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Netflix韓国ドラマ「わかっていても」は若かりし頃の恋愛を肯定するリアルなラブロマンス

世界最大の動画配信サービス、Netflix。自他共に認めるNetflix大好きライターが膨大な作品のなかから今すぐみるべき、ドラマ、映画、リアリティショーを厳選します。今回ご紹介するのは、韓国ドラマ『わかっていても』。愛なんて信じないけれど恋愛はしたい主人公ユ・ナビ(ハン・ソヒ)と恋愛は面倒だけどトキメキは楽しみたいパク・ジェオン(ソン・ガン)が出会い、“割り切った関係”を始める恋愛ドラマ。そう簡単に人の本性が変わることがないとわかっていても……。

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傷つくとわかっている恋を自嘲せず美しく切り取る

Netflixで配信中、韓国では『梨泰院クラス』と同じテレビ放送局のJTBCで放送された恋愛ドラマ『わかっていても』(全10話)。初めての恋人に傷つけられて別れたばかりの美大生、ユ・ナビ(ハン・ソヒ)が、特定の恋人を作らないと噂されるモテ男のパク・ジェオン(ソン・ガン)と出会い、「割り切った関係」を始めてしまう。美大に通う若者たちの恋愛模様を描いたドラマだ。

「ナビ」とは、韓国語で「蝶」のこと。主人公の名前はナビ。ジェオンの首には意味ありげに蝶のタトゥーが彫られている。序盤の「ナビが好きだ」というジェオンの言葉は、蝶を意味するのかナビに向けられたものなのか。そんな思わせぶりな言動は彼にとって当たり前で、ナビはジェオンに翻弄されていく。

ナビにだけ特別に優しくしてくれているようで、気づくと他の女の子にも同じように接し、囲まれているジェオン。絶対に彼について行ったらダメだとわかっていても、どうしようもなく惹かれて受け入れてしまう。わたしを含め、10~20代の頃にそんな経験をした女性の胸をグサグサと突く設定だ。過去の痛みと恥ずかしさがよみがえり、見たくない。それでも最後まで見てしまったのは、このドラマが、彼らの恋愛を痛々しい過去ではなく尊い一瞬として美しく描いていたからだ。

初めての恋愛で傷ついたばかりの美術大学の彫塑科の学生、ユ・ナビ(ハン・ソヒ)/Netflixシリーズ『わかっていても』独占配信中

思わせぶりな悪い男性との関係を誰かに話す場合、つい自虐して笑いに変えようとしたり自分を責めたりと、なかなか良い思い出としては語れない。けれど『わかっていても』では、ナビとジェオンが見つめ合って過ごすとき、雪が舞い、桜が降りそそぎ、月の光は優しく、夕日はあたたかく彼らを照らす。友人に「男を見る目がない」と忠告されても、つらい別れを経験したばかりのナビにとっては、ジェオンは笑顔とときめきをくれる大切な相手だった。映像と音楽の美しさが、そんな彼女の人生の一瞬を肯定している。

特に挿入歌の『Whisper』(パク・ジウ)は、とても神聖な印象の曲だ。曖昧な関係に対する「だらしない」とか「みっともない」などという悪いイメージを浄化してくれるように感じられる。本作を見るときには、名曲揃いの挿入歌や主題歌にもぜひ耳を傾けてみてほしい。

人生の伏線は必ずしも回収されないというリアル

『わかっていても』は「リアルな恋愛ドラマ」と評されている。友達以上恋人未満のナビとジェオンの関係が、いまの韓国の若者の恋愛観をよく捉えているからだろう。「割り切った関係」のつもりが、つい欲が出て「付き合いたい」とか「関係をはっきりとさせたい」と思ってしまうまでの感情の変化も共感できる。

ナビを翻弄するモテ男、パク・ジェオン(ソン・ガン)/Netflixシリーズ『わかっていても』独占配信中

ナビとジェオンが通う美大の仲間たちの恋愛模様もさまざまだ。先輩たちの前であろうと四六時中べったりとくっついている後輩カップルは、韓国の学生カップルの王道。10年以上前にわたしが韓国留学をしたときにも、大学構内でよく見かけたので懐かしく感じる。

ナビの親友・ビンナ(ヤン・ヘジ)は、特定の恋人を作らずマッチングアプリやバーで出会った男性とワンナイトの関係を楽しんでいる。そのことを隠さずに学校の作業室でも大っぴらに話す。そんな奔放な女性だとわかっていても、いつもビンナのそばにいて片思いをしている男子学生がギュヒョン(キム・ミンクィ)だ。心配や嫉妬こそするが、他の男性と遊んでいるからといってビンナを軽蔑したり、嫌いになったりはしない。そんなふたりを、仲間たちが「良い/悪い」などと勝手に判断したり非難したりしないところが今風だ。

