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韓国の愛されおじさんと呑む幸せ!Netflix「ペク・ジョンウォンの呑んで、食べて、語って」はひとり呑みに最強

世界最大の動画配信サービス、Netflix。自他共に認めるNetflix大好きライターが膨大な作品のなかから今すぐみるべき、ドラマ、映画、リアリティショーを厳選します。今回ご紹介するのは、Netflixシリーズ『ペク・ジョンウォンの呑んで、食べて、語って』。料理研究家のペク・ジョンウォンが俳優やスポーツ選手など各界の著名人を迎え、酒を酌み交わしながら人生や韓国の酒文化について語ります。ペク・ジョンウォンを見ながら、家呑みもオススメ!
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韓国で愛される料理研究家ペク先生と酒を呑む

韓国には3人の「愛されおじさん」がいる。映画『パラサイト 半地下の家族』や『タクシー運転手 約束は海を越えて』主演のソン・ガンホ。『悪人伝』主演、『新感染 ファイナル・エクスプレス』出演のマ・ドンソク。そして、料理研究家のペク・ジョンウォンだ。

Netflixで配信中の『ペク・ジョンウォンの呑んで、食べて、語って』は、韓国で愛されるペク・ジョンウォンが俳優やスポーツ選手など各界の著名人を迎え、酒を酌み交わしながら人生や韓国の酒文化について語る番組。コロナ禍で呑み会を開くことがままならないわたしたちにとって、居酒屋やバーなどでの乾杯はもはや懐かしい風景だ。ペク・ジョンウォンとゲストの呑み姿を見ながら、わたしも家でひとり缶ビールを開けた。

韓国で最も有名な料理研究家、ペク・ジョンウォン。日本でも、新大久保の『セマウル食堂』『本家(ボンガ)』『香港飯店0410』などで彼の考案した料理の味を楽しめる。韓国のVlog系YouTube動画を見ていると「今日はペク先生のレシピで夕飯をつくります」といったテロップを見かけることも多い。多数の飲食店を経営する実業家でありながら、人びとの生活にも根ざしている身近な存在でもある。

ゲストとして登場するのは、ラッパーのパク・ジェボム(元2PMメンバー)とロコ(『Hold Me Tight(Feat.Crush)』『You Do not Know』など)。俳優のハン・ジミン(『知ってるワイフ』『虐待の証明』など)や、イ・ジュンギ(『王の男』『初雪の恋 ヴァージン・スノー』など)、キム・ヒエ(『密会』など)。テレビプロデューサーのナ・ヨンソク(『花よりおじいさん』『三食ごはん』など)。韓国バレーボール界のスター選手、キム・ヨンギョン。どのゲストにも些細な共通点を見出し、年長者として、あるいは同世代の仲間として自然に話を聞き出すペク・ジョンウォン。酒や料理の知識を披露しても押しつけがましいところがない。本当に愛されおじさんなんだなあ。

見れば見るほど焼酎(ソジュ)が呑みたくなってくる

韓国の飲酒文化に欠かせないのは、やはり焼酎(=ソジュ)。チャミスル、ジンロ、ジョウンデーなどの銘柄に聞き覚えがあるだろう。日本の焼酎は芋、麦などからできている。韓国のソジュの原材料はタピオカだ、とペク先生はジェボムとロコに教える。いつも呑んでいるソジュがタピオカからできていたなんて。驚きがそのまま深い興味に変わっていく。

トークの合間に差し込まれる、お酒ができて出荷されるまでの工程の映像。山のように積まれたタピオカが、ソジュになるために重機でもりっと掬われて運び出されていく画はインパクト大だ。工程や酒の歴史の紹介も教育的映像ではなく、オシャレな音楽に乗せて鮮やかにテンポ良く見せる。そのセンスはさすが韓国Netflixである。

ハン・ジミンがゲストの第2回では、韓国式のソジュのビール割り(=ソメク)が紹介される。ビールグラスやジョッキの淵に箸やスプーンを渡し、その上にソジュのグラスを置く。ソジュをグラスに注ぎ、ダルマ落としのように箸やスプーンを飛ばしてソジュグラスをビールの中にドボンと落とす。シュワーッと溢れんばかりに泡が立ち、ビールとソジュが混ざり合う。簡単に韓国に行けないいま、ソメクが懐かしくて堪らない。ハン・ジミンが、さらにアレンジを加えた「クリームソメク」という呑み方を紹介している。これもやってみたい。酒好きや、とりわけ、韓国で一度でも飲酒したことがあるひとには、ぜひ見てほしい回だ。

