「青天を衝け」全話レビュー

『青天を衝け』30話。艶福家・渋沢栄一誕生!? 廃藩置県より不倫が気になる

吉沢亮主演NHK大河ドラマ「青天を衝け」。「日本資本主義の父」とも称され、幕末から明治を駆け抜けた実業家・渋沢栄一を主人公に物語が進みます。廃藩置県と父親の死と渋沢栄一(吉沢亮)の不倫エピソードが描かれた盛りだくさんの30話。次回は修羅場の予感……!?
『青天を衝け』29話。渋沢栄一、新政府で大活躍。郵便、鉄道、富岡製糸場を作る

吉沢亮主演、大森美香脚本の大河ドラマ「青天を衝け」第30話。
廃藩置県と父親の死と渋沢栄一(吉沢亮)の不倫という、視聴者の心が追いつかないほど振り幅があるエピソードが描かれた。

突然のZoom演出に度肝を抜かれた廃藩置県

渋沢栄一率いる改正掛は、郵政制度のスタートや新貨幣の製造など、新しい国家を作るため数々の改革を推し進めていた。しかし新政府上層部は相変わらず主導権争いばかりでまとまりがないまま。
明治維新を主導した西郷隆盛(博多華丸)や五代才助(ディーン・フジオカ)も、幕府を倒すことで新しい時代が到来することを期待していたのに、いつまでも古いシステムから脱却できない日本にいら立っているようだ。

そんな中、西郷どんからこんな発言が飛び出す。
「まだ戦が足りん! もうちいっと戦をばせんなならん。戦じゃ戦じゃ」
せっかくはじまったばかりの国家をブチ壊すつもりかと新政府は混乱するが、井上馨(福士誠治)はエスパー並みの理解力で、
「中途半端に策をこねくり回してる間に、日本はどんどん弱っちょる。そんなら戦覚悟で廃藩置県を断行しろと、西郷さんはそう言うとるんじゃ!」
と解釈した。

幕府が倒れ、新政府がスタートしたといっても、各藩を治めているのは相変わらず江戸時代から続く旧藩主たち。その権限を奪った上で新政府が全国を統治し、税金を直接取り立てようというのが廃藩置県だ(旧藩主は失職して東京への移住が命じられ、代わりに政府が選んだ県令が送り込まれている)。

当然、権力を奪われる旧藩主たちからの強い反発が予想され、戦が起こる可能性もある。ということで、情報が漏れる前に素早く制度を準備して、一気に布告する必要があったのだ。
栄一たち改正掛は4日間の突貫作業で制度をまとめ上げ、「世界に類を見ない無血革命」と称されるように、戦をせずに藩を廃止するという大改革を成し遂げた。
旧藩主側が反乱の準備をする間もなく廃藩置県を布告できたこともあるが、新政府のバックには天皇がいるため、逆らうと朝敵となってしまうこと、幕末のゴタゴタでどの藩も借金まみれで力がなくなっていたことなどの理由もあったようだ。

結果、無理筋な廃藩置県の布告に全国の旧藩主が「ハハーッ」と従うことになる。

それにしても、時期が時期だけに「ピローン」という音に「地震速報!?」と反応してしまったが、まさかZoomの分割画面演出とは……。
冒頭で徳川家康がタブレットを使用しており、「“家康が明治時代になっても出続けている”どころじゃないぞ!」と思っていたら、あれは謎のZoom演出への布石だったのか。
インパクト大ではあったものの、意図はよく分からなかったけど。なぜ唐突にZoom……。

サワヤカだった栄一がいきなりエロおやじ化

廃藩置県が大成功したものの、西郷どんは「無事に終わってしもうたのう」と微妙な反応を見せていた。

新政府にとって必要な改革であることは理解しつつも、戦がないと存在理由が希薄になる旧・武士階級の代表でもある西郷どんとしては、「もうちいっと戦をばせんなならん」という言葉通り、各地で反乱が起こって戦がはじまってほしいという複雑な気持ちもあったのだろう。
つくづく、本作の西郷どんは闇が深い。

さて、日本の歴史上ものすごく重要なターニングポイントとなった廃藩置県だが、視聴者的にもっと重要だったのは栄一の不倫だろう。
現実の栄一はメチャクチャ多くの妾を作って、正式に認知されている子ども以外にも、あちこちに隠し子がいたと言われている。
とはいえ、さすがに大河ドラマなので、その件はなかったことにするか、もう少しオブラートに包んだ描かれ方とすると思っていたのだが……。ど直球でやると思わなかった!

現実はどうか知らないが、ここまでドラマ中の栄一はピュアで真っすぐな青年として描かれていた。
一橋家に仕官して京都で働いているときも、芸者遊びに興じる上司たちを尻目に「女など結構! 某には国に大事な妻がおります!」とか言っていたのに……。
大内くに(仁村紗和)が、戦に駆り出された死んだと思われる夫そっくりの栄一と出会ってときめいてしまう気持ちはまだ分かる。
栄一の方はどうして突然、不倫エロおやじになってしまったのか。これまでのサワヤカ青年っぷりはなんだったんだ!?

「足袋の穴、繕いまひょか?」とか言って、わざわざ赤い糸で白い足袋を繕って女の痕跡を残す大内くに(仁村紗和)も怖いし、初不倫とは思えないほど手慣れた様子でくにを部屋に招き入れる栄一も怖い。

ちなみに本作のオープニング曲を指揮している尾高忠明は、栄一とくにの娘(尾高惇忠の息子と結婚)の孫にあたる。
尾高忠明さんが関わっているから、大内くにとのエピソードを無視できなかったのかもしれないけど、ご本人は自分のルーツである不倫シーンをどんな感情で見たのだろうか……。

父の死よりも不倫の顛末が気になって……

今回のサブタイトルは「栄一の廃藩置県」でも「栄一のゲス不倫」でもなく「渋沢栄一の父」!
当然、父・市郎右衛門(小林薫)の死がクライマックスとなっているわけだが、チチキトクの知らせが入る直前に、栄一の妻・千代(橋本愛)が足袋の赤い糸にバッチリ気付いた。市郎右衛門が亡くなるシーンでも、そっちの方が気になって気になって……。

葬式が終わり、市郎右衛門が残した帳簿を見返して感極まった栄一が「なんと美しい生き方だ……!」とか言って涙を流していたけど、「おやじは美しい生き方かもしれないけど、アンタは不倫してるもんなぁ~(しかも妻もうすうす感づいていそう)」と思っちゃうと、こっちは泣くに泣けないよ!

次回のサブタイトルは「栄一、最後の変身」。

農民から尊王攘夷の志士、一橋家の家臣、幕臣、新政府の役人と、その時々で転身を繰り返してきた栄一が、実業家へと最後の転身を図ることが予想される。
しかし、次回予告で千代とくにが鉢合わせていて……修羅場の予感!? もうそっちのことしか考えられない!

『青天を衝け』全話レビュー第1話はこちら

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『青天を衝け』29話。渋沢栄一、新政府で大活躍。郵便、鉄道、富岡製糸場を作る
1975年群馬生まれ。各種面白記事でインターネットのみなさんのご機嫌をうかがうライター&イラストレーター。藤子・F・不二雄先生に憧れすぎています。
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