本という贅沢133 『純猥談』

さとゆみ#133 生殺与奪の権を他人に渡してしまったとき。そこに「純猥談」が生まれる。

隔週水曜日にお送りする、コラム「本という贅沢」。今回は投稿数1万件超の「性愛にまつわる誰かの体験談」をまとめた1冊を取り上げます。その妙味と苦味を解説するのは、単行本化を待望していた書籍ライターの佐藤友美(さとゆみ)さんです。

●本という贅沢133 『純猥談 一度寝ただけの女になりたくなかった』
(純猥談編集部/河出書房新社)

インスタやTwitterでおなじみ、純猥談ファンの皆さま! お待たせしました! ついに出たよ、書籍化だよ。
あ、お待たせしましたと書いたけれど、私が作ったわけではありません。わたしも、いちファンとして待ってただけです。

インスタやTwitterのおしゃれフォトの雰囲気とあまりにもイメージが違う表紙だったから、一瞬、あれ? 何かの間違いかな? って思ったのは多分私だけじゃないよね。
だから全国民を代表して確認してきましたが、間違いなかったです。ちゃんと、本家本元、純猥談の書籍化でした。
なぜこの装丁になったのだろう。

(閑話休題)

えっと、この本の感想を話す前にちょっと、自分の話をしたいんですけれど、
わたし、この間、人生のミッション&ビジョンを見つめ直して言語化する的なワークを受けたんですよ。

そこでね、人生の幸福曲線なるものを、描くように言われた。
物心ついたときから今に至るまで、自分に影響を与えたいろんな出来事を思い出しながら、当時の自分の幸福度が何点だったか考えて、その点数を繋いでいくのね。

できあがった曲線は、だいたい心電図みたいに山あり谷ありのウェーブになるのだけれど、わたしの幸福曲線、他の人のものに比べて、ちょっと様子がおかしかった。
心電図で言うと、死んでるやつ。
ぴーって、ほぼ一直線の、波無し人生。90点か91点か92点くらいの差はあれど、人生総じて幸せで、谷がないから、山もない。
ここにチコちゃんがいたら、「ボーっと生きてんじゃねーよ!」って怒られそうな、平和すぎる人生。

で、これじゃあ、あまりにあまりなので、人生で辛かったことって何かあったっけ?って、もう一度よくよく思い出したら、あった! 3つばかし、あった!

・ひとつは、15歳の時、親の転勤で彼氏と遠距離恋愛になったこと
・もうひとつは、21歳の時、彼氏にフラれたこと
・そして、31歳の時、夫①と別れたこと

なので、その3つを30点くらいの評価にして、幸福曲線に描き足した。
おお。ちゃんと、山あり谷あり的な人生になったではないか。
曲線というか、私のグラフ、wwの途中みたいな、薄く草生えた感じの形状になった。

で、ですよ。
この人生45年間の幸福度グラフを見てしみじみ思ったのだけど、
結局、男か。
ってことですよね。

私の幸福度を上下させている理由が一個しかなくて、それは男、ってことなんですよ。

ここに冨岡義勇がいたら、「生殺与奪の権を他人に渡すな」って怒られるところですけどね、わたし、完全に生殺与奪の権を他人に握られてる。

いやでも、そうなんだよね。
好きな人との関係性って、人生において唯一、強い意志とたゆまぬ努力(キリッ みたいなものでは、どうにもならないところなんだよね。

どんなに自分が好きだったとしても、相手の気持ちはコントロールできないし、
どんなに好きでい続けたくても、悲しいかな自分の気持ちもコントロールできない。

コントロールできないくせに、
うまくいっている時の恋は、どんな薬やサプリよりも効能あるし
でも一度落ちると、どんなドラッグよりもタチが悪い。
そりゃ、惚れた相手には、命も握られるわけですよ。

で、話は戻るのだけれど、だから純猥談的な世界が生まれてしまうんだと、思うんだよね。

純猥談を読んでいつも切ない気持ちになってしまうのはなぜか。それはここにあるラブストーリーの多くが、コントロールの効かない恋を少しでもどうにかしたくて、心と身体を切り離す話だからだ。
だから、痛い。

恋が終わろうとしている時。もうどうしようもなくすれ違っている心に気づいているのだけれど、
もしくは、始まりそうもない恋を追いかけている時。この先重なる可能性のない気持ちだとわかっているのだけれど、

心を切り離してしまえば、身体だけは、重ねることができる。
身体は重なってしまうから期待してしまうけれど、心はそこにないから、そこから何も生まれない。

心と身体を切り分けた痛みと、
それでも手元に何も残らない痛みと。
二重に痛い。

この痛み、たぶん、一億総国民みんなが知ってる痛みだよね。

今回純猥談が書籍化されて、いろんなエピソードをまとめて読んで気づいたのは、
全部ちがう話なのに、全部同じ話のようだ、ってことだ。

どれもが自分だっかもしれない話だし、あなただったかもしれない話。

幸せなときに読んだら、未来が怖くなるかもしれない。
体力がないときに読んだら、泣いてしまうかもしれない。
かさぶたをはがすのが好きだった人には、向いているかもしれない。

純猥談はいつだって、幸福曲線が底だったときの血の味を、ぺろりと思い出させてくれる。

それではまた、水曜日に。

●佐藤友美さんの新刊『女は、髪と、生きていく』が発売中です!

佐藤友美さんのコラム「本という贅沢」のバックナンバーはこちらです。

・病むことと病まないことの差。ほんの1ミリくらいだったりする(村上春樹/講談社/『ノルウェイの森』)
・デブには幸せデブと不幸デブがある。不幸なデブはここに全員集合整列敬礼!(テキーラ村上/KADOKAWA/『痩せない豚は幻想を捨てろ』)

・人と比べないから楽になれる。自己肯定感クライシスに「髪型」でひとつの解を(佐藤友美/幻冬舎/『女は、髪と、生きていく』)

年間10冊以上を担当する書籍のライターとして活動。ビジネス書から実用書まで幅広いジャンルを担当する。自著に『女の運命は髪で変わる』『道を継ぐ』など。