グラデセダイ

【グラデセダイ53 / Hiraku】私が誹謗中傷を気にしない理由

「こうあるべき」という押しつけを軽やかにはねのけて、性別も選択肢も自由に選ぼうとしている「グラデ世代」。今回は、中村キース・ヘリング美術館プログラム&マーケティングディレクターのHirakuさんのコラムをお届けします。

●グラデセダイ53

少し前に知人からの連絡で気づいたのですが、このコラムはヤフーニュースに転載されています。日本ではヤフーニュースは情報源として、とても多くの人たちが閲覧しているので、転載されると本当にたくさんのコメントをもらえるんです。もちろんうれしいコメントもあるのですが、ほとんどは批判的なものだったり、なかには誹謗中傷まであります。

政治的には堂々と左派寄りで進歩派の私がミレニアル世代の女性に向けて書くこのコラムシリーズは、ヤフーニュースのコメント欄をうろつく「ネトウヨ」たちにとってはストレス発散にもってこいなのでしょう。「お叱り」のような文面には、なぜか中国人や韓国人の批判が出てきます。もはや私のコラムについての意見ではなく、やまびこのように漠然とした鬱憤のはけ口になっています。

 最初に転載に気づいたのは「オカマという言葉」について書いたときでした。ちょうどテラスハウスの木村花さんの自殺と誹謗中傷が騒がれていた時期。トピックに関するネガティブなコメントの内容は、

「オカマと友だちになるなんて願い下げだ」(願ってない。)
「ゲイの存在なんてどうでもいいからほっといてくれ」
「『差別するな』と真っ向から言われると読む気にならない」

といった具合で、中には文章をしっかりと抜粋までして批判してくれるユーザーまでいました。 
みなさんなら、こういうコメントを書かれたとしたら、どうしますか?

 ミレニアルの私とソーシャルメディア

ここで少しだけ、私のソーシャルメディアとの歴史のお話をします。

1984年生まれの私はいわゆるミレニアルの中でも高齢世代に属します。
この世代の幼少時代には、ソーシャルメディアは存在せず、そこから10代になるにつれ、掲示板やチャットルーム、インスタントメッセンジャーを使っていろんな人と繋がり始め、10代後半から20代にかけ、フレンドスターやマイスペースなどのいわゆる現在のSNSの誕生を経験しました。そのあとすぐにユーチューブ、フェースブック(当時は大学のEメールアドレスをもつ人のみ登録可能でした)やツイッターが現れ、ヴァインや現在でも頻繁に使っているインスタグラムが登場しました。スナップチャットやティックトックが現れたのは完全に社会人になってからでした。

なかでも、マイスペース、ユーチューブ、フェースブック、インスタグラムを積極的に利用し、それぞれのプラットフォームで、それなりの「友だち」やフォロワーの数を持つことができました。

 10代の頃のマイスペースでは初めて、ソーシャルメディア上での人気やヒラルキーを体験しました。マイスペース上で友だちが多かったり、現代の「インフルエンサー」たちのことを当時「Myspace famous(マイスペースで有名)」と呼び、私もそのうちの1人でした。ユーチューブでは、マイスペースのプロフィールに貼り付けるために1人で踊ったビデオをアップロードしたところ、何万単位の観覧数を稼いだこともあります。

たくさんの人の目にとまり、たくさんのポジティブなコメントをもらい、リアクションを得ることにより、アドレナリンが分泌され、その「刺激」にどんどんハマっていきました。しかしそんななか、必ず付きまとったのはネガティブなコメント。

社会的に密かに私の生活を渦巻くマイノリティーステータスに対する他人の意見をまるで誰かが一気にボリュームを上げたかのように、セクシュアリティー、人種や容姿についての批判がつぎつぎと目につき始めました。はじめは何度も読み返したり、真面目に反論をしたり、誹謗中傷で反撃をしたり、いろいろと試しました。