彫塑科の優等生・ソル(イ・ホジョン)と、中学からの同級生で親友のジワン(ユン・ソア)の関係も、徐々に変わっていく。クールで男性との噂がひとつもないソルと、対照的にいつも合コンに参加し失恋してはソルたちに甘えて慰めてもらう天真爛漫なジワン。ジワンがちょっとでも危なっかしいことをするとソルが駆けつける。その場面をサラリと流さず、絶妙に余地のある間をもってカメラが切り取ることで、ふたりの間に友情よりももっと特別な何かがあることを序盤から示唆している。同性の恋愛をことさらに特別視しすぎないことも、最近のリアルなのだろう。

また、ナビとジェオンに関するさまざまな問題がはっきりとは解決されないことも現実的だ。例えば、ナビは母親との関係が良くなく、母親よりも陶芸家の伯母を頼りにしている。その母親との関係は、最後まで改善することはない。ジェオンもまた、母親と10年以上離れて暮らしているようだが、そこに恨みや寂しさなどの感情は描かれず、関係もそのままである。他にも「あれ? あの件はどうなったんだっけ」と思う話題がそのままになっている。

伏線や問題はすべて回収すべき、という粗探しのような見方をしていると、もしかしたらそうした点が気になってしまうかもしれない。けれど、現実にはそんなに簡単に何もかもが解決することはない。後悔するような恋愛も不仲の家族も、自分で抱えて生きていかなければならない。それは、いつかスッキリと解決するかもしれないし、しないかもしれない。そうした置き土産の塩梅も、本作が「リアル」と言われるポイントのひとつになっている。

穏やかな日常よりも自分が輝く一瞬を選ぶ

学生たちの恋愛がリアルかつ波乱があるのに対して、助教として働く大学院生の先輩ふたりは少し大人だ。仕事仲間とひょんなことから同棲することになる、という設定は漫画的な飛躍がある。しかし、同棲はつまり「生活」である。ジェットコースターのような感情の高低差はないけれど、日々の生活の中で互いに良いところやダメなところを知り、自然と受け入れていく様子は安心して見ていられる。

ナビにも、穏やかな恋愛のきざしが見える瞬間が来る。幼馴染の真面目な青年、ドヒョク(チェ・ジョンヒョプ)との再会だ。

「麺食堂の孫」として動画配信者としても活動するヤン・ドヒョク(チェ・ジョンヒョプ)/Netflixシリーズ『わかっていても』独占配信中

互いに初恋の相手であるナビとドヒョク。ジェオンの呪縛から逃げるように伯母のいる田舎に帰ったナビは、そこでドヒョクと楽しい時間を過ごす。こどもの頃のように海沿いを自転車で走り、祖父の麺食堂を再開するために懸命に準備をするドヒョクを見守る。ドヒョクはいつもナビを励まし、彼女のためにバーベキューを準備したり、韓国で誕生日に食べるわかめスープをつくってあげたりもする。付き合えば絶対に心穏やかに過ごせるタイプの男性だ。

映画『耳をすませば』では天沢聖司より杉村。漫画『溺れるナイフ』(ジョージ朝倉/講談社)ではコウちゃんより大友。ドラマ『この恋あたためますか』(TBS)では社長(中村倫也)よりまこっちゃん(仲野大賀)。わたしを含めそんなタイプのひとにはガッツリとハマるのが、ドヒョクというキャラクターだ。

助教の先輩たちやドヒョクのような「穏やかで優しい恋愛」の可能性も提示される。それでもナビはジェオンに向かっていく。

「君は、(制作)作業をしているときが一番きれいだ」と、ジェオンは言う。作品に感情を込めるようにと、教授から何度も指導されていたナビ。感情を表現しようとしているときが彼女の一番美しいときなのだとしたら、恋愛でもきっとそうだ。美大生という設定が、作品づくりという学生の本分と恋愛とをここで繋いでいる。

他の誰かから見たら、つらそうで痛々しくて馬鹿みたいな恋愛を、人生の尊く美しい時間として切り取った本作。過去に、忘れたいような後悔ばかりの恋愛に翻弄されたひとにこそ、ぜひ見てほしい。そして、一緒に浄化されましょう。

Netflixシリーズ『わかっていても』独占配信中
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ライター・編集者。エキレビ!などでドラマ・写真集レビュー、インタビュー記事、エッセイなどを執筆。性とおじさんと手ごねパンに興味があります。宮城県生まれ。
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