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Netflix『浅草キッド』柳楽優弥・タケシのモノマネではない凄み、ナイツ土屋・キヨシのリアルさ

世界最大の動画配信サービス、Netflix。Netflix大好きライターが膨大な作品のなかから今すぐみるべき、ドラマ、映画、リアリティショーを厳選します。今回おすすめするのは『浅草キッド』。ビートたけしの自伝的エッセイを劇団ひとりが監督した作品で、12月9日に配信スタートするやいなや大きな話題を集めています。

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たけしを知らない人も楽しめるエンターテイメント作品

配信がスタートして1週間もしないうちに、複数のお笑いライブで『浅草キッド』のタイトル、あるいは『浅草キッド』にからめたボケを観た。「映画の真似をして舞台袖でタップを踏み、怒られた」というエピソードも目にした。物語の中心は1970年代後半から80年代前半。40年前のできごとであっても、いまを生きる芸人たちにとって『浅草キッド』とビートたけしは大きな影響力をもっているということだろう。

ビートたけしの自伝的エッセイ『浅草キッド』(新潮社)が劇団ひとりの手によって映像化された。劇団ひとりといえば、たけしの影響を深く受けた芸人のひとりだ。『リチャードホール』(フジテレビ系)でも披露された「尾藤武」ネタを覚えている人もいるだろう。意図的になぞったわけではないにせよ、コンビでデビューし、解散後ピンで活動していること、そして映画監督を経験していることも、たけしと同じだ。

そんな劇団ひとりが6年間脚本を温め続けて映像化。どんなに思い入れのこもった密度の高いものになっているかと思ったら、意外にもたけしを知らなくとも楽しめる、エンターテインメント性の高い一作だった! とくに序盤、ストリップ小屋の屋根裏に住み込むタケシがストリッパー・千春(門脇麦)の歌声を耳にしてステージを覗き、豪華な舞台に立ち、華やかな衣装で歌う千春を見るシーン。彼らの夢を具現化した美しい映像に引き込まれ、2時間があっという間に経っていた。

師匠と弟子、二人をつなぐ芸であるタップダンスを踊る姿も見事/企画・制作 Netflix

柳楽優弥と大泉洋が、たけしと師匠の物語に説得力を与える

この作品を支えているのはなんと言っても「タケシ」を演じる柳楽優弥の、モノマネではないたけしらしさ。鍛えられたとは言い難い、中肉中背の少し猫背の体つきと立ち方からして、詳しくは知らないのに「いまのたけしから想像して、若い頃はこうだったのだろう」と素直に受け入れられるタケシを見事に生み出していた。

Netflix Japan公式ツイッターにあがった劇団ひとりと柳楽優弥の対談によれば、「たけしらしさがなく、そこに危機感がなかったので」ひとりは慌てて松村邦洋に連絡をとり、数日間何時間もかけて「たけしのレッスン」をしたのだという。そこから柳楽はたけしの”らしさ”を会得したことになる。

そしてたけしが憧れた浅草の師匠・深見千三郎を演じる大泉洋のカッコよさ。浅草じゅうの人から「師匠」と呼ばれるきっぷの良さと東京芸人らしい粋なたたずまい。ずっと舞台にこだわる頑なさ。たけしがその姿を見て惚れ込み、弟子になりたがることに説得力が生まれたのは、彼が深見を演じたからだ。東京らしさ、浅草らしさの象徴のような深見は、北海道出身だったという。同じく北海道から出てきて、その軽みで全国区になった大泉自身の経歴を重ねずにはいられない。

タケシの師匠・深見のかっこいい姿も、うまくいかずうらぶれる姿も演じた大泉洋/企画・制作 Netflix

「キヨシ」を演じた土屋の現実と重なる重要性

地方をまわるも全然人気のなかったタケシとキヨシ(土屋伸之)。しかしあるとき、二人はツービートとコンビ名を変え、「今までの漫才をぶっ壊す」と「レニー・ブルースのような漫才」をめざす。Wモアモアや東京丸・京平、玉川スミ、星セント・ルイスといった実在の芸人の名前が並ぶ演芸場の香盤表に、「ツービート」の名が掲げられる。

フランス座は、いまは「浅草東洋館」と名を変え、お笑いの寄席になっている。キヨシを演じる土屋は、ナイツとしてこのステージに実際に立っている(ちなみに、M-1グランプリで優勝した錦鯉も今年漫才協会に所属、東洋館の舞台を踏んでいる)。ナイツは浅草の芸人たちとテレビの世界をつなぐ存在として、何度もテレビで東京丸・京平ら、浅草の師匠たちを紹介してきた。ナイツが脈々と続く浅草の笑いの伝統を守らんとしている重要な人物であることは間違いない。

土屋の演じるキヨシもしみじみといい。深見の姿勢を受け継ぎ、客に食ってかかる、今でいうなら”トガった”タケシに対してその場をなんとか収めようとする気弱さと朴訥とした感じ、語尾に残る山形訛り。何より、漫才シーンは彼の腕がなければここまで見応えのあるものにはならなかっただろう。柳楽をはじめとする役者たちの演技と、土屋のような芸人の佇まい。その二つが重なって、名作が生まれたのだ。

キヨシを演じる土屋伸之(ナイツ)の演技が絶妙!/企画・制作 Netflix

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ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。
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