「青天を衝け」全話レビュー

『青天を衝け』29話。渋沢栄一、新政府で大活躍。郵便、鉄道、富岡製糸場を作る

吉沢亮主演NHK大河ドラマ「青天を衝け」。「日本資本主義の父」とも称され、幕末から明治を駆け抜けた実業家・渋沢栄一を主人公に物語が進みます。明治政府に出仕し、各省の垣根を超えた特命チーム“改正掛”を立ち上げた栄一(吉沢亮)。租税の改正、貨幣や郵便制度の確立など、新たな国づくりのためまい進し、旧幕臣の活躍を快く思わない一派との対立が生まれてしまいます。
『青天を衝け』28話。渋沢栄一、大隈重信と伊藤博文に言いくるめられる。

吉沢亮主演、大森美香脚本の大河ドラマ「青天を衝け」第29話。
明治時代にはなったものの、ちょっと前まで鎖国していた国がいきなり西洋を見習って近代化しようとしても無理がある。
いろいろと混乱状態にあった新政府に、渋沢栄一(吉沢亮)の提案で設置されることになった改正掛(かいせいがかり)がスタートする。

郵便の父や造船の父が登場

改正掛とは、各省の垣根を越えて大局的な観点から改革を推し進めていく部署で、今の日本でいう行政改革担当みたいなものだろうか。
行政改革担当大臣がデカいこと言っていたわりにハンコの廃止も大して進んでおらず、結局、何やったんだ感が漂っている一方、改正掛の改革スピードはスゴイ。
実質、活動したのは2年足らずだが、その間に郵便制度や電信、鉄道の建設。度量衡の統一。富岡製糸場の創立。戸籍法や租税法の改正などなど、現在の日本につながる基礎を作りまくったのだ。
数年前までチョンマゲつけて年貢米だ御用金だという話をしていたのに、一気に郵便や鉄道の整備が進んでいくとは……。改正掛は江戸時代と近代日本をつなぐオーパーツ的な存在といえるだろう。

もちろん、遂に花開いた栄一の手腕が活かされているわけだが、その栄一をはじめとした旧幕臣をこだわりなく登用した大隈重信(大倉孝二)や伊藤博文(山崎育三郎)の懐の深さもある。
西洋をモデルにして近代化を図るためには、当然、西洋をよく知る人材が必要。

幕末期、一部の藩でも海外留学を実施してはいたものの、やはり留学生の数では旧幕臣が抜きんでている。
「異国帰りの旧幕臣は百をくだりません。皆が新しき世をまとめようと学んでいた。まことに『直参なめんなよ、この野郎!』だったのでございます」
栄一は静岡藩から、後に「日本郵便の父」と呼ばれる前島密(三浦誠己)や杉浦譲(志尊淳)。「日本造船の父」赤松則良(上村海成)を呼び寄せて改革を進めていく。

年寄り(40代)は放っておいて若者が改革を推進

改正掛が自由に改革を進められたのは、新政府上層部がゴタゴタしている時期で、目が届いていなかったからという事情もあったようだ。
戊辰戦争を勝ち抜いて幕府を倒したはいいものの、新政府には金がないため、戦ってくれた武士たちに十分な報酬を渡すことができない。

そんな武士たちの不満がくすぶっており、西郷隆盛(博多華丸)は鹿児島に帰ってしまい、大久保利通(石丸幹二)は西郷を東京に戻そうと説得のために頻繁に鹿児島に行っており……。
栄一たちはそのスキをぬって、ガンガン近代化を進めていたわけだ。

伊藤博文は「年寄り連中のうだうだした話し合いもバカらしい!」と言っていたが、この頃、大隈重信、伊藤博文、渋沢栄一は30歳前後。新政府の上層部である大久保利通、西郷隆盛、岩倉具視(山内圭哉)たちは40代……。

40代で「年寄り」呼ばわりされてしまうのはショックだが、日本の近代化はそれだけ若い力によって成し遂げられたということだろう。
幕末期の栄一は、何をやってもパッとしない時期が長かった。それだけに、上下も出自も関係なく活発な議論が繰り広げられる改正掛で、のびのびと才能を発揮している姿が爽快だった。

ただ、ちょうど同タイミングで岸田新内閣の大臣が次々と発表されていて、相変わらずなお年寄りばっかりのラインナップでちょっと暗い気持ちになってしまった。
今の世の中にも欲しいよ、改正掛!

惇忠兄ィ、フランス人と手を組む

栄一が呼び寄せたのは旧幕臣ばかりではない。
国産生糸の品質を上げるため、西洋型の製糸工場を作るため、地元・血洗島で養蚕に励んでいるという尾高惇忠(田辺誠一)に目をつけたのだ。

しかし惇忠は、幕臣だった栄一が新政府で働いていることにお怒りの様子。
……惇忠兄ィはもともと尊王攘夷の人。一周回って、天皇をトップに据えた新政府で働くのも悪くないとは思うが、弟・平九郎(岡田健史)が新政府軍に殺されたことが引っかかっているのだ。

「首を斬られ、晒され、いまだ亡骸も見つからねぇ。その政府に手を貸すなど、平九郎にどう顔向けしろと言うんだ?」
栄一はこれに「オレたちだって異人を焼き殺そうとしたじゃねぇか」と反論。敵を作り、殺し合うサムライの世はもうたくさんだと訴えた。

「オレは平九郎に顔向けできなくても、できることをする!」
栄一の言葉で考えを改めた惇忠は新政府への出仕を決める。惇忠兄ィも世の中の流れに振り回され、何度も判断を誤ってきた人。間違っていた過去は過去として、新しい時代に向けて一歩を踏み出すことにしたのだろう。
かつては焼き討ちをしようとしていたフランス人。富岡製糸場顧問として雇われたポール・ブリュナ(マッシモ・ビオンデイ)と固い握手を交わした。

「日本郵政の父」や「日本造船の父」など、いろいろな「○○の父」が登場した今回だが、次回のサブタイトルは「渋沢栄一の父」。よくできている。

今回、久々に栄一たちと再開した市郎右衛門(小林薫)のほっこりエピソードも描かれていた。栄一の出世を喜びつつ、「分不相応なものは一切身につけたくねぇ」と、どこかもの悲しい感じで地元へ帰っていった市郎右衛門。
いかにもフラグが立ちまくっている感じがするが……。

『青天を衝け』全話レビュー第1話はこちら

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『青天を衝け』28話。渋沢栄一、大隈重信と伊藤博文に言いくるめられる。
1975年群馬生まれ。各種面白記事でインターネットのみなさんのご機嫌をうかがうライター&イラストレーター。藤子・F・不二雄先生に憧れすぎています。
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