しかし何をしても気持ちは晴れず、批判者や中傷者の理解も得ることもなく、時だけが過ぎていきました。

 誹謗中傷は個人に向けられたものではない

そのうちナイトライフに足を踏み入れ、VIP生活を味わうようになり、オンラインで起こっていることはどうでもよくなり、さらにはオンラインでもオフラインでもどんなに誹謗中傷を受けても、彼らが浴びせる罵声は私にとって「現実」ではなくなっていったのです。私のことを知らない彼らが発する言葉は、私という個人に向けられたものではなく、私の存在が象徴する社会的な立場に向けられたものなのです。

ヤフーニュースのコメント欄へ負のエネルギーを注ぎ込む人たちも、何かしらリアクションを求めているのです。私からではなくても、他のユーザーからの反論や意見交換を求めていて、要は自分自身の存在を確認したいのです。これは皮肉としていっているのではなく、あの時、注目に刺激を感じていた私も同様、人間にとって自然な欲望だと思うのです。

インターネットにより、従来のコミュニケーションがかつてないほどの人数と関わることができるものになり、現代の私たちは、その情報量をうまくプロセスできず、精神的、心理的なダメージを受けていると、さまざまな研究によって証明されています。この先、リアリティーとバーチャルの境界線がさらになくなりつつある環境が待ち受けています。そんな現代を生き抜くツールが、今求められているのではないでしょうか。

これからのソーシャルメディアとの付き合い方

ミレニアル世代以前を生きた大人たちは、若い世代でまだ40代。そして、ものごころがついた頃からソーシャルメディアが存在する私たちの次のZ世代のなかには、とても繊細な思春期を生きる人たちも多く存在します。私たちミレニアル世代のなかには、ソーシャルメディアと健康的な共存の仕方を自分なりに見つけ出した人たちがいます。さらにそのなかには、たくさんのフォロワーや閲覧者がついているプラットフォームを持つ人たちもいます。そのプラットフォームを使って、彼らにはぜひ、これからのソーシャルメディアとの付き合い方や解決法を紹介していってもらいたいと、ネット上の誹謗中傷を目にするたびに強く感じています。

私にはインフルエンサーといえるほどの影響力や経済的価値はありません。ですがこういう場所に自分の意見を掲載させてもらえる立場にある私は、たとえばインスタグラムを見ず知らずの人とつながる場所ではなく、仲のよい友だちや、離れて暮らす友たちとコミュニケーションをとる場所であることを意識しながら使っています。ハッシュタグを使ったり、フォロワーを増やす努力などは特にせず、投稿やストーリーがなるべく自分の友だちの輪から流出しないように利用しています。

ヤフーニュースのように、パーソナルスペースから自分の声がはみ出る場面においては、なるべくリアクションに注目しないように、そして興味本意で覗き見するときには「現実」との境目を意識するようにしています。意図的にそれらを心がけることによって、ソーシャルメディアとの付き合い方が、近頃見えてきたように思えます。

とはいえ、「グラデ世代」の読者のみなさんが考えていることは気になります。このコラムを書くときには、転載のことは全く意識していません。それは、telling,というミレニアル世代の女性のためのスペースにお邪魔しているからです。ここでの私の中の主役は、こんな私の「ただの作文」(ヤフーニュースユーザーより)を読むのに貴重な時間を割いてくれている方や、毎回丁寧に読んでくれているミレニアル世代の女性の友だち、街中で「いつも読んでます」と声をかけてくれる女性たちです。私のことを知らない人も、よかったら下のコメント欄に、批判でもいいのでご意見ください!

ニューヨーク育ち。2014年まで米国人コスチュームデザイナー・スタイリスト、パトリシア・フィールドの元でクリエイティブ・ディレクターを務め、ナイトライフ・パーソナリティーやモデルとしても活動。現在では中村キース・ヘリング美術館でプログラム&マーケティングディレクターとして、自身が人種・性的マイノリティーとして米国で送った人生経験を生かし、LGBTQの可視化や権利獲得活動に積極的に取り組んでいる。
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