熱烈鑑賞Netflix

世界が絶賛するNetflix『イカゲーム』ヒットの理由は、サビから始まるデスゲーム

世界最大の動画配信サービス、Netflix大好きライターが膨大な作品のなかから今すぐみるべき、ドラマ、映画、リアリティショーを厳選します。今回ご紹介するのは、世界的にヒットし、社会現象にもなっているNetflixシリーズの韓国ドラマ『イカゲーム』。奇妙なゲームの招待を受けた参加者たち。莫大な賞金に目がくらんだ参加者たちは、勝てば天国、負ければ即死という恐ろしいデスゲームに挑みます。
韓国の愛されおじさんと呑む幸せ!Netflix「ペク・ジョンウォンの呑んで、食べて、語って」はひとり呑みに最強

●熱烈鑑賞Netflix 90

Netflix史上最大のヒット作という触れ込みで『イカゲーム』を観た。

命を賭けたゲームに挑む“デスゲーム”だ。日本では同じNetflixオリジナルの『今際の国のアリス』、ブームのきっかけとなった『バトル・ロワイアル』、それほど人は死なないが『カイジ』シリーズ、他にも多くのデスゲームが生まれている

そんなデスゲーム先進国である日本ではなく、世界中でウケたのは韓国の『イカゲーム』だった。製作費や映像技術の違いと言ってしまえばそれまでだが、いったい何が違うのだろうか。

何も知らずにデスゲーム会場に集められるギフン(イ・ジョンジェ)たち/Netflixシリーズ『イカゲーム』独占配信中

サビから始まるデスゲーム

『バトル・ロワイアル』以降、日本でもよく見かけるようになったデスゲーム。ブームが故に大量に製作され、特に漫画界では飽和状態になっている。ひと目でインパクトを残せる残酷なシーンが、流し読みされがちな漫画(特にウェブ漫画)にマッチしたのだ。同じ理由でウェブ広告でも目を引いている。

漫画原作の場合、読者の心を掴むために1話からインパクトの強いシーンを入れ込まないといけない。デスゲーム慣れしてしまった現代の読者を相手にするならなおさらだ。ウェブなんかでは、開始3ページくらいでクラス1の美少女の頭部が破裂する、なんてスピーディな展開もよく見かける。

原作は小説だが、デスゲーム黎明期の『バトル・ロワイアル』ですらかなり序盤に「これからみなさんには殺し合いをしてもらいます」という有名なセリフが出てくる。『GANTZ』だって、1話から主人公の首が飛んでいた。デスゲームはAメロからではなく、サビから始まるのだ。

色彩の豊かさも魅力の一つ/Netflixシリーズ『イカゲーム』独占配信中

副題「地獄」の意味

『イカゲーム』には原作がない。主人公ソン・ギフン(イ・ジョンジェ)が借金まみれであること、ギャンブル中毒であること、バツイチで娘がいること、一緒に暮らす母親の体調が悪いことなど、背景を時間をかけてどっしりと描き、デスゲームで軽くなりがちな命に重みが生まれた。また、背景を見せるために回想を挟む必要性が減り、ゲームそのものがテンポよく展開されるのも強みになっている。

これが今作では有利に働いた。とにかく早くぶっ飛んだシーンを出す、というデスゲームの鉄則から外れるという選択肢が生まれたのだ。もちろん漫画原作でも新たなストーリーを作り上げ、序章の部分を足すことはできる。だが、スピーディな展開を期待する前評判を考慮すると、冗長になってしまう可能性は高い。ただでさえ長い漫画原作を削って2時間におさめるのだ。足すことはリスクになる。

参加者にゲーム辞退の権利を与えているのも特徴的だ。一回戦を勝ち抜いた参加者たちは、それぞれ家路に着く。しかし、借金まみれの辛い日々の生活が耐えきれなくなり、今度は自ら命懸けのゲームに挑んでしまう。強制参加ならば命を賭けざるを得ない理不尽な悲しみが描かれるが、自由参加となると描かれるのは哀愁ややるせなさだ。ここら辺も大きな違いになっている。

この回(2話)の副題は「地獄」。デスゲームを「地獄」と表現していると思わせておいて、本当は日常の方が「地獄」だった、というなんとも皮肉たっぷりな演出だ。日々の生活自体が過酷、彼らほどではなくとも共感できる視聴者は、韓国でも日本でもアメリカでもヨーロッパでも少なくないはず。主要な参加者それぞれの地獄がここでしっかりと描かれる。

セビョク役のチョン・ホヨンはインスタフォロワーが40万人から2100万人に/Netflixシリーズ『イカゲーム』独占配信中

頭脳戦よりも心の変化が描かれるゲーム

肝心のデスゲームの内容はシンプルだ。例えば、『カイジ』シリーズのゲームはクオリティの高い騙し合いが繰り広げられ、発想の転換や頭脳戦が面白みとなっている。『LIAR GAME』なんかもそうだ。

『イカゲーム』にももちろんそういった楽しみはあるが、そこまで複雑なものではない。誰も思い浮かばない「悪魔的な発想」ではなく、一般人が頑張って辿り着いた発想の範疇だ。現実離れしないシンプルな戦いが、わかりやすさとテンポの良さを生み、より幅広い層にウケたのかもしれない。

その代わりにゲーム中に描かれるのは、心理のブレ。成長だけではない変化だ。元から悪党のやつもいれば、少しずつデスゲームに染まるやつもいる。正義感溢れる主人公ギフンですら、どこまでも正しくはいられない。自分の命惜しさに、らしくない言葉を吐くこともある。そこに誰かの思惑が交わり、ストーリーと心情が転がっていく。勝ち負けだけでは割り切れないものがあるのだ。

最後に過酷なデスゲームを乗り越えた人物は、成長したのか、達観したのか、それとも世間ズレしてしまっただけなのか。観た人によって意見がわかれるところだろう。もしかしたら、シーズン2を作るためにムリヤリ作った展開なのかもしれない。

今のところ続編が決定したとの報道はないが、しっかり丁寧にお金を掛けて作っている『イカゲーム』は、シーズン2もヒットしそうだ。

韓国の愛されおじさんと呑む幸せ!Netflix「ペク・ジョンウォンの呑んで、食べて、語って」はひとり呑みに最強
企画、動画制作、ブサヘア、ライターなど活動はいろいろ。 趣味はいろいろあるけれど、子育てが一番面白い。
熱烈鑑賞Netflix