ペク先生は、酒を混ぜる文化は朝鮮王朝時代からあったという。かつては、アルコール度数約12度のマッコリと40度の安東ソジュを混ぜ合わせる「混沌酒」を呑んでいたそうだ。なぜソジュのボトルは緑なのか。なぜ旅行先ではその地域のソジュを呑むのが粋なのか。なぜソジュはひととひととの距離を縮めてくれるのか。

たしかに、わたしも韓国に留学したときに先輩たちから一番最初に教わったのは「ソジュの呑み方」だった。学校ではなかなか話せなかったひととも、ソメクをつくり、呑んで仲良くなることができた。ペク先生とハン・ジミンのやり取りを聞いて知識が増えれば増えるほど、今度はソジュが呑みたくなってくる。

Netflixシリーズ『ペク・ジョンウォンの呑んで、食べて、語って』独占配信中

1杯のビールから韓国文化は世界に広がる

ビール派におすすめなのは、第5回のチメク回だ。チメクとは、フライドチキンを食べながらビール(=メクチュ)を呑むこと。2002年の日韓ワールドカップの頃から流行が始まったという。生ビールと瓶ビールの味の違いを知っている? と、ペク先生はゲストのキム・ヨンギョン選手に問う。呑み比べをするものの、ヨンギョン選手は「同じでは?」と合点がいかない様子。そうかなあ、と呑んでみると、今度はペク先生が迷い始める。どちらがおいしいかと呑み比べているうちに、いつの間にか思ったよりも酒が進んでしまう。酒呑みあるあるだ。

トークは、ヨンギョン選手が海外で受けたアジア人差別などのシリアスな話題にも及ぶ。そうかと思えば、「良い人を紹介してくださいよ」と恋愛や結婚の話も盛り上がる。また、日韓併合時(1910~1945年)に家醸酒(家庭で酒をつくること)が禁じられたために、韓国の伝統酒のレシピが多く失われたことを、恥ずかしながらわたしはこの番組を通して初めて知った。申し訳なく思うとともに、それでも現代に伝統酒を復古させようとしている韓国人の逞しさと自国文化への愛情に胸打たれる。

ペク先生は、いま世界で韓国料理が受け入れられつつあるのは映画やドラマで韓国の食事風景が描かれてきたからだ、と言う。映画『パラサイト』で一躍有名になったインスタントラーメンの「チャパグリ」。ドラマ『梨泰院クラス』『わかっていても』などでは、韓国の若者たちが居酒屋で酒を呑む様子が発信された。母親やおばさんがキムチや総菜を届けてくれる描写や、「ご飯食べたの?」と電話してくる様子もよく登場する。ペク先生は、エンタメに感謝し俳優たちを労う。

酒や食事が人びとの繋がりを支えているように、ペク先生の専門分野である料理の広がりはエンタメに支えられている。酒づくりや料理にその道のプロがいるように、ラッパーや俳優、スポーツ選手、テレビディレクターなどのゲストたちもプロとして韓国文化を担う。互いに影響し合い、自国を支えているのだという気概と自覚が彼らにはある。

お酒とトークの番組と思って見始めると、その切り口から覗く世界の広がりに驚く。『ペク・ジョンウォンの呑んで、食べて、語って』は、それぞれの文化や活動を、ペク先生とお酒を通して繋いでいくハブのような番組だ。そして、どの回から見ても最後にはお酒を呑みたくなる。以前のように友人知人とお酒を呑みながら話せるときを楽しみに、今晩はこの番組を見ながらおうちでひとり呑みしよう。わたしもすっかりペク先生に影響されている。

Netflix『ジェラルドのゲーム』が空気階段の優勝コントみたいな設定だ!
ライター・編集者。エキレビ!などでドラマ・写真集レビュー、インタビュー記事、エッセイなどを執筆。性とおじさんと手ごねパンに興味があります。宮城県生まれ。
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