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Netflix『THE GUILTY/ギルティ』1シチュエーションで1時間31分、一瞬も聴き逃がせない秀逸サスペンス

世界最大の動画配信サービス、Netflix。いつでもどこでも好きなときに好きなだけ見られる、毎日の生活に欠かせないサービスになりつつあります。そこで、自他共に認めるNetflix大好きライターが膨大な作品のなかから今すぐみるべき、ドラマ、映画、リアリティショーを厳選します。今回ご紹介するのは、Netflix映画『THE GUILTY/ギルティ』。部屋の中だけの1シチュエーションで1時間31分、登場するのはロス市警のジョー・ベイラーひとり。傑作のリメイク、その結末は……。

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部屋の中だけの1シチュエーション

想像力の映画だ。
なんとこの映画、画面にしっかりと登場するのはおじさんひとりだけ。ロス市警のジョー・ベイラー(ジェイク・ギレンホール)しか出てこない。しかも、おじさん、夜勤だから外に出れない。部屋の中だけの1シチュエーションで1時間31分。
そんな映画が面白いのか? 激烈に面白いのだ。

ジョー・ベイラーは夜勤で、911コールセンターにいる。女性からの電話をとる。女性の名はエミリー・ライトン。様子がおかしい。
「いい子ね」「怖がらないで」などと女性は警官のジョー・ベイラーに言う。
「飲んでる?」「違うわ」
切ろうとする寸前、他に誰かがいることに気づく。男だ。「もう切れ」と怒鳴っている。彼女は子供と話しているフリをして、助けを求めているのだ。

「“はい”か“いいえ”で答えて」
誘拐されたのだと判ってくる。女性は車に乗せられて、北へ向かっている。恐ろしい現場と音声だけで繋がっている。危機的な状況が発生しても、こちらは直接何もできない。
我々は、ジョー・ベイラーと共に、電話の音声を通じて誘拐事件を想像し続け、見えない状況のイマジネーションに翻弄されることになる。

男には前科がある!

電話を切り、カルフォルニア・ハイウェイ・パトロールに電話する。だがナンバープレートが判らないため、思うようにパトカーも動けない。しかも、ひどい山火事が発生していて、こちらに手を割けないようすだ。

エミリーの自宅に電話すると、6歳の娘のアビーが出る。
「パパは怒って、ママが泣いた」
娘のアビーは泣きながら言う。ジョーは、少しずつ情報を得る。事件の状況が判ってくる。アビーから「パパ」の電話番号を聞き出し、人物を特定する。その情報が目の前のディスプレイに表示される。前科がある。

さあ。ここから先のことは一言も書けない。ネタバレするのはもったいない。ぜひ観て聴いて、翻弄されてほしい。
耳で集中する映画だが、だからといって映像が不要なわけじゃない。聴覚情報を刺激するための的確な映像演出も見事。ジェイク・ギレンホールの顔芸もアメリカ映画的な派手さがある。

映画が始まる前に「真理は汝を自由にする。ヨハネによる福音書」とエピグラフが表示される。
ジョー・ベイラーは、咳込み喘息の薬を吸引する。視界がぼやける。信用できない語り手だと感じさせる。

さらに、ベイラーは、何らかの理由で現場を外され、コールセンターにいることが判ってくる。
一筋縄ではいかない緻密な脚本であることが伝わってくる。観終わるとタイトルが「THE GUILTY/ギルティ」(罪の意識)である理由もずっしりと効いてくる。ジェットコースター的なスリルと知的興奮に満ちたエンタテインメント作品であると同時に重層的な人間ドラマでもあるのだ。

ジェイク・ギレンホールの顔芸もみどころ/Netflix映画『THE GUILTY/ギルティ』独占配信中

見事なリメイク

この作品、実はリメイクだ。グスタフ・モーラー監督・脚本で、サンダンス映画祭観客賞を受賞したデンマーク映画がオリジナル。ソリッドでぶっ飛んだ設定と予測不能な展開で話題になり多くの映画ファンを唸らせた。実はTBSラジオでオーディオドラマ化もされている。

Netflixリメイク版の監督は『イコライザー』シリーズや『マグニフィセント・セブン』『エンド・オブ・ホワイトハウス』のアントワン・フークア。
脚本はドラマ『トゥルー・ディテクティブ』シリーズのニック・ピゾラット。
脚本上の大きな改変はない。オリジナルを丁寧にアレンジしアメリカ映画化している。役者の表情や動きは派手になり、BGMが追加された(オリジナルは劇伴なし!)。

とはいえラストだけ「意味」が大きく変化する繊細な変更がなされている(実はあるひとりの人物の生死すら変わっているのだ)。それをハリウッド的な反省なきご都合主義ととらえるか、ポジティブな希望へ転換したバージョンアップととらえるかは個々の好みだろう。オリジナルとリメイク版を見比べるのも楽しい。必見必聴の傑作だ。

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ゲーム作家。代表作「ぷよぷよ」「BAROQUE」「はぁって言うゲーム」「記憶交換ノ儀式」等。デジタルハリウッド大学教授。池袋コミュニティ・カレッジ「表現道場」の道場主。
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