【グラデセダイ57 / Hiraku】アメリカの政権交代が私たちに与えたもの
●グラデセダイ57
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バイデン大統領候補の勝利について私が思うこと
2020年11月7日土曜日、アメリカ合衆国民主党の2020年大統領候補として出馬し、バラク・オバマ元大統領政権で副大統領を務めたジョー・バイデン氏が対抗馬であるドナルド・トランプ現大統領に対し勝利宣言をしました。
しかし現在、歴代アメリカ民主主義の誇りとも言われ、守られ続けていたスムーズ・トランジション(滑らかな政権交代)がトランプ現大統領により阻止され、共和党は未だに勝敗の結果に異議を唱え続けています。
今回は、バイデン大統領候補の勝利について私が思うことをお話ししたいと思います。
くぎづけになった民主党の予備選挙
新型コロナ感染症が蔓延する前、私は民主党の予備選挙にくぎづけでした。トランプ政権に打ち勝つべく、およそ30人の候補者が競い合った選挙は、現代のアメリカならではのレシート(過去の投票歴や私生活の悪行あるいは善行の記録などを「レシート」と呼びます)の見せ合い探り合いで、大盛り上がりでした。なかでも、ミレニアル世代が注目する環境問題、人種問題や国民皆保険制度などに焦点を当てた政策を恥じらいもなく「民主社会主義」として提唱したバーニー・サンダース上院議員が私に希望を与えました。
ひとつひとつの社会問題にはっきりとハイライトを引き、なぜそれが不平等であるかをわかりやすく説明し、さらに解決案を提示するという包み隠さぬスタイルに鳥肌が立つほど感銘を受けたのです。彼のインタビューや討論会など片っぱしからYouTubeで観たほど。「私を過激派だと呼ぶが、過激なのは有色人種や移民を明らかに不公平に扱う政治だ」と彼はよく言いました。まるで自分が今までなんとなく思っていたことや公言するには抵抗がある視点すら堂々と代弁してくれているような彼には、70代という高齢にも関わらず、私を含むアメリカのミレニアル世代たちのサポートが集まりました。歴史上初の黒人大統領となったオバマ大統領が当選した時のような、何かが大きく変わる予感がしました。
そんな中、新型コロナ感染症が爆発し、ソーシャルディスタンスを保つため、キャンペーンの形も変わり、現地投票のありかたも見直され始める情勢の分岐であったのも助けたのか、バイデン氏が民主党の大統領候補に選ばれました。サンダース議員の敗北に私は希望を失いました。
Black Lives Matter運動やパンデミックの渦中、トランプ政権というどす黒い雲が私の頭を覆いました。無難さやこれまでの政治を守ろうとし、はっきりとした政策も持たないバイデン元副大統領に、マイノリティーである私は失望していました。トランプ政権下のアメリカへは一歩も踏み入れないと決心した私は、他の候補者との討論や、政治コメンテーターへの回答も頼りなく映ったバイデン氏について「トランプが勝つだろうな」とズーム越しにいる友だちへも嘆きました。
サンダース支持者たちはバイデン氏の批判を続けました。民主党穏健派から党内派閥による支持率低下の懸念にも「おまえたちはトランプを勝たせたいのか」という怒りの波にも逆らいながら、バイデン氏の政策に声を上げ、プレッシャーを与え続けました。
バイデン氏の勝利宣言に涙したワケ
来たる11月3日火曜日、決選投票日。普段遅くても23時には寝る私は、めずしく深夜までライブ配信やツイッターやニュース記事を行ったり来たりしながら結果を待ちました。それから3日、4日と同じことを繰り返し、ついにカマラ・ハリス上院議員を副大統領候補としたバイデン氏の勝利が明らかになりました。
仲のいい友だちとのグループチャットは拍手と号泣の絵文字で埋め尽くされ、ニュースでは歓喜のあまり街に溢れ出す民主党派の人びとの様子が映し出されました。
バイデン氏に対し、あまり好感を持っていなかった私や友だちも、とにかくトランプ政権の崩壊に喜び、グループチャットは「BYE!」や「GTFO(Get The Fuck Out:出ていけ)」などのキャプションのついたセレブのgif画像で埋め尽くされました。
11月7日のバイデン次期大統領とハリス次期副大統領の勝利宣言の日、私は山梨から新宿への移動中も、毎朝聴いているニューヨークのラジオチャンネルを聴いていました。新宿駅を降りた瞬間、バイデン氏のスピーチが始まりました。バイデン氏らしく、スピーチは教科書通りの内容。トランプ政権によって裂開しきった民主党派と共和党派の再統合を熱く投げかけるものでした。「ああ、やっとまた大統領らしい人が戻ってきたな」と、安心させられました。
すると次の瞬間、彼は思わぬ言葉を並べました。
「このみなさんで作り上げた連立を私は特に誇りに思っています。歴史上一番広く、そして多様な連立。民主党、共和党、無党派、進歩派、穏健派、保守派、若者、高齢者、都会、郊外、田舎、ゲイ、ストレート、トランスジェンダー、白人、ラティーノ、アジア人、先住民族の人びと。本当です。特にあの時、このキャンペーンが減退していたあの瞬間、アフリカ系アメリカ人コミュニティーが私を支えてくれました」
次期大統領として重要な勝利宣言という場で、これだけの政治思想、セクシュアリティー、人種や民族が登場したスピーチに、新宿御苑の木々が生い茂る光景を目にしながら、何があっても涙が出ない私ですら、涙してしまいました。「アメリカという国が、ついに私たちを見てくれた」と感じたのです。サンダース支持者のプレッシャーの声がバイデン氏に届いたのです。
なんでもないようなありきたりに聞こえるスピーチの中には、トランプ政権によって、存在、ましてや命さえも消されてしまう不安感に4年間も駆られていた私たちが確かにいました。これから私たちの存在を認識し、国を建て直していくと約束するバイデン氏と、見過ごされていた私たちの存在と歴史を背負う、史上初のアジア人で黒人のハリス氏が女性副大統領となったのです。サングラスとマスクの下で涙する自分を意識した瞬間、初めて4年間、辛さに耐えていたことに気づきました。自分だけではなく、アメリカで一緒に育った友だちやその家族、さらにはその祖先や私たちのような命が尊重されるように、血を流しながら戦った活動家たちを想いました。
バイデン氏が大統領として就任する日を機に、全てが変わるとは思いません。これからも、サンダース氏が主張したような政策を今まで以上に声を上げて訴える必要があります。とはいえ、トランプ支持者たちが勝敗をひっくり返そうと、まだまだ諦めておらず、安心はしきれません。
ただ、今は久しぶりの安心感と変化への期待を胸に、やっとまた前へ進めるという自由を感じ続けています。
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