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【グラデセダイ55 / 小原ブラス】どうしていつまでも「引越し」に悩まされなくてはいけないのか

「こうあるべき」という押しつけを軽やかにはねのけて、性別も選択肢も自由に選ぼうとしている「グラデ世代」。タレントでコラムニストの顔も持つ小原ブラスさん。外国籍であるブラスさんが、日本における引越し事情について考えます。

●グラデセダイ55

あらかじめ言っておきたいが、ここに書くのはただの永住外国人のぼやきだ。

兵庫県姫路市で育った僕が東京に出てきたのは20歳の誕生日の直前。東京への憧れという大きな荷物を除けば、東京に持ってきたのは簡易的な生活用品を詰めたカバンたった1つだけだった。

若気の至りということもあり、部屋を決めることもなく東京に出てきた僕はしばらくのあいだ、東京に住む知り合いの漫画家の家に泊まらせてもらっていた。その友人の勧めもあって、住む部屋なんて東京で探せばすぐに見つかるだろう、適当に気に入ったところを借りればいいや。その程度の甘い考えだった。

いざ、部屋を探すとなった時にその甘い考えを反省することになったのは言うまでもない。5歳の頃から日本に住む僕は、周りの友人はほぼ全て日本人。遊びも生活環境も全て日本人と同じ空間。すっかり自分が日本人ではないことを忘れていたのだ。

日本人にとってもそれほど簡単ではないお部屋探し、外国人にとってはそのハードルは大きく上がる。最初に行った不動産では、すぐに「ここにします」と言える部屋が見つかった。部屋を決めたというと、あれほど営業トークがたくみだった不動産屋のお兄さんもいきなり契約モード。

「お苗字が小原様なので、ハーフなんですよね?」と不動産屋さん「違いますけど」と僕。
国籍がロシアだということを伝えると不動産屋さんは険しい顔をしてフロアの奥へ。(これも今では、はいはいいつもの事ねと思えることだ。)
 
「すみません。こちらのお部屋は外国籍の方が住めない物件となっておりまして……」

いや、一応顔見たときに聞いとけよ!!この時に少し機嫌が悪くなったこともあり、こちらの不動産屋で住みたい物件に巡り会うことはできなかった。

そのあとに行った不動産屋は、「外国人でも問題なく住める物件がいっぱいありますよ」と言ってくれたものの、内見に連れていかれる部屋はどれも変な部屋ばかり……。

例えばベランダの10センチ先に隣の家の窓があるような物件や、リビングのほぼ真ん中に洗濯機置き場がある物件。いったいどんな作り方をしたら部屋の真ん中に洗濯機が置けるんだという話だ。今思えばこれは、最初に悪い物件をみせて、イマイチな物件でも「これでいっか」と思わせるための不動産屋の営業テク、いわゆる捨て物件というものだったのだと思う。

結果的に紹介された部屋が、目の前を電車が通過するマンションだったのだが、どうしてもそれが嫌で諦めた。

最終的にはああでもない、こうでもない、ここは外国人NGだと探しに探し、東京の郊外にある清瀬市というところに、不動産屋のアドバイスもあり日本人の父親名義で程よいマンションを借りることができたのだ。

この時の部屋探しが大変だったこともあり、28歳になる今もまだこのマンションに住んでいる。もうこの部屋に住んで8年を超える。驚きだ。とにかく外国人だと思い知らされる物件探しが嫌いなのだ。

そんな部屋を借りてくれた父が先日、末期癌で死んだ。収入が昔よりも増えて余裕が出てきたこと、仕事面での変化があったことが重なり、これを機にいい加減に引っ越しをしたいと思うようになった。

普段は日本人に紛れて当たり前に生活をして、なんの差別も受けず、普通に生活できている僕が、最も自分が外国人であると感じさせられる瞬間が来るのだ。

今回は少し心構えができていたのだが、それでもネットで検索をすると「ペット・外国人可」こんな表記が目に入る。「おいおい、外国人は犬と同じ括りかよ」と心で笑いつつも、配慮がないなと少し呆れる。

まず相談したのが、いわゆる外国人を専門に扱う不動産屋さん。これなら間違いないだろうと思ったからだ。2020年が五輪をするはずの年ということもあり、外国人が住める物件は沢山あった。ただそれでも、なんだか古い物件が多い。「ここ良いやん」と思っても、なぜか家具付きで短期契約。留学生とかそういう外国人にとっては便利かもしれないけど、こっちは自分の家具があるしなあ。

僕は留学生でもなければ短期滞在でもない。もう20年以上も前から日本に住んで、育ってきたし、これからもずっと住み続ける。留学生などの外国人と同じように括られるのが本当に不満でならないし、外国人向けの物件を扱う不動産もやっぱり合わなかった。外国人向け不動産はあくまでも短期滞在の外国人に優しい不動産屋であって、日本に永住する外国人はすこし置いてけぼりな感じだ。

外国人が部屋を見つけづらいのは当たり前かもしれない。僕だって大家さんだったら、できるだけトラブルがなさそうな日本人に貸したいと思うだろう。日本以外の国でも外国人が部屋を借りにくいというのは、よくあることなのかもしれない。

それでも毎回思う。大家さんよ、1回俺と会って話してくれ!俺のことをプレゼンさせてくれ!と。20年以上も日本に住んで、母国語はもう日本語であること、貯金通帳だって見せるし、これまでの支払いの滞りもないこともなんとか証明してみせるから、信用してくれ!

別に外国人が部屋を借りやすくなれば良いとまでは言わないけど、できれば門前払いせずに日本に住む年数とかどんな人なのか1度はチェックをしてみてから決めてよと思う。

もちろん僕が部屋探しに疎いだけという可能性もあるし、もしかしたら外国人でも上手く探す方法があるのかもしれない。何か上手い方法があれば是非教えて欲しいものだ。

今回僕が決めた部屋は、通常の不動産屋の紹介の部屋。外国人はOKだけど通常の2倍の敷金礼金を払う必要のあるところだった。そもそも敷金礼金ってなんなんだよ。

この敷金礼金問題、多くの日本人にとっても不満の種だろう。空き物件が沢山あるのになかなか変わらない東京の住宅事情、いつまでもこのままでいいのか。

今回の部屋探しで、ますます早く帰化して日本人になろうと思うのであった。

1992年生まれ、ロシアのハバロフスク出身、兵庫県姫路育ち(5歳から)。見た目はロシア人、中身は関西人のロシア系関西人タレント・コラムニストとして活動中。TOKYO MX「5時に夢中」(水曜レギュラー)、フジテレビ「アウトデラックス」(アウト軍団)、フジテレビ「とくダネ」(不定期出演)など、バラエティーから情報番組まで幅広く出演している。
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