濃密な全4話ミステリNetflix『真実を知る者』。脅かしばかりで進展しない日本のドラマは見習ってほしい
●熱烈鑑賞Netflix100
全4話完結がベストの尺
ミステリを映像化するとき、ベストの尺は「全4話で完結するドラマ」じゃないか。
2時間の映画だと、小説でいえば中編ぐらいのピリッとストレートな作品ならいいが、ちょっと厚めの長編ミステリの映像化だと「端折ったなぁ」という感じになってしまう。
かといって全10話以上のドラマにしちゃうと、緻密な伏線を貼られても見失いがちだし、あれよあれよと翻弄されながらイッキに観るには長すぎる。
かといって4時間の映画になるとヘヴィすぎる。真相を推理するための休憩タイムも入れにくい。
だから全4話、合計4時間ぐらいのドラマがベストだ。一日、もしくは土日で、トイレ休憩はさみながらイッキ観できる。第3話を観終わった後に、真相推理合戦もできる。
と気づいたのは『真実を知る者』を観たからだ。
2017年の「スコットランド王立テレビ協会賞」でテレビ作品として最多のノミネートを受けた傑作。
1話およそ60分の全4話で、間延びした場面もなく、もったいぶった展開もなし、くだらないミスリードもない。謎とサスペンスが融合して、密度の濃い脳みそフル回転のミステリ的快楽を堪能できるドラマなのだ。
こんなヤツのために家族を警察に突き出すべきか
第1話で、主人公たちが陥ってしまう状況設定がテンポ良く示される。
舞台は、スコットランドのハイランド地方。ダグラス一家とエリオット一家はお隣同士だ。お隣り同士で初恋がそのまま実ってアダム・エリオットとグレース・ダグラスは結婚する。
ところが、ハネムーンから戻ったばかりの二人は惨劇に見舞われる。ふたりとも何者かに殺されてしまうのだ。
訃報を知り悲しみにくれる2家族。嵐の中、近所で交通事故が起きる。転倒した車から男を救出する。救急車を呼ぶが、豪雨で時間がかかると言われる。
ところが、救出した男が、アダムとグレースを殺した容疑者だと、ダグラス一家とエリオット一家は、テレビの報道で知ることになるのだ。
「家族を殺した犯人が、自分の家に来たらどうする?」
エリオット家のロブは警察を呼ぶと言いつつ、呼ばない。救急車もこっそり断ってしまう。ダグラス家とエリオット家の人々が集まり、どうするか話し合う。
愛する家族を殺した男が、目の前でぶっ倒れているのだ。
警察が来るまで、ひとまずダグラス家の納屋の犬の檻に閉じ込めておくことにした。だが、翌朝、犬の檻の中で男は殺されていた。
「この中にいる。わたしたちの誰かだ。誰かが殺した」
家族を殺した男が目の前にやってきたら?
絶妙な設定をテンポよく展開させ、見る者を引きずり込む。
家族を殺した男が目の前にやってきたとき、どうするのか? ここにいる誰もが殺したいほど憎んでいる男を、家族の誰かが殺したのだとしたら?
われわれは、いったいどうするだろうか?
しかも、ひとつの家族ではなく、隣同士のふたつの家族であることも絶妙だ。家族である身内をかばいながら、相手家族を疑う。家族と家族の対立が生まれる。
警察に知らせるべきだと主張する者。こんなヤツのために家族を警察に突き出すべきか。家族をかばうとしたら、この死体をどうするのか? 誰が、この男を殺したのか? そもそも、この男は、なぜアダムとグレースを殺したのか? しかも、なぜ男が、嵐の中、自分たちの家族の近くに来ていたのか?
謎と疑心暗鬼のなか、ふたつの家族は協力し対立しながら事件に立ち向かっていくことになる。
第1話で、事件が発生し、謎が提示される。
第2話で、ふたつの家族それぞれの人物が抱える秘密がじょじょに解き明かされていなかで、家族は危ない方向に突っ走り出す。
第3話で、家族は、後戻りできない状況に追い込まれていき、事件を解く鍵がそろっていく。
第4話で、すべてが明るみに出て、謎が解き明かされる。それぞれの人達の行末が示される。
トータル約4時間、端正な構成で描き切り、見る側を翻弄する。
倫理的逸脱について語りたくなる
事件の謎そのものと、家族がどうなっていくかというサスペンス、そこに人間ドラマが加わって物語を駆動させていて飽きさせない。
イギリスBBC制作らしいダークなトーンのエンターテインメントであり、結末はヘヴィだ。舞台がスコットランドのハイランド地方であることも、重要なポイント。ハイランド地方は、北西部の山岳地帯で気候も厳しい。ヨーロッパで一番人口密度の低い地域だ。メル・ギブソン監督主演の『ブレイブハート』の舞台でもあり、『ハリーポッター』シリーズのロケ地としても有名。長く氏族制的な社会が続いてきた場所であり、カトリック信仰が厚い。
閉鎖的な人間関係のなかで起きた事件は、現代的な「正しき倫理感」としてはアウトな人物を多数浮き彫りにする。新婚カップルを殺した男はもちろん、その背後にいる人物も倫理的にアウトだ。そもそも、主要登場人物である家族は、遺体を隠して警察に嘘をついている。それを捜査する側の刑事たちの行動にも倫理的逸脱がみられる。
外側から観た倫理と、本人の主観的な想いのズレが突きつけられる。観終わった後、その登場人物たちの行動倫理について、人と話したくなるはずだ。
主人公のクレアは介護施設で働いている。「自分を殺してくれ」と寝たきりの老女はクレアに頼む。クレアは、そんなことはできないと一度は断るが、何度も何度も老女は頼むのだ。
彼女は、最後にどういう決断を下すだろうか。
作・脚本:ハリー&ジャック・ウィリアムズ。
監督:ウィリアム・マクレガー
出演:ジョージナ・キャンベル、ジョー・デンプシー、エイドリアン・エドモンドソンほか
Netflixでの配信は2022年1月29日で終了
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