Netflix『地獄が呼んでいる』ネットで間違った正義を振りかざす連中への凄まじい風刺
●熱烈鑑賞Netflix 98
なかなかに描写がエグい。内臓が飛び出るとか、生々しい血とかのグロさではなく、暴力描写のエッジが効き過ぎているのだ。日本の地上波で放送したら炎上必至、どこが燃えているのかわからないくらい丸焦げになるだろう(Netflixでは、18歳未満の視聴は推奨されていない)。
少しずつ変化して行く作品性
天使と呼ばれる存在に地獄行きを宣告された人間は、3匹の黒い怪物によって地獄に送られてしまう。ある日、人の賑わうソウルのカフェに、怪物が突如現れ、一人の男が多くの人の前で焼殺された。その映像は瞬く間に拡散され、マスコミは、この「超常現象」をこぞって取り上げた。しかし、警察は殺人事件として捜査を開始する。
宗教団体「新真理会」の議長であるチョン・ジンス(ユ・アイン)が浮上した。以前からジンスは、罪深いものが宣告される対象とし、人間を正しく導く神の意思だと主張していたのだ。妻を殺された過去を持つ刑事チン・ギョンフン(ヤン・イクチュン)は、捜査の一環として「新真理会」の調査を始める。そんななか、「新真理会」に心酔する過激集団「矢じり」は、正義の名の下に暴走を始める。
全6話で構成される今作は、1~3話と4~6話の2部構成となっている。前半パートは、人知を超える死亡事件とそれを追う刑事という図式で『DEATH NOTE』を思わせる展開。しかし、天使の謎やジンスの過去などが明らかになるにつれて、物語の雰囲気が少しずつ変わって行く。何を楽しむのか、どういう作品なのか、という部分すら変化して行く。
ネット社会への強烈な皮肉
残酷な描写に圧倒されるが、その裏にあるのはネット社会への強烈な皮肉だ。不確かな情報が拡散され、多数決で正しさがねじ曲がってしまう。人間の弱さそのものに対する皮肉なのかもしれない。
「新真理会」の教えが広まり切って、天使から宣告を受けた罪人の扱いが変わった。宣告を受けた者はもちろん、その家族までもが罪人の身内として非難を浴びる風潮に。「矢じり」は過激なままに自警団のような立ち位置になり、「新真理会」や神に抗うものに集団リンチを加えて行く。鉄パイプで女性だろうが老人だろうが子供だろうがお構いなしに殴りかかる。
客観的に見たらどう考えても「矢じり」の行動は行き過ぎているのだが、そこは誰にも咎められることはない。天使の宣告を受けていない以上、彼らは間違った行動をしていないということになる。どう考えても、罪人たちが犯した罪より、「矢じり」の集団リンチの方が悪質なのに、だ。
一方、罪人の家族たちは、謝罪動画をアップして少しでも罪の軽減を図る。ここら辺はもう芸能人やYouTuberたちの謝罪動画へのアンチテーゼだろう。ネットで間違った正義を振りかざす過激な連中と「矢じり」は、同じベクトルを向いている。
ズレた状況でも、それがまかり通ることで正しいことのように見える。何もわからないまま必死に生きる民衆の姿は、まるで集団洗脳だ。まさに地獄。怪物なんかよりも、間違いを犯す人間たちの方がよっぽど地獄。その間違いがあたかも正しいとされてしまう世の中そのものが地獄だ。カルト宗教の恐ろしさを描いているように見えるが、現代社会そのものへの強烈な皮肉となっている。
シーズン2は当然ありそうだ
全6話とコンパクトにまとめられた今作。まだ発表はされていないが、ほぼ間違いなく続編があると見ていいだろう。ラストシーンでは、予想できる人なんてこの世に一人もいないんじゃないかってくらいに驚きに満ちた引きを作っていたからだ。
ただ、物語の性質上、引き伸ばし展開は難しい。前編と後編の間に「新真理会」を中心に世界が変わるという展開は計算し尽くされていたが、それと同じくらい何かをガラっと変えないとシーズン2は成立しない。裏テーマとも思える社会風刺もやりきった印象で、次に何か要素を足したり、世界観を変えるとしたら何ができるのだろう。
とはいえ、あれだけ大仰な引きを作ったわけで、無策でシーズン2に挑むわけはない。お年寄りにそんなことする? みたいなことが連続するような残酷な描写はお腹いっぱいだが、発表されたら絶対に観てしまう。
出演:ユ・アイン、キム・ヒョンジュ、パク・ジョンミン
原作・制作:ヨン・サンホ、チェ・ギュソク
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