佐藤友美さん、書く仕事と向き合って感じた“原稿にも人生にも「赤字」が必要なワケ”

telling,の連載「本という贅沢」でおなじみの佐藤友美(さとゆみ)さん。書く仕事を20年以上続けて先日、「書くこと以上に大切な、書く仕事のリアル」についてまとめた『書く仕事がしたい』(CCCメディアハウス)を上梓しました。書いて生きるには文章力“以外”が8割と言うさとゆみさんに、ライターとして働くことなどについて伺いました。
新刊を上梓の佐藤友美さん「失敗して“諦める”ことが人生を“明らかに”する」

コロナ下で顕在化した「働き方を自分で選びたい」

――ライター、それもフリーライターになりたい女性が増加。出版社などが主催するライター講座も盛況と聞きます。コロナ下で意外です。

佐藤友美(以下、さとゆみ): コロナの感染が広がり始めてからの1年は、新しい環境に適応するのに疲れていた人が多かった印象です。2020年は職業を問わずダウナー。ただ、コロナ禍が続くとわかったときに女性の多くは気持ちを切り替えたと思うんですよ。加えて占星術上の新時代である「風の時代」が到来したり、副業を解禁した企業が増えたりという要因もある。私のライター講座でも以前とは来る人の傾向が変わりました。「副業として書きたい」「あわよくば独立!」「東京に住まずに働きたい」という空気が今はすごくありますね。

――安定志向が強まっているという話もあります。

さとゆみ: 私の印象は逆。コロナによって業種自体が突然厳しくなる事態を見聞きして、会社に勤めていても安泰ではないという実感を得たんだと思います。会社員でも他の稼ぐ術は欲しいし、フリーランスという働き方も現実的になった。つまりコロナ下で働き方を自分で選ぶ方向に進んでいるんだと思います。さらに先ほど触れた「風の時代」的なモノを背景とした「自由に生きたい」という思いも広がっている。そんな中で、自ら働く場所や方法が選択できるライターという職業が浮上してきたように感じています。

10月30日に発売された『書く仕事がしたい』(CCCメディアハウス)=提供

力点を置いた編集者との付き合い方

――『書く仕事がしたい』では、編集者との関係にも多くを割かれています。実際にライターとして仕事をするうえで編集者の存在は欠かせませんが“ライターになりたい”と考えている人にはイメージがしにくい。

さとゆみ: まさにそうなんです。だから、ライター志望の人に向けて、文章力“以外”の技術の重要性について書いたこの本では、編集者との付き合い方にも力点を置きました。ライターにとって編集者は一番近い存在。編集者がライターに仕事を発注したり、その原稿をチェックして商品にしたりするわけですから。味方になってくれればいい一方、敵対してしまうとすごくきつい存在が編集者です。

ライターと編集者の相性は、良ければよいほどいいですが、“揉めない”“トラブらない”という程度の関係にはお互いの努力でなれる気がする。仲良くなる編集者さんは多くなくていいと思うけど、苦手をなくすことが大事。心理的安全性を担保する、つまり気を遣わずにいいものを作れる関係になることは、ライターの仕事の質をあげるためにも極めて重要です。

――本では、編集者からの原稿についての指摘である“赤字”を、ライターとしての成長の機会と捉える重要性に言及されています。一方で赤字を人格否定のように感じる気持ちも理解できる。

さとゆみ: 文章を書くという行為は人格と密接につながっていますからね。重要と思って記した箇所を不要と指摘され、別の部分を優先して、と言われると……。自身が否定された気分になるんでしょうね。ただ私は、文章は商品と考えた方がいい、と常日頃から感じています。人様に向けて出す商品。料理にたとえると、人様から“しょっぱい”と言われたら、薄くしないといけないし、“味が薄い”なら、塩を足さなければならない。しかも担当編集者の赤字であれば、学びにつながると私は感じています。

――そもそも直されることを人格否定のように感じる人と感じない人の2タイプがいる気がします。

さとゆみ: 私のライター講座では「赤字はあなたを否定していないから」ということを毎回、手を変え品を変え伝え続けます。編集者だって本来、原稿についての指摘をしない方が楽。だから赤字はプレゼントだと思ってという……。この考えが広まると、ハッピーになれると思うんだけどね。

大切な“言われやすい”という資質

――ライターと作家の違いは。

さとゆみ: 私は編集の仕事もしています。ライターが書くものは商品、作家さんが書くものは作品だと捉えています。作家さんは自分の名前で勝負しているわけだから、明らかな誤字脱字以外は、個性と捉えて赤字は入れないことがほとんどです。それを味と捉える読者がいるから、ファンがつくわけです。一方、ライターは媒体が求めるクオリティーを編集者との共同作業で満たさないといけません。

赤字については、ほかに思うところもあります。そもそも私は、人生に対しても赤字は入れられた方がいいと考えているんですよ。「さとゆみ、それダサいよ」「危ないよ」「老害になってるよ」ってアドバイスされなくなったら、終わりだから。原稿でも人生でも、言われやすいというのは、すごく大切なこと。だから、赤字はやはりプレゼントなんじゃないかなって思います。

(後編に続く)

新刊を上梓の佐藤友美さん「失敗して“諦める”ことが人生を“明らかに”する」

『書く仕事がしたい』

著:佐藤友美
発行:CCCメディアハウス

書く仕事を20年以上続けてきた佐藤友美さんが、「書くこと以上に大切な、書く仕事のリアル」についてまとめました。 書く仕事がしたいと考えたり、長く物書きとして生計を立てていきたいと思っていたりする方にオススメの1冊です。

●佐藤友美(さとう・ゆみ)さんのプロフィール

テレビ制作会社勤務ののち、2001年ライターに転身。雑誌、ムック制作、ウェブメディアの編集長を経て、書籍ライターとして活動。近年はライター・コラムニストとして活躍。ファッション、ビューティからビジネスまで幅広いジャンルを担当する。自著に『女の運命は髪で変わる』『髪のこと、これで、ぜんぶ。』『書く仕事がしたい』など。
ハイボールと阪神タイガースを愛するアラフォーおひとりさま。神戸で生まれ育ち、学生時代は高知、千葉、名古屋と国内を転々……。雑誌で週刊朝日とAERA、新聞では文化部と社会部などを経験し、現在telling,編集部。20年以上の1人暮らしを経て、そろそろ限界を感じています。
ライター・コラムニストとして活動。ファッション、ビューティからビジネスまで幅広いジャンルを担当する。自著に『女の運命は髪で変わる』『髪のこと、これで、ぜんぶ。』『書く仕事がしたい』など。