●本という贅沢#161『佐久間宣行のずるい仕事術』

さとゆみ#161 一見正攻法。でも一周回ったらやっぱり「ずるい仕事術」だったよ佐久間さん 

隔週水曜にお送りするコラム「本という贅沢」。今回は企画演出を務めた近作のNetflix「トークサバイバー!」も話題のTVプロデューサー・佐久間宣行さんの一冊を書籍ライターの佐藤友美(さとゆみ)さんが紹介します。
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本という贅沢#161 『佐久間宣行のずるい仕事術』(佐久間宣行/ダイヤモンド社)

発売5日で8万部突破。この業界にいてもあまり聞いたことがないレベルで、売れ売れなビジネス書があるんですよ。『佐久間宣行のずるい仕事術』であります。

「人生で初めてビジネス書を買いました」
とか
「就職してないけれど、バイトにも役に立つかな?」
的なコメントが散見されるあたり、普段あまり本を手にとらない若い世代にも読まれているんだなーと、その影響力の大きさを感じます。

佐久間さんといえば、「ゴットタン」とか「あちこちオードリー」とか「ウレロ⭐︎シリーズ」とか、テレビ東京の”顔”とも言える尖った番組を作ってきた方。
”顔”というのは、普通は最も視聴率の高い番組を言うのだろうけど、一大事でもアニメ流しますとか、速報でも報じませんとか、そういうテレ東「らしさ」を愛する人たちにとっては、佐久間さんこそテレ東であり、テレ東の時代を作ってきた人といえば佐久間さんなのだと思う(現在はフリーランスです)。

この本に関しては、すでに書評もレビューもどえらい好意的なコメントが大量に出ているので、私、ちょっと別の観点〜たとえばおじさま視点〜から書いてみようかなって思います。

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佐久間さんや佐久間さんが作る番組の熱狂的なファンじゃない、30代後半から、40代・50代のマネジメント層からするとね、「最近、若い人たちの間で『佐久間宣行のずるい仕事術』が売れているらしいじゃないか。俺もちょっと読んでおかねば」なんて感じで、この本を手にとると思うんですよ。

で、ね。
そうやってこの本を手にとった、おじさま(っていうほどの年齢じゃないね)たち、ぽかーんってなると思ったの。あるいは、マジかよってなると思ったの。

「をい! これ、いつも俺が部下に言ってることじゃないか!」
って。

そう、この本、「ずるい仕事術」と銘打っているけれど、ものすっごく正攻法のことが書かれている。

たとえば

・正論を吐くと嫌われる。言い方に気をつけよう
・企画書には自分の「言いたいこと」よりも、相手が「知りたいこと」を書く
・人によって態度を変えない
・絶対に陰口を言わない
・報連相(ほうれんそう)が大事

とか。

いやもうこれ、マネジメント層の方々からすると「なんで俺の言うことは聞けないのに、佐久間(敬称略)の言うことは素直に聞いて、『感動しました』とか、言うんだよ!」ってなると思う。わかる。めっちゃその気持ちわかる。

だけどね、この「なんで俺の言うことは聞けないのに、佐久間の言うことは聞けるんだよ!」という嘆き(or怒り)に、もうこの本の骨子がすべて現れていると思うのですよ。

その嘆きに対する答えは2つだ。

①あなたの言葉ではなく、佐久間さんの言うことだから聞ける
②あなたの言葉よりも、佐久間さんの言葉のほうが伝わる

とくに、①。つまり、この「佐久間さんの言うことだから聞ける」というのが、そもそも「ずるい仕事術」の全貌だと思うんです。

佐久間さんがここまで培ってきた人間性への信頼。
佐久間さんがここまで示してきた面白さへの信頼。

これがあるからですね、みんなありがたく読める。
おおお、僕も明日からやってみよう、って素直に思える。

これって、佐久間さんが
・正論を言わず
・相手の知りたいことを考え
・人によって態度を変えず
・陰口を言わず
・報連相をちゃんと怠らずにやってきた
から、培われた信頼なんでしょうね。

結局、「ずるい仕事術」ってそういうことなんだと思う。まっとうなことをまっとうにやった結果、ずるいほど、仕事がうまくいくようになる。この書籍が、様子がおかしいレベルで売れているのが、何よりもの証拠だと思う。

そしてそれを「ずるい仕事術」と言い切るあたり、「モノは言いよう」である。うまいしずるい。で、この「モノは言いよう」にあたるのが、②ですね。

②佐久間さんの言葉の方が、あなたの(私の)言葉よりもちゃんと伝わる。



たとえば

・ケーキ屋ならとんかつを出してはいけない
・「最短距離」より「平らな道」を行く
・自分は勇者なのか、僧侶なのか

みたいな言葉。

佐久間さんならではのたとえ話が、すっとーんと落ちる。これもやっぱり、「伝えたいことよりも、相手が知りたいことを話す」をくり返してきた人だからこその、言葉選びだと思うんですよね。

佐久間さんは、みんながうすらぼんやり感じている「気持ち」に、適切な「言葉」を与えてくれる。「言葉」が与えられると、みんなの「気持ち」は「思考」となって定着する。ひょっとしたらその思考は、「行動」につながるかもしれない。

これが、「なんで俺の言うことは聞けないのに、佐久間の言うことは聞けるんだよ!」のアンサー②だと思う。

部下が俺の言うことを聞いてくれないみなさまにおかれましては、自分は口チャックして、そっとこの本を差し出しておくほうが、話は早いかもしれない。たとえそれが「普段俺が毎日言っていることなのに……」と思ったとしても、だ。佐久間さんが言うから、部下はちゃんと聞いてくれるのです。

で、結論なのですが、読めて大変良かったです。
心の底から、「いい人になろう」って思いました。

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余談ですが、私は佐久間さんと同い年です。同時期にテレビ業界に入って、最初の仕事がテレ東さんの番組ADだったので(「ASAYAN」をやっている方がプロデューサーだった)、あの時代のテレビのめちゃくちゃな空気を思い出しました。
今考えると理不尽なことも多かったけれど、当時の私は佐久間さんの言うような「違和感」を覚えなかった。「まあ、そんなもんか」と思ったし、多分、環境に染まりやすいんだと思う。それで頑張りすぎて体を壊して辞めることになった。

GW明け、仕事に行きたくないなーって思っている人は、この本を読んだら楽になると思う。
でも、それ以上に。
GW明け、なんだか疲れているけれど仕事だから頑張らなきゃって思っている人は、倒れる前に読んだらいいと思うよ。

佐久間さん流の言葉で言うなら
「メンタル」第一、「仕事」は第二です。

 

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さとゆみ#160 GWに読みたい! 世界を広げてくれる漫画4選
ライター・コラムニストとして活動。ファッション、ビューティからビジネスまで幅広いジャンルを担当する。自著に『女の運命は髪で変わる』『髪のこと、これで、ぜんぶ。』『書く仕事がしたい』など。