●本という贅沢#160

さとゆみ#160 GWに読みたい! 世界を広げてくれる漫画4選

隔週水曜日にお送りする、コラム「本という贅沢」。3年ぶりに緊急事態宣言やまん延防止措置が出ていない中で、GWを迎えます。外出したり、旅行に行ったりする方も多いでしょうが、今年は最長で10連休ということもあり、おうち時間も増えるはず。そんなGWに読んでおきたい漫画4作を、書籍ライターの佐藤友美(さとゆみ)さんが紹介します。
さとゆみ#159 あなたが私の『毛布』になり、私もいつかあなたの『毛布』になる。

ゴールデンウィーク。少しまとまった時間がとれたら、読書したいなって思っているかもしれない、思ってないかもしれない、みなさんに。今回は趣向を変えて、さとゆみKindle文庫の中から、いま読みたい漫画たちを選書しました。

いま、Kindle文庫と言いました。
そう、私、書籍は紙の本と電子書籍と両方買うのですけれど、漫画は電子書籍一択です。もう、あれだけかさばるものを家に置いておくスペース、ないよね。いま、ざっとKindleを確認したら漫画だけで883冊あった。書籍は463冊だったから、軽く2倍ですな。Kindle以外の電子書籍で買っている成人漫画(子どもには見せられない)を合わせると、なかなかの数である。

今日はそんなラインナップの中から、読んでおきたい「世界を広げてくれる漫画」を紹介します。

●本という贅沢#160『僕らの地球の歩き方』(ソライモネ/マックガーデン)

まず、コレ。
いま、なかなか海外旅行に行けなくなっているご時世です。が、スポーツ選手は、試合がなくても筋トレと素振りを欠かさないように、やっぱり今の時期イメトレをしておくことが大事だと思うわけですよ。
そのイメトレにぴったりなのが、『僕らの地球の歩き方』。

この漫画、「一緒に世界一周できたら結婚しよう」と旅に出るカップルの話なのだけど、このカップルが男性同士なのね。性格の違う2人が、世界のいろんな国で出会う人たちと交流しながら、自分たちの愛の形を肯定していく。その過程もジャーニーです。
国によっては同性愛は許されざる恋だし、国によっては超オープンだし。世界には様々な価値観があることを自然と受け入れ、自分たちのあり方を探っていく物語。
語り手(同性愛のカップル)が違うと、世界はこんなふうに見えるのだなあと感じさせてもらえる作りで。これまでのラブジャーニー漫画とは一線を画す、文字通り「世界を広げてくれる」漫画です。
もちろん、旅行ガイドとしても最&高で、とくにお料理の描写はヤラれるから注意(飯テロです)。

私はこれを読みながら、次はスペイン行きたいなあとか、モロッコ再訪して今度こそサハラ砂漠にも寄りたいなとか、コロナですっかり水が綺麗になったというベネツィアも、前回最高良かったエジンバラも再び! とか、思いを馳せていました。

今年じゅうに、海外、行けるかな。行きたいな。

●本という贅沢#160 『世界の果てでも漫画描き』(ヤマザキマリ/集英社)

2冊目は、世界を転々としながら描かれた漫画。あの「テルマエロマエ」の漫画家さんとしても知られる、ヤマザキマリさんの作品。ヤマザキさんは最近テレビでもその強烈キャラクターが話題になっておりますが、そういえば、私もtelling,でヤマザキマリさんの本をご紹介したのでした。
ヤマザキさんといえば、「The バイタリティ!」の方。テレビでお見かけするたび、「よっ! バイタリティ!」と合いの手を入れたくなるくらい、本当にエネルギーに満ち満ちてらっしゃる方なんですよねー。

この漫画の中でヤマザキさんは、ツーリストライターの兼高かおるさんに憧れて、世界中を旅していると描いてらしたけど、私はヤマザキマリさんに憧れて、旅をしながら書く生活をしたいと思ってる。
ヤマザキさん曰く、人間には2つの種類があって、それは農耕民族と遊牧民族なのだと。この漫画を読みながら今すぐ鉄砲玉のように飛び出したくなる私は、間違いなく遊牧民族でありんす。

ああ、ほんと、はやく飛び出したい。

●本という贅沢#160 『紛争でしたら八田まで』(田 素弘/講談社)

『紛争でしたら八田まで』は、地政学アクション漫画。そして、主人公は地政学リスクコンサルタント。というか、私、この漫画を読むまで恥ずかしながら「地政学」という学問があることを知らなかった。でも思い返せば、最近原稿を書かせてもらった企業の社長さんたち、何人もの方が「今後のビジネスと地政学的リスク」についてお話しされていたよなあと気づく。

政治的・社会的・軍事的緊張によって起こる様々な問題(=地政学的リスク)って、まさにロシア・ウクライナの戦争も、そう。この『紛争でしたら八田まで』でも、15話から20話(単行本では2~3巻)までが、ウクライナ編で、これを読むとウクライナの政治的歴史的背景を知ることができる。2月末には、このウクライナ編が緊急無料公開されたこともあり、「ウクライナ情勢がわかりすぎる」と話題を呼びました。

この内容がモーニングで連載されたのは、2020年の春のことだったけれど、これぞ、いまこそ読んでおきたい1冊だなあと思う。

個人的な話になるけれど、漫画家の田先生は1976年生まれで、私、おない年なんですよね。30代後半で脱サラして、この連載が始まったのが、43歳。この経歴に勇気をもらったりします。

●本という贅沢#160 『戦争は女の顔をしていない』(小梅けいと,スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ/KADOKAWA)

そして、この流れでもう一冊ご紹介したいのが、『戦争は女の顔をしていない』。

これはちょっと、一言では言いにくい内容なのだけれど、ベラルーシのジャーナリスト、スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチさんが、第二次世界大戦に従軍した500人以上の女性にインタビューした書籍『戦争は女の顔をしていない』を元にした漫画です。
国を守るためにと従軍した女性たち。しかし、戦場から戻ってきた彼女たちを待っていたのは、世間の白い目で、彼女たちは戦争体験を隠さなくてはいけなかったという、なんともやりきれない話である。

元になった書籍は、完成後2年間は出版を許されず、発表後も危険作品として見なされる時期もあったけれど、2015年にこの本の功績を含めた執筆活動が評価されノーベル文学賞を受賞。2019年より日本での漫画連載がスタートして、再び注目を集めていました。

漫画の方は、淡々とした語り口なだけに、胸に迫ってくるものがありまして。「女性と戦争」という題材が内包する、何重にも絡まった課題や矛盾が描き出されています。ことさら声を荒げるではなく主張するでもない、女性たちの語りがリアリティの極みです。

ところで、ロシア語に詳しい友人に聞いたのだけれど、「戦争」という名詞は、ロシア語でもウクライナ語でも女性名詞なのだという。だから『戦争は女の顔をしていない』というタイトルは、そのタイトル自体にある種の矛盾をはらんだ言葉なのだそう。

気軽に読めるものではないけれど、今こそ読みたい漫画からは外せないと思ってご紹介でした。

みなさんのGWが、世界が広がる良い時間になりますように。

 

●佐藤友美さんの新刊『書く仕事がしたい』が10月30日に発売!

 

●佐藤友美さんの近刊『髪のこと、これで、ぜんぶ。』は発売中!

さとゆみ#159 あなたが私の『毛布』になり、私もいつかあなたの『毛布』になる。
ライター・コラムニストとして活動。ファッション、ビューティからビジネスまで幅広いジャンルを担当する。自著に『女の運命は髪で変わる』『髪のこと、これで、ぜんぶ。』『書く仕事がしたい』など。