌編集部勤務で現在フリー。月刊「ホビージャパン」にて「しげるのアメトイブームの話聞かせてよ!」、「ホビージャパンエクストラ」にて「しげるの代々木二丁目シネマ」連載中。プラモデル、ミリタリー、オモチャ、映画、アメコミ、鉄砲がたくさん出てくる小説などを愛好。
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