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【グラデセダイ49 / Hiraku】杉田水脈議員発言:ゲイ男性の視点から

「こうあるべき」という押しつけを軽やかにはねのけて、性別も選択肢も自由に選ぼうとしている「グラデ世代」。今回は、中村キース・ヘリング美術館プログラム&マーケティングディレクターのHirakuさんのコラムをお届けします。

●グラデセダイ49

2018年にLGBTQに生産性がないため税金を使って支援をすることに問題があると公言した自民党の杉田水脈衆院議員。再び2020年に、女性に対する暴力や性犯罪について「女性はいくらでもウソをつける」との趣旨の発言をしたという話が浮上し話題になっています。 私の周りでは怒りの声やインスタグラムのストーリーでの抗議の声が渦巻いています。

杉田水脈議員発言を客観的に分析してみる

第1回目のコラムでも宣言した通り、私は女性が女性についてどう考えるかに対し、シス男性が表立って口を挟むべきではないと考えています。ですが、私は性犯罪の犠牲になった女性の味方です。そんな女性たちを思いながら、今回はゲイ男性として過去に同じ人物の発言の標的になった経験をもとに、彼女の過去の発言についてお話ししたいと思います。

まず、ゲイには生産性がないという発言を、政治的観念はなるべく持たず、客観的に分析していきたいと思います。

彼女の言う「生産性」とは何でしょうか。コメントの内容を見てみると、同性愛者は子どもを産まないから生産性が低いと言っているように聞こえます。つまり「繁殖性」がないと言うことですね。

統計によると、ストレートの男性に比べ、ゲイ男性の出生率はおよそ80% 減少します。先天的であると言われるホモセクシュアリティですが、果たしてなぜ自然界はこれだけ繁殖力のない遺伝子を人類の進化において残し続けるのでしょうか?

ゲイ男性に与えられた使命とは

我々、霊長類「ヒト」は様々な進化を遂げ、現代に至ります。この進化の裏にはヒトが身に付けた生存方法があるのです。それは、個々の生き残りではなく家族やグループなどの社会性形成に重きをおいたことが、生き残り成功の鍵なのではないかと考えられています。

私たちヒトは他の生物と比べ、優れた言語能力、高い共感力、攻撃的な性質の低さなど、社会性を保つために必要な性質を兼ね備えています。統計的にこれらの性質はゲイの男性に著しく見られるのです。

さらに、近年のエピジェネティクス研究によると、多産で男児を多く産む女性、または男児の出生が多い家系の女性はゲイの男児を産む可能性が高いと言われています。

つまり自然界は、家族やグループが男性で成り立ち、競争や争いの可能性が高まる環境にある場合、母親の持つ遺伝情報の発現を制御するスイッチのオン・オフを操作し、グループの社会性を保つことの出来るゲイの男児を与え、生存の可能性を高めるのです。また、グループの人口増加による養いの負担を和らげる人口調整でもあると言われています。

女性やLGBTQの人たちが安心して暮らすには

G7や国連の人権保護に関する条約などの締約国であるにもかかわらず、日本では現在、LGBTQの結婚はもちろん、差別禁止法の保護も存在せず、国民としてLGBTQ個人の人権を保障していません。また、世界中には宗教的、政治的理由で同性愛すら違法で、当事者を拷問や死刑によって罰する国もあります。しかしナチュラルセレクションによって選ばれたLGBTQ個人の社会における「生産性」は、人類のサバイバルでもあるのです。同性愛が不自然で人間の本来の姿に反していると言う理由付けは、事実ではなく、意見なのです。

杉田議員の発言に対し、個人的に意見はたくさんありますが、あえて述べるとすれば、そもそも人に生産性があるか否かをもとに人権の有無を議論する者に政治を委ねることこそ、国民にとって生産性が低いのではないでしょうか。
今回の発言に対しても、性的犯罪はいかなる状況においても犯罪の原因が犠牲者にあるという考えは、社会的にとても非生産的であり、進歩の妨げとなります。

女性やLGBTQコミュニティー、マイノリティーに対し、他の先進国に比べ後退的な日本。いつになったらこの国に住む人びと全員が安心して暮らせる日が来るのでしょうか。

日本国憲法第14条
すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

参考資料:*O'Keefe, James & O'Keefe, Evan & Hodes, John. (2018). Evolutionary Origins of Homosexuality.

ニューヨーク育ち。2014年まで米国人コスチュームデザイナー・スタイリスト、パトリシア・フィールドの元でクリエイティブ・ディレクターを務め、ナイトライフ・パーソナリティーやモデルとしても活動。現在では中村キース・ヘリング美術館でプログラム&マーケティングディレクターとして、自身が人種・性的マイノリティーとして米国で送った人生経験を生かし、LGBTQの可視化や権利獲得活動に積極的に取り組んでいる。
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