高畑充希さん、シングルマザーを演じ「子育ては女性を追い詰める。しんどいお母さん、誰かを頼って」

映画「明日の食卓」が28日、全国公開されます。住む場所も家庭環境も違う母親3人を描いた今作。3人とも「石橋ユウ」という同じ名前の小学5年生の息子を育てている中、ある日1人の「ユウ」が母親に殺される――。シングルマザーの石橋加奈を演じた高畑充希さん(29)に、役作りで感じたことや映画を通じて伝えたいことなどを聞きました。

重いテーマの作品、やりがいのあるお仕事に

――「明日の食卓」は、親が子どもに感じる苛立ちや怒りが描かれ、どこの家庭でも起こり得る事件だと感じさせるストーリーです。
高畑充希さん: 「気楽に入れる現場ではない」と思いました。重いテーマの作品が久々だった私にとって、やりがいのあるお仕事になりそうだ、とも。
3つの家族のお話が同時に進んでいく“オムニバス”のような構成なので、母親を演じる菅野美穂さんや尾野真千子さんと共演するシーンはありませんでしたが、作品でご一緒できるのは楽しみでしたね。完成したものを拝見して、自分のパート以外のストーリーが、とても新鮮に感じました。

(C)2021「明日の食卓」製作委員会

――加奈は、小学3年生の一人息子を育てる大阪府在住のシングルマザー。朝晩はコンビニ、日中は工場でアルバイトをして生計を立てています。
高畑: 母親役はありますが、現代を描いた作品でシングルマザーを演じたのは初。私はあんな風に頑張れないから、凄いなって思いましたね。
加奈って人を頼るのが下手で、自分のことを二の次にしちゃうタイプ。私も自分の疲れやストレスに鈍感なところがあって、そこは似てるかもしれません。何かに夢中になると、ご飯を食べるのを忘れることも。生活が全部適当になっちゃうんですよね。だから目の前のことに一生懸命で視野が狭くなる感じは、すごく共感できました。最近の私は以前より、自分に目を向けられるようになりましたけどね。

(C)2021「明日の食卓」製作委員会

整ってない大阪の風景。懐かしくもあり、心地よかった

――役作りはいかがでしたか。
高畑: 私が生まれ育ったのは、東大阪市にある町工場ばかりの地域。同級生のお母さんの中にシングルマザーがいて、その姿を見てきたので、記憶が助けになりました。そこら辺の道路で子どもが遊んでいて、働く女性もたくさんいて、お母さんが学校に子どもを迎えに来ていて……映画に出てくる風景は全部、小さい時に見たことがありました。

(C)2021「明日の食卓」製作委員会


高畑 :大阪の街って、東京とは違って整っていないというか、空気がゴチャゴチャしてるんです。みんなが必死に生きていて、人と人の境目が薄いというか……。私が小さい時は、子どもが悪いことしたら、思いっきり叩かれても「虐待」とは言われない時代。だから、ロケ地で感じた空気は懐かしくもあり、心地よくもありました。
実際の撮影は東京や千葉で行われましたが、「地元にいるのかな」って勘違いしちゃうくらい、大阪の下町の雰囲気が出ていましたね。部屋のインテリアにもリアリティがあって。撮影は夏なのに家のシーンはクーラーがなかったから死ぬほど暑かったけど、湿度の高い感じが私たちのパートには合っていました。

子育ての場、男性がいないことを感じた

――撮影で難しいと感じたことは?
高畑: 「3人のうち、どのお母さんが子どもを殺したんだろう?」と思いながら見てもらう映画なのですが、加奈ってどんなにつらくても、子どもに絶対に手を上げないタイプ。だから「もしかしたら殺したのは加奈なのか」と思ってもらえるようになっているのか、ものすごく不安でした(笑)。
子役ちゃん(阿久津慶人)と距離を縮めるのも大変でしたね。加奈とユウは「母と子」というよりは、「一緒に生活を頑張るパートナー」に近い関係性。友達ではないけれど、“守る側”と“守られる側”が明確に決まっていない親子だと捉えています。子役ちゃんに警戒されないようになりたかったけど、結構シャイな子で……現場に入る前、一度しか会えなかったうえ、撮影は1週間だったんです。

――どのようにアプローチしたのでしょうか。
高畑: 普段から子役ちゃんとお仕事する機会が多くて、その中で学んだのが、子どもだからといって積極的に関わろうとし過ぎると仲良くなれないということ。隣に、ただ居て、そのうち「しゃべりやすいお姉さん」って思ってもらう――くらいのスタンスが一番良い気がしていて。だから、あまりガツガツいかずに“普通”でいることを心がけました。すると、時間が経つにつれて学校の話とかをしてくれるようになりましたよ。

――映画への思いを改めて教えてください。
高畑: 私の周りにいるお母さんたちは本当に大変そう。「『虐待とか意味わからない』って前は思ってたけど子どもを持ったら、その人の気持ちも少し分かる」って言う人もいて。それくらい、子育ては女性を追い詰めるんだと感じました。
私自身、小さい子と触れ合う機会が多いんですけど、時間が決まってるからできる。これが毎日、朝から晩までだと考えると厳しそうですね……。
映画に出てくるお母さんたちって、頼れる人があんまりいないんですよね。だから、しんどいお母さんたちには誰かを頼ってほしい。
子育てという場に“男性がいない”ということも、すごく感じました。この映画を見た男性には、子育てを「一緒にやろう」って思ってもらいたいですね。

●高畑充希さんのプロフィール
1991年、大阪府生まれ。2007年から12年まで舞台「ピーターパン」で6年間主演を務めた。16年にはNHK連続テレビ小説「とと姉ちゃん」でヒロインを務めた。主演作に、連続ドラマ「過保護のカホコ」(17年、日テレ系)、「にじいろカルテ」(21年、テレ朝系)や、映画「ヲタクに恋は難しい」(20年)などがある。近作に映画「キャラクター」(6/11公開)や、映画「浜の朝日の嘘つきどもと」(8/27福島県先行公開、9/10全国公開)が控えている。

●取材協力
スタイリスト:Stylist Shohei Kashima(W)、ヘアメイク:根本亜沙美
衣装:ビスチェ¥10,000、スカート¥14,000/すべてパブリック△トウキョウ、ピアス¥12,000/ユーカリプト、リング(人差し指)¥17,273/ガガンリング(中指)¥9,000/ソワリー、その他スタイリスト私物

1989年、東京生まれ。2013年に入社後、記者・紙面編集者・telling,編集部を経て2022年4月から看護学生。好きなものは花、猫、美容、散歩、ランニング、料理、銭湯。
1983年生まれ。出版社勤務を経て、2008年 フリーランスフォトグラファーに。「温度が伝わる写真」を目指し、主に雑誌・書籍・web媒体での撮影を行う。