新刊を上梓の佐藤友美さん「失敗して“諦める”ことが人生を“明らかに”する」

ライターやコラムニストとして活躍中の佐藤友美(さとゆみ)さんは先頃、「書くこと以上に大切な、書く仕事のリアル」についてまとめた『書く仕事がしたい』(CCCメディアハウス)を出版しました。telling,では「本という贅沢」を連載中のさとゆみさんは20年以上、フリーとして活動。コロナ以降の働き方などについてお話を聞きました。

働く場所で変わる風景、そして・・・

――コロナでリモートワークが進み、ライターの方の中にも移住したり、地方で原稿を書いたりというケースが増えました。一方で日本の人口の約3割は首都圏に住んでいるなど読者は都市部に多い。都市と地方ではスピード感も違います。書く場所についてはどのように、考えていますか。

佐藤友美(以下、さとゆみ): ライターの仕事も、以前ほど働く場所を選ばなくなったと感じます。ただ、今回、書く場所にあった題材があるのではないかと考えるようになりました。『書く仕事がしたい』は兵庫・六甲で書き始めて北海道で半分、徳島・神山を経て京都で書き上げました。ただ、読み返したときに、大いなる空気に触れてすごくまったりしていると感じたんですよ。だから「都会でねじを締めねば」と考えて、横浜・みなとみらいの高層ホテルで19万字から11万字に削って完成させました。それまではパジャマを着たような雰囲気で書いていたんですが、最後はしゃきっとフルメイク。私、その場の空気は体にすごく染みるので、場所に影響されるんです。

都市部に人口が集中しているとしても、私は都市以外の人と分断したくない。今回の本は、全国の読者さんから感想をいただいたのですが、それは、私がいろんな場所を転々としながら「書く仕事」について考えたからかもしれないです。

“書式”や“ツール”の影響を意識して!

――影響されるといえば、縦書きといった“書式”やPCでといった“ツール”次第で、原稿は大きく変わるような気がします。

さとゆみ: 確実にあるし、原稿を確認するときにも強く感じますね。場所であったり、紙にプリントアウトしたりでも印象が、すごく違う。だから私はバーでお酒を飲みながらスマホで原稿のチェックを割とするんです。スマホは見られる画面が狭くて読み飛ばしもできないし、後ろを予想して読まないから、誤字脱字に気づきやすいんですよ。しかも実際に私の文章を読んでくれている人の多くはPCにへばりついているのではなくて、電車に乗っていたり、お風呂に入っていたり、飲んでたりする。似たような状況で、推敲や確認をすることは大事かなと。

――ところで前編で、ライターと編集者の関係に触れていただきました。昨今はライターも編集者的な役割を求められることが増えてきたようにも感じます。

さとゆみ: 編集者とライターの役割分担は結構、曖昧になってきていますよね。たとえばライターが自ら企画を考え、アポをとり、インタビューを主導するケースも増えている。
ライターも編集みたいなことをできるとすごく重宝されるし、長く働けると思います。

「あの時、こうしておけばよかった」と言わないために・・・

――コロナ禍で自分と向き合う時間が長くなりました。その中で「書く仕事がしたい」「新たな道に進みたい」人も増えていると思いますが、一歩踏み出す勇気は持ちづらい。そんな人に向けて、メッセージがあればお願いします。

さとゆみ: 「大丈夫だよ、やりなよ」と無責任には言えませんが、本にも書いた30代のときに出会ったライター志望の女性を、私は思い出します。その人は書くことが好きだったし、文章も詩的で端正。でも彼女は、失敗するのが怖くて、ライターになるための一歩を踏み出さなかった。その一方で毎日、勤めていた大手企業への通勤途中にある橋を渡りながら、“今日も私、会社に通っちゃってるなあって。今日もライターになれていないなって”思っていたそうです。当時の私は「『今日もこの橋を渡ってしまった』と思いながら会社に通う人生って、もう十分失敗していると思うよ」と本人に伝えました。
失敗するのが怖くて踏み出せないままでいて、50歳や60歳になった時、「あの時、こうしておけばよかった」と思うのは悲しいでしょう。もちろん、いきなりフリーライターになる必要はないし、保険をかけることも大切。副業としてライターを始めてみるとかね。

その後の彼女がどうなったかは本にも書きましたが、やりたいことがあれば、とりあえず1回やってみて、駄目だったら諦めるという手続きを踏むことが大事だと思うんです。「諦める」の語源は「明らむ」で、本来は「明らかにする」という意味だと説明されます。だから一歩を踏み出したら、失敗したとしても人生にとって大切なことが「明らかになる」。
様々な働き方が選べる時代。せっかくだから、色んなことをやってみたいよね、と私は思います。

『書く仕事がしたい』

著:佐藤友美
発行:CCCメディアハウス

書く仕事を20年以上続けてきた佐藤友美さんが、「書くこと以上に大切な、書く仕事のリアル」についてまとめました。 書く仕事がしたいと考えたり、長く物書きとして生計を立てていきたいと思っていたりする方にオススメの1冊です。

●佐藤友美(さとう・ゆみ)さんのプロフィール

テレビ制作会社勤務ののち、2001年ライターに転身。雑誌、ムック制作、ウェブメディアの編集長を経て、書籍ライターとして活動。近年はライター・コラムニストとして活躍。ファッション、ビューティからビジネスまで幅広いジャンルを担当する。自著に『女の運命は髪で変わる』『髪のこと、これで、ぜんぶ。』『書く仕事がしたい』など。
ハイボールと阪神タイガースを愛するアラフォーおひとりさま。神戸で生まれ育ち、学生時代は高知、千葉、名古屋と国内を転々……。雑誌で週刊朝日とAERA、新聞では文化部と社会部などを経験し、現在telling,編集部。20年以上の1人暮らしを経て、そろそろ限界を感じています。
ライター・コラムニストとして活動。ファッション、ビューティからビジネスまで幅広いジャンルを担当する。自著に『女の運命は髪で変わる』『髪のこと、これで、ぜんぶ。』『書く仕事がしたい』